第282話 カタラの雫の効果
「とりあえず作ってみたけど……
ルナが持つ本の通りに作ったとはいえ、かなりの力を秘めた素材をふんだんに利用して作ったアイテムなんだ。
もし、なにかミスをしていていたら──
一般的な人族であるミウの母親に、どんな影響があるのか予想もできない。
直感では『大丈夫』って、わかってるんだけど、やはり他人に使うのは気が引ける。
だから、自分たちで試すことも考えた。
どんな呪いでも解呪するアイテム。
まず俺が、少し飲んでみた。
しかし、効果はなかった。
俺のステータスは──
状態:呪い(ステータス固定)〘固定〙
と、なったままだったんだ。
でも少し、ほっとした。
俺は今、ステータスが〘固定〙されているからこそ、色々と無茶をできる力を持ってるんだから。
「どんな呪いでも解く究極のアイテム──といいつつ、ハルトさんの呪いは解けなかったわけですからね……同じく邪神の呪いである『死後拡散の呪い』に効果があるのか、確かに不安です」
──そう。
俺の呪いにだけ、効かなかったのか。
もしくは作る段階でなにかミスをしていて、そもそも解呪の効果がないのか。
「ですが、ハルトさんがかけられている『ステータス固定の呪い』は、この本にも載っていません。カタラの雫でも解呪できないような、とても強い呪いなのではないでしょうか?」
「うん。そうかもね」
可能性はある。
俺がかけられたステータス固定の呪いは、神々がこの世界を創った時にも使用を想定されなかったほど、強力な呪いなのではないだろうか。
そうでもなければ、いくらでも魔力が使い放題になるような効果が得られるとは思えないからだ。
「本には死後拡散の呪いの解呪方法って載ってるわけだし、使ってみようと思うのだけど……」
でも、いきなり肉体的に脆弱な人族に使うのはちょっと怖い。
リューシンあたりに試してもらおうかな、と考えていると──
「ハルトさん! 次のページに、ちゃんとできてるか確認する方法が書いてありました」
「おおっ。なにをすればいいの?」
「えっとですね。まず、世界樹の実を用意します」
「はい。用意しました」
精霊界にはまだまだストックがあるので、そこから世界樹の実を取り出す。
「これに魔力を注ぎ込んで、『種』にします」
変化が出るまで世界樹の実に魔力を注ぎ込む。
なんか、ぼんやりと輝き始めた。
「これでいいかな?」
「僕が作る時、すごく苦労したのに……」
シルフが呟いた。
彼女も、種を作ろうとしたことがあるらしい。
「まぁ、そうだよね。ハルトだもんね」
なんかわからんけど、自分で納得していた。
「ルナ、次は?」
「えーっと、地面に植えます!」
言われた通り、ちょっと地面を掘ってそこに種を埋めた。
「それにカタラの雫をかけます──って、え!?」
「ん?」
なにかにルナが驚いていたが、既に俺はカタラの雫を一滴、世界樹の種を埋めた地面に落としてしまった。
その瞬間、地面から芽が出てきた。
どこかで感じたオーラを纏っている。
こ、この感覚──
世界樹か!?
どうやら俺たちは、世界樹を芽吹かせてしまったようだ。
「カタラの雫って……世界樹を芽吹かせるのに必要なアイテムでもあるみたいです」
「へぇ。そうなんだ」
「うちのお風呂の残り湯と、同じ効果なんですね」
「あー、そうだね」
ん? あ、あれ?
──てことは『凄湯』で良かったんじゃね?
我が家のお風呂の残り湯に、俺は凄湯という名前をつけていた。
それは、とてつもない魔力を含んだ液体だ。
「まぁ。お風呂の残り湯をミウのお母さんに飲ませるわけにはいかないから、これを作れて良かったんじゃないかな?」
「そ、そうですね」
ヨウコの