第303話 ハルトの決意

 

 時は来た。


 まさか向こうから、俺の近くに来てくれるなんて思わなかった。


 これではできた。


 でもまずは、いざと言う時のために心残りをなくしておかなくちゃ。



 この異世界で無双するって夢は……だいたい叶った気がする。


 どんな魔物であっても一撃で倒せるようになったし、魔人や悪魔にすら苦戦することはない。


 魔王や勇者の全力の攻撃を、軽く防げる力も手に入れていた。


 それだけじゃない。


 竜の巫女や聖女といった、限られた職にしか使えない蘇生魔法リザレクションが使えるようになったし、本来は勇者だけが使える転移だって使える。


 神様たちの世界──神界まで自分の意思で転移するのは、勇者であってもできないらしいが、俺にはそれができる。



 家族もいっぱいできた。


 まずは、ハーフエルフのティナ。

 彼女は俺の専属メイドだった。

 百年前、一緒に魔王を倒したこともある。

 俺の、なにより大切な人。


 続いてハイエルフのリファ。

 彼女はアルヘイムエルフの王国の第二王女。

 お義父さんエルフ王からは宝剣、覇国をもらった。


 王女っていうと、メルディもだな。

 彼女はベスティエ獣人の王国の王女。

 猫系獣人で、手の肉球がすごく気持ちいい。


 メルディと仲の良いルナは、転生者だ。

 俺やアカリと同じ世界から来た。

 どんな文字でも読めるスキルを持ってる。


 アカリは俺の妹

 転生したから、血は繋がってない。

 あと、可愛い。めっちゃ可愛い!

 だから、その……まぁ、そんな感じ。


 ヨウコは九尾狐っていう魔族の女の子。

 尻尾がモフモフで、すごく気持ちいい。

 キキョウとのダブルもふもふは、ヤバい。


 キキョウはヨウコの母親。

 竜神様の、育ての親でもあるらしい。

 大人の色気が、なんかすごい。


 同じく大人の雰囲気のシトリー。

 彼女は魔王だった。

 知らずにテイムしちゃった。

 今は俺の、大切な家族のひとり。


 エルミアは、見た目的には大人だけど──

 なぜかつい、からかいたくなっちゃう。

 顔を真っ赤にしてる彼女が、とても可愛い。


 で、そんなエルミアがベッタリなセイラ。

 セイラはサンクタム聖都で、聖女をしていた。

 今は聖女を辞めて、俺の屋敷にいる。


 聖女以上の回復魔法が使えるリュカ。

 彼女は竜神様の加護をもらった、竜の巫女。

 ドラゴノイドという種族だ。


 竜関係で言うと、白亜もいるな。

 彼女は最強種族の色竜だ。

 ベスティエの、遺跡のダンジョンで出会った。


 マイとメイは精霊族の女の子。

 マイが火の精霊で、メイは水の精霊。

 ふたりは星霊王の娘でもある。


 精霊っていうと、シルフも家族になった。

 彼女は風の精霊王で、世界樹の化身。

 シルフは俺の屋敷に世界樹を生やした。



 ここまで全部、俺の妻。

 うん。自分でも信じられなくなる時がある。


 まぁ、でも……いいよね?

 ここ、異世界だし。


 はい、次。


 屋敷の一番いいソファーをいつも占領してるのは、神獣フェンリルであるシロ。俺が起こしちゃって以来、うちに居候するようになった。


 最近はアカリがつれてきたテトっていう子猫が、シロと一緒に寝てたりする。テトは異世界──つまり俺やアカリがもといた世界の、神様なんだとか。


 俺の親友ルークは、奥さんのリエルと一緒に俺の屋敷に住んでる。リエルはリファの妹だから、ルークは俺の義弟なんだな。ちなみにルークは、イフルス魔法学園の学園長の孫だ。


 リュカの弟のリューシンも、奥さんのヒナタと一緒に俺の屋敷で暮らしている。邪竜に生贄として差し出されたヒナタをリューシンが助けたのがきっかけで、付き合うようになった。そんで昨年、ふたりはめでたく結婚した。



 最後に、我が家のアイドル──スライムガールズを紹介しよう。俺がテイムして、力をあげたら、なんか俺の分身魔法以上に強くなっちゃったスライムたちだ。


 普段は人化して、幼女の姿で屋敷をウロウロしてる。俺の妻たちの、着せ替え人形と化してたりするのだけど……。


 とにかく、可愛い。

 見ていて癒される。

 俺はパパ、妻たちはママと呼ばれている。



 奥さんが十五人。

 娘が五人。

 同居してる家族が二世帯四人。

 ペットが二匹。


 俺を入れて、二五人と二匹の大家族。


 これだけの大所帯なので、いろんな問題があるけど、毎日がすごく楽しい。


 不満は……ないな。

 この世界での生活に、とても満足してる。


 ずっとこのままでもいいかなって思ってる。



 転生した当初は、どうなるかと思った。


 だって異世界転生したのに『チート』がもらえるどころか、いきなり『呪い』をかけられたんだから。


 俺に呪いをかけた邪神は、俺がこの世界で活躍できないようにしたかったそうだ。


 ただ転生先は、なぜか貴族の子供だった。

 活躍させたくないなら、奴隷にでもしとけばいいのにな。


 アイツのやることは、よくわからん。

 職業も、なぜか『賢者』だったし。


 そのおかげで俺は、レベル1の賢者になった。


 邪神にかけられた呪いは『ステータス固定の呪い』だった。この呪い、ステータスの最大値が固定されるんじゃなくて、が〘固定〙される呪いだった。


 魔力をいくら使っても減らないし、攻撃を受けてもダメージが入らない。魔力も体力も〘固定〙されてるから。


 状態が〘固定〙されてるから、毒や麻痺、強制睡眠といった異常状態にもならない。


 おかげで俺は、レベル1の最強賢者になれた。


 最強の賢者になれたから、ここまで異世界生活を満喫できていると言ってもいい。


 つまり俺は、邪神を──


 いや。を、全く恨んでいない。


 それどころか、感謝すらしている。



 でも──


 それでも俺には──



 やらなきゃいけないことがある



 邪神様を──



 殴 ら な い と い け な い。



 恨みはない。

 だけど、俺は邪神様に殺されたんだ。

 死ぬのは、すごく怖かった。


 だからほんの少しだけ、仕返しがしたい。



 大丈夫。相手は神だ。

 しかも海神と同じ、最も強い神様の一柱。


 俺が全力で殴っても、なんともないはず。


 一応、元部下(?)であるシトリーに許可をもらったし、創造神様にも伝えてある。


 創造神様には、できれば手加減してほしいって言われたけど、『一発だけです!』って言ったら『それなら……よいかのぉ』って言ってもらえた。


 だから大丈夫。


 邪神様を、殴りに行く決心がついた。



 それより問題は、相手が神だということ。

 どんな反撃を受けるかわからない。


 もしかしたら、俺が消されるかも……。


 そもそも俺が最強でいられるのは、邪神様のおかげなのだから。


 俺の直感は『大丈夫』だと告げているが──



 それでも、用心はしておくべきだろう。

 この世界でヤれることは、やっておくべきだ。


 なんとなく先延ばしにしてきたけど……。


 そろそろ、いいよね?



 俺は今晩、寝る時に備えて行動を開始した。

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