第308話 賢者と魔王と竜の巫女

 

 ちょっと、やりすぎたらしい。


 普段、凛としてるキキョウが乱れてるのが可愛くて……少し、いじめたくなった。


 だから、やりすぎた。


 朝までかけて、数千万の魔力を彼女に注ぎ込んだ。


 その結果──



 朝起きたらキキョウの身体が、ぼんやり光っていた。


 なんか神々しい。


 ──って思ってたら、その通りだった。


 シロに聞いたのだけど、キキョウは『神獣』になっちゃったらしい。


 魔族もステータスボードを出せる。

 それで確認してもらった。


 種族:神獣(九尾)


 ──って、なってた。


 俺はこの世界に、六体目の神獣を生み出してしまったようだ。


 これから邪神の所に乗り込む予定だし、戦力の増強になったので、ちょうどいいかなって思うことにした。



 ここまではいいのだけど……。


 やりすぎたせいで、俺と寝るのを拒む妻が何人か出てきた。


 シルフ、白亜、アカリの三人だ。


 メルディとエルミアが、『ハルトはケダモノになる』って吹聴してるせいだ。


 後でお仕置きしなきゃ。



 シルフたちは、俺が落ち着いたら相手をしてくれると言う。とりあえず一緒に寝てくれることにはなったのだが──


 だいぶ疑われてしまい、ひとりだと危ないということで、シルフ、白亜、アカリの三人と俺で一緒に寝ることになった。


 更に、俺が三人を無理やり襲ったりしないよう、アカリが創り出した紐で拘束されてしまった。


 紐などで拘束されるとステータスが変わる。


 状態:拘束


 となるのだ。


 しかし俺は、ステータスが〘固定〙されている。


 と、いうことは──



「なっ、なんで!? この紐、ティナさんが神話級ゴッズ以上って言ってたんだよ!?」


「俺を拘束することはできないよ。ステータス〘固定〙だもん」


 しっかり結ばれ、俺を拘束していたはずの紐は、簡単に解けた。


「ちょっ、ハルト!? それズルい!」

「分身はズルいの!!」


 俺は神属性魔法の分身を二体作って、アカリから奪った紐で、三人を逆に拘束してやった。


 俺を拘束とかしなければ、本当にただ寝るつもりだった。



 ダメって言われると……なんか余計にやりたくなっちゃう時って、あるよね?


