第283話 直感と超直感

 

「カイ兄、レオ兄。ふたり揃って、どーしたの?」


 ミウの家からちょっと離れたところまで来たふたりのもとに、俺だけ移動して話しかける。


 カインはこの国、グレンデールの王様の親衛隊長で、レオンは王国騎士団の部隊長だ。


 ふたりとも、かなり多忙なはず。


 そんなふたりが揃ってここに来たので、なにかあったのではないかと考えた。


「カイ兄が、ヤバそうな呪いが広まりそうだって言い出したから、その調査のために来たんだ」


「えっ」


 それって『死後拡散の呪い』のことだよな?


 この村って王都からちょっと離れてるけど、ここまで超直感の効果範囲内なんだな……。


 俺の直感は、どこかでヤバいことが起こりそうとかそのくらいのことしかわからない。


 その事象に対して直接目視できれば、もう少し詳しく直感が働くって感じだ。


 それに対してカインの超直感は、まるで未来予知。どこかでいつか──とか、そんな曖昧なものじゃなく、この村で今日ヤバいことが起きそうだってことを、正確に把握していたのだから。


「まぁ、ハルトがここにいるから、既に解決済みだとは思うんだけどな」


 そこまでわかるのか。

 カインの超直感、便利すぎるだろ。


「うん。ついさっき、なんとかなったとこ」


「そうか……。この国の──いや、この世界を救ってくれて、ありがとな」


「えっ!?」

「えっ……あ、あぁ。うん。どういたしまして」


「カイ兄、世界の──って、どういう意味?」


「そのままの意味だよ。ハルトがなんとかしなきゃ、世界の半分の人口が死ぬ。多分、そんな呪いが広まりそうだったんだと思う」


「は、はぁ!?」


 カインの超直感の精度が、凄いというレベルを通り越して、もはや怖い。


「カイ兄の超直感……凄すぎ」


「俺の超直感がヤバいって言ってる呪いを、このスピードで解呪しちゃうハルトの方が凄いと思うけどな。ちなみにあそこの少女が持ってるアレ、世界樹だろ?」


 ちょっと離れたところで、ミウが大事そうに抱えている鉢を指差しながらカインが言い当てる。


「せ、世界樹!?」


「そこまでわかるんだ。カイ兄の言う通りだよ。なんか色々あって、生えちゃった」


「生えちゃったって……」


 そう言ってレオンは固まっていた。


「あんな小さな子に世界樹を任せる気か? なんだったら俺が、国で管理させようか?」


 カインはミウから世界樹を奪って、それを自分たちの利益のために使おうとか、そーゆーことを考える人じゃない。


 それは、弟である俺だからわかる。

 でもとりあえず、説明はしておこう。


「世界樹って、ある程度大きくならないと恩恵がないんだ。そんで、ある程度大きくするためには、特殊なアイテムが必要なの」


「へぇ。そうなんだ」


「……その特殊なアイテムをハルト、お前なら作れるんだな」


「えっ!?」


 レオンはここに来てから何回も驚いて、俺とカインの顔を交互に見るってのを繰り返してる。


 俺の直感によると、レオンはあと一回『えっ!?』って言う。


「まぁ、そんなとこ」


「で、その特殊アイテムはお前のそばだと勝手に作れちゃうから、あの世界樹をお前の近くに置いとくのはマズいと判断したってことだよな」


「うん」


 話が早いなー。


「そんなわけで、アレはミウにお任せしたの。あっ、ミウってのは、鉢を持ってる少女のことね。彼女やその子孫が普通に育てても、数千年は全く育たないんじゃないかな」


「あぁ、俺の超直感もそう言ってる。だけど、わかる奴にはアレが世界樹だって気付かれる可能性があるだろ」


 確かにその可能性はある。


 シルフにオーラを抑えてもらったとはいえ、カインはアレが世界樹であることに気づいたのだから。


 でも──



「大丈夫だよ。アレが世界樹だって気付けるのは、カイ兄くらいだから」


「そ、そうか?」


「うん。だってレオ兄の眼でも、アレが世界樹だなんてわかんないでしょ?」


「あ、あぁ……。俺には、ただその辺に生えてる草と変わらないようにしか見えない」


 チートスキル級の観察眼を持つレオンでも、アレが世界樹だとは判断できないという。


 それもそのはず。


 そもそも芽の時点で、世界樹はオーラをほとんど纏わない。


 成長した世界樹は周囲へ様々な恩恵を振りまくが、芽の段階の世界樹にそんな力はない。


 また、龍脈が地上に出ているような超高密度な魔力が湧き出る土地でなければ、世界樹は育たないらしい。


 そして、そんな土地はアルヘイム以外にはない。俺の屋敷は、例外だけど……。


 それに加えて、僅かなオーラを世界樹の化身であるシルフが完全に消してくれた。


 ミウがアレを龍脈クラスの魔力が湧き出る土地まで持っていって、そこに埋めることでもしない限り、アレはただの成長の遅い植物でしかないのだ。




「ヤバそうな呪いは解呪されてたわけだし……俺らはこれで帰るか」


「あぁ。そうしよう」


 ふたりが帰ろうとしていた。


 レオンがもう一回、驚いてくれると思ってたんだけど……。



 あっ!

 あることを思い出した。


「俺の屋敷には、ちゃんと育った世界樹あるから」


「「えっ!?」」


 よし!

 ノルマ(?)クリアだ。



「もしエリクサーとかの材料で世界樹の葉が必要なら、うちに取りに来てね」

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