第291話 勇者とアイテム鑑定

 

 アカリはリファから宝石をもらい、その後少しだけアルヘイム王都を観光して、アプリストスまで転移で帰ってきた。


「リファさんからもらったこの宝石、すっごく綺麗だね」


「アカリ、はやくコレをつかったアイテムつくろ。それを売って、おいしーものたべよ!」


 テトはこの世界の料理を、もっと食べたいと思っていた。昨晩エリザが作ってくれた夕食や、アルヘイムで食べたご飯が、とても美味しかったからだ。


「この世界のご飯、美味しいもんね」

「うん!」

 

 アカリがもといた世界で、特に彼女の国は食のレベルが高かった。そんな、もとの世界の料理と遜色ないくらい、この世界の料理も美味しかった。


 それは百年の月日をかけて、とあるハーフエルフと、彼女を筆頭とする商会がこの世界に美味しい料理を広めてきた成果だ。


「わかったよ、テト。私ももっと、こっちの世界の美味しいものを食べたい」


 そのためにはお金がいる。


 早くお金を稼げるようになろうというテトの意見に、アカリも賛成だった。



 ギルドハウスの自室に戻って机に向かったアカリは、女神からもらったスキルで創ったアクセサリーと、リファからもらった宝石を少しずつ調整しながら組み合わせていく。


 三時間ほどで、彼女自身がなかなか良い出来だと思えるアイテムが八個完成した。


 もとの世界でアカリが『これは売れそう』と判断したものは、その通りすぐに売れていった。オークションに出したこともあるが、かなりいい値段になったのを覚えている。


 きっと今できた八個のアイテムも、高値で買ってもらえるだろう──アカリはそう考えていた。


「アカリ、器用だね」


「女神様からもらったスキルがすっごく便利なんだよ。加工用の道具とか、欲しいなって思ったものが全部創れちゃうんだもん」


 ペンチやニッパー、ピンセット、ヤスリなど、アクセサリーの加工に必要な道具は全て<クリエイトアームズ>で創ることができた。


 もとの世界で使い慣れた道具をそのまま手元に準備できたので、作業が捗ったのだ。


「明日、コレを売りに行こっか」

「さんせー!」


 彼女とテトは、魔王の討伐のためにこちらの世界に来たのだが、アプリストスもアルヘイムも、人々が魔王に怯えているといった気配はなかった。


 魔王の討伐はきっと、そんなに急務ではないのだとテトと話し合って結論付け、まずは準備を進めることにしたのだ。


 その準備には──



「アカリのアイテムがうれたらー、くしやきをいっぱい、たべるんだ!」


 各地を巡って魔王の情報収集をしつつ、その土地の名物を食べ歩くという過程も含まれる。


「もう。テトったら……でも、今日アルヘイムで食べた串焼き、ほんとに美味しかったね」


「ねー! あれ、もっとたべたい! またアルヘイムにいこーね」


「うん。リファさんにも、また会いたいし」


「あー、うん……そうだね」


 なぜかテトは、乗り気ではなさそうだった。


「テト、どうしたの? もしかして、リファさんが苦手なの?」


「んとね……あのひと、テトよりつよいから、なんだかドキドキしちゃうの」


「えっ!?」


 アカリには、リファが普通のエルフにしか見えなかった。彼女は美人だがそれ以外に感じるものはなかったから、神であるテトより強いと言われて驚く。


「もちろんアカリのほーがつよいとおもうけど、テトよりはリファのがつよい」


 強い順で言うとアカリ、リファ、テトになるらしい。


「ま、まって! 私って……テト神様より強いの?」


「もちろん! テトはアカリのあんないやくで、ごえいだけど、ほんきになったアカリは、テトのなんばいもつよいよ」


「そうなの?」

「そーなの」


 アカリは自分の手を見つめる。


 確かに、ステータスボードは勇者(レベル300)となっていて、体力や魔力などの値もよくわからないほど大きな数字が並んでいた。


「私、強いんだ……」


 アカリが安全に魔王を倒せるよう、女神が本気で加護を与えたからだ。



「アカリ、テト……もうねむいよ」


「うん、そろそろ寝ようか。テト、おやすみ」


「おやすみ、アカリ。あしたもおいしいごはん、いっぱいたべよーね」



 ──***──


 翌朝、街の道具屋でアイテムを売ろうと考えていたアカリだったが、どれくらいの金額が相場かわからなかったため、まずはエリザに相談することにした。


「エリザさん、おはようございます」


「おはよう、アカリ。今日はどうしたの?」


 ギルドハウスの一階にあるカウンターで、書類の整理をしていたエリザに、アカリが声をかける。


「昨日、アイテムを作ってみたんですけど、コレがいくらくらいで売れそうか、見てもらえますか?」


「もうアイテムがつくれたの? 早いわね。それじゃ、ちょっと見せてね」


 アカリがカウンターの上に置いたペンダントを手に取り、エリザがチェックする。


「んー、これは──」


 この世界の武器や防具、アイテムは全て、その性能や希少性で以下のような九段階のレア度に分類される。


 創世級ジェネシス

 神話級ゴッズ

 伝説級レジェンド

 古代級エンシェント

 世界級ワールド

 秘宝級アーティファクト

 希少級レア

 製作級メイカー

 一般級コモン


 覇国は創世級、ハルトがティナに贈ったヒヒイロカネの指輪は神話級のアイテムだ。


 ちなみに、まったく同じ材料と道具をつかって作ったとしても、製作者の技量によってレア度は変化することもある。


「お、おかしいわね。鑑定が……」


「鑑定?」


「私ね、アイテムの出来をチェックできる『鑑定スキル』を持ってるの」


 生産系のスキルを高めていった者たちの中に、稀に発現する鑑定スキル。エリザはそれを取得していた。


 鑑定スキルを使うことで、アイテムのレア度を確認したり、性能を詳しく見ることが可能なのだが──


「う、嘘。そんなこと……で、でも、それじゃないと説明がつかない」


「エリザさん。どうしたんですか?」


「アカリの作ったアイテムね。鑑定ができないの」


「そ、それって……鑑定ができないくらい、出来の悪いアイテムってことですか?」


 自信作だったのだが、それらが鑑定できないほどの駄作だと判断されたと思い、アカリは悲しくなった。


「違うの。どんなに出来が悪くても、鑑定すると『ゴミ』か『一般級』って表示が出るんだけど……アカリのは、どちらでもない」


「それは、なんでですか?」


「私ね、世界級のアイテムまでしか鑑定できないのよ」


 そもそも鑑定スキルを持つヒトの数が少ない。秘宝級のアイテムを鑑定できる鑑定士ですら希少なのだ。


 エリザはその中でも、世界級のアイテムまで鑑定できる優れた鑑定士だったのだが、そんな彼女でもアカリが作ったペンダントは鑑定できなかった。


 それが示すことはつまり──



「アカリが作ったこのアイテムが、少なくとも古代級、もしかしたら伝説級や神話級かも知れないってことなの」


「えっ……えぇ!?」


「やったね、アカリ。これで、くしやきいっぱいかえるね」


 驚くアカリやエリザと対照的に、テトは美味しいものが食べられそうだと気づいて嬉しそうにしていた。

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