第310話 攻めと守り

 

「三人とも、準備はいい?」


「大丈夫です、ハルト様」

「ハルにぃは、私が守るよ!」

「この四人で乗り込んだら、邪神様もさぞ驚くでしょうね」


 俺たちは今日、邪神の所にいく。


 俺がアイツを殴るためのサポートとして、ティナ、アカリ、シトリーがついてきてくれる。


 ちなみに、神界──特に四大神のいるエリアには強力な結界が張られていて、並の勇者クラスでは、神の許可なしに行くことはできないらしい。


 俺は邪神の呪いの効果で、その結界を無効化できる。


 アカリとシトリーはこの世界での存在が強すぎて、結界に弾かれることがない。


 ティナには一時的に俺の加護を上乗せし、さらに様々な魔具や魔法で強化することで、アカリたちとほぼ同等の存在まで引き上げた。


 ほかにも何人かついてきたいと言っていたけど、やはり危険なので留守番してもらうことにした。


 本当ならティナにも、屋敷で留守番していてほしいけど……。


『守るべき者がいた方が、ハルト様は強くなれますよ』


 ──そう言われて、つれてくことを決めた。



 もちろん、留守番する家族たち向けの備えもしてある。


 悪魔が攻めてきたり、邪神の攻撃が飛んでくるかもしれないからだ。


 留守番するのは──


 リファ、ルナ、メルディ、マイ、メイ、ヨウコ、リュカ、白亜、セイラ、エルミア、キキョウ、シルフ、ルーク、リエル、リューシン、ヒナタ、シロ、テト。


 それからスライム娘たちと、邪神の式神。


 式神は邪神を裏切って、エルノール家の一員になった。



 俺を転生させた後、邪神は眠りについた。


 それで暇になった彼女が人間界を旅行してる間に、俺たちが悪魔を倒しまくったり、シトリーをテイムしちゃったせいで、邪神がかなりキレたらしい。


 だから、うちに逃げてきた。


 彼女が逃げてきた時にいろいろ聞いたのだけど、俺を転生させて創造神様の邪魔をしようってのは、実は式神のアイデアだったらしい。


 俺が死ぬ原因はこの式神だったので、とりあえずデコピンしといた。もちろん魔衣とか纏わず、普通のレベル1のステータスで。


 邪神のこととかをいろいろと教えてくれたから恩赦ってことで、それで済ませることにしたんだ。


 実行犯は、邪神だからね。

 一番悪いのはアイツ。


 うん。そーゆーことにしとこう。



 ちなみに、式神が裏切る心配はない。

 それは創造神様が保証してくれた。


 もともと神々に仕える式神は全て創造神様が創って、それぞれの神様に与えたらしい。


 うちに来た式神も、そのうちの一体。


 そして創造神様が、俺が邪神を殴るのを認めてくださったから、式神が俺を止めることはない。


 式神が俺たちを裏切る必要がないんだ。

 だから式神がくれた情報を、信じることにした。



 そうなると、式神も守るべき対象に入る。


 精霊王級であるマイやメイとか、神獣になっちゃったキキョウを守る必要があるかは、わからないけど……。


 とりあえず、できるだけ守りを固めることにした。



「マイとメイは我が守ろう。ハルトよ、安心して邪神様の所へ行くがよい」


 星霊王を召喚した。


 さらに──


「シルフが守る対象に入ってるの? あの、私もがいいのだけど……」

「ふははは。ウンディーネよ、ハルトの前ではしおらしいな」

「まったくじゃ。あのおてんば娘が、女の顔になっておる」

「う、うるさい!!」


 水の精霊王ウンディーネ、火の精霊王イフリート、土の精霊王ノームを召喚した。



 極めつけは、この御方。


「まぁ。俺がここにいれば、邪神の攻撃は絶対にこないんだけどな」


 ──そう。

 四大神の一柱である海神、ポセイドンだ。

 俺の、昔からの戦友ライバル


 俺が家族を紹介したいと言ったら、屋敷まで来てくれた。


 なにが起きるかわからないので、できる時に家族を紹介しておこうとしたんだ。


 そしたらなんか、そのまま俺の家族を守ってくれることになった。


 この世界で神は神を攻撃できないらしいから、海神がここにいるだけで俺の屋敷が邪神の攻撃に晒されることはない。


 つまり海神は、対邪神用の最強の盾。


 あとは邪神の手先が攻めてくる可能性があるくらいだけど、式神の情報によると有力な悪魔はあと、十五体しかいない。


 まぁ、それは問題ないだろう。


 俺やアカリ、シトリーを除けば、この世界の最高戦力が、ここに揃っているのだから。



「ハルトさん。お気をつけて」

「シトリー。主様を頼むのじゃ」

「「ハルト様、ファイトです!」」

「アカリさんも、お気をつけて」

「四人とも、がんばにゃ!」

「がんばれーなの!!」


 留守番のみんなが、見送ってくれる。


「みなさん、行ってきます!」

「いってきまーす」

「旦那様、では──」


「うん。行こうか!」


 俺たちは邪神の神殿に向かって、転移した。



 ──***──


 少し前、邪神の神殿では──



「くっくっく。何者かは知らんが、来るなら来るがいい!」


 式神が逃げたせいで自分で呪いを仕掛けなければならなかった邪神だが、彼が満足できるだけの準備はできた。


 床に張り付いた魔法陣の周りには、無数の呪いを仕掛けた。


 邪神の座る椅子の周りにも、様々な呪いを用意している。


 それだけではない。


 魔法陣が転移系のものであった場合、転移してくる元を逆探知して、その場に配下の悪魔十五体を送り込むようにしたのだ。


 たとえ勇者が来たとしても、自分がすぐに倒されることはない。そう思える程度には、邪神はこの世界の神として、己の力に自信があった。


 勇者の攻撃に耐えている間に、配下の悪魔が勇者の転移元にいる勇者の仲間なり家族なり、関係者を攫ってくる手筈になっている。


 たとえ勇者が強かったとしても、人質がいれば恐るるに足らず。あとは、どうとでもできるのだ。


 悪魔を一度に十五体も送り込めば、転移元にいるのが勇者の仲間だとしても、捕らえるのはなんの問題もない。


 邪神はそう、考えていた。



 十五体の悪魔たちが送り込まれる先が、人間界で一番場所であることなど、邪神は思いもしなかった。

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