 しかも三人は、俺が大人しく拘束されていたのをいいことに、色々とイタズラを仕掛けてきた。


 まぁ俺は、いくら脇や足の裏をくすぐられようが、まったく効かない。


 ステータス〘固定〙だから。


 くすぐりも、俺が嫌だと思えば攻撃だと判断され、〘固定〙の対処になるみたい。


 いい勉強になった。


 お礼を、しなきゃな。



「ま、待ってハルにぃ。その羽根……な、なんなの!?」


「ああ、これね。神獣フェニックスの羽根」


 何度でも蘇る、不死の鳥。

 シロに紹介してもらって、会ってきた。


 その時、何枚か羽根をもらったんだ。


 この世界のどんなものよりサラサラで、触れた者を癒す効果があるらしい。


 簡単に言えば、とても肌触りが良い羽根。


 それが俺の手元にある。


 そして俺の目の前には、創世級ジェネシスの紐で拘束された、勇者と白竜、風の精霊王がベッドに寝ている。


 三人の服は胸元まではだけているから、足裏と脇腹、それから首筋が完全に無防備だ。


 ここまで来たら、やることはひとつ。


「三人とも、楽しんで」



 俺はフェニックスの羽根で三人を、思う存分、



 ──***──


「旦那様、お願いです。大人しくしていますから、私には拘束や分身やフェニックスの羽根は使わないでください。あと無理やり魔力を注ぎ込むのも、なしでお願いします」


 次の日は、シトリーの番だった。


 フェニックスの羽根はシルフたちにイタズラされたから、その仕返しに使っただけ。


「普通に寝るなら、そんなことしないよ」


「絶対ですよ? 約束ですからね!?」


 なんだかみんな、疑り深くなっちゃったなぁ。


 まぁ、暴走するのを我慢できない、俺が悪いのだけど。


 俺の妻たちが可愛すぎるのだから、仕方ないじゃない。俺だって、男だもの。


 シトリーにも警戒されちゃってる。ちょっとお話しして、打ち解けよう。



「前にも言ったけど……俺、邪神を殴りに行こうとしてるんだよね。シトリーは、どう思う?」


「どう思う……ですか。そうですね──」


 そこまで言って、シトリーが抱きついてきた。


「前は、殴っていいと言いました。でも今は少し、やめていただきたい気持ちもあります」


「邪神への攻撃は、やっぱり嫌ってこと?」


「違います。なんでしたら、私が邪神様を殴りつけてもいいくらいです。私が心配なのは──」


 シトリーが顔を上げ、俺を見つめてくる。


「俺?」


「そうです。相手はなんといっても、この世界の神です。それに、旦那様のお力は、邪神様から与えられたものだというではないですか」


 以前、俺がシトリーに邪神を殴っていいか聞いた時、彼女は俺の力が邪神の呪いによるものだとは知らなかった。


 あれから時が経ち、俺の家族は全員が邪神の呪いについて知ることになった。


「たしかに、邪神に力を奪われたり、もっと強い呪いをかけられたりするかもね」


「だったら──」


「だからさ。もし俺がピンチになったら、シトリーが俺を助けてよ」


「えっ?」


 俺がこれまで、周囲の誰かに助けを求めたことがなかったから、シトリーが驚いていた。


「俺は今、邪神より強い」


 驕ってるわけでも、邪神を侮ってるわけでもない。


「シトリーとアカリも、邪神に勝てるよ」


「えっ……えぇ!?」


 事実として、俺は邪神より強い。

 直感などで、それがわかる。


 その俺が、邪神よりシトリーやアカリの方が強いって理解しているんだ。


「普通に戦えば負けないけど、邪神は呪いとか罠とか、普通じゃない方法で、なにかしてくる可能性がある」


「いざという時は、旦那様を守れ──と?」


「そう。まずは俺が、邪神に突っ込むよ。それで俺がアイツを殴れれば、それでお終い。もし途中で呪いや罠にかかったら、俺を助けて」


 ポカンとしていたシトリーが、笑い始めた。


「たいへんおもしろい作戦です。まさか私が旦那様に助けを求められるなど、思いもよりませんでした」


「そうかな? 俺だって、いつもみんなに助けてもらってるよ」


 家事とかほとんどやってないし、そもそもエルノール家の生活費は全部、ティナが稼いでくれている。


「ふふふ。戦闘面で、ってことです。旦那様は、容易く魔王をテイムするようなお方ですから。私どもがなにかお力になれることなど、ないと思っていました」


「うん。俺だけでなんとかなるなら、それが一番いい。でも、俺はまだみんなと一緒にいたいから、もしもの時は助けてね」


「かしこまりました。私も絶対に、旦那様を失いたくはありませんから」


 それからシトリーと、邪神の所で起きそうなシチュエーションを想定し、いざという時の作戦を相談していった。



 ──***──


「ハルトさん。私で最後ですね」


 ローテーションの最後に、リュカが来た。


「今さらだけど、みんなから話は聞いてるよね?」


「はい。邪神の所にいこうとしてること。それから、その……ハルトさんが、発情期の獣人以上に、ケダモノになるって聞いてます」


 まてぇぇぇぇい!

 待て、まてぇぇぇぇい!


 誰がそんなことを言いふらしたんだ!?


 後半は事実無根だ!



 ……いや、ごめん。

 完全に違うわけじゃないな。


「できれば、やさしくしてほしいです」


 あぁ、そう……。

 リュカの中で俺は、ケダモノ確定なんだな。


 よし、わかった!

 そうじゃないってことを、見せてやる!!


 さすがに十四人も相手してきたんだ。


 もう大丈夫。

 きっと落ち着いて、紳士として振る舞える。



 ──そう思ってた。


「私はドラゴノイドですので、身体は丈夫です。少しくらい激しくされても、多分耐えられると思いますが……」



 そんなことを上目遣いで言われて、我慢できるわけがなかった。

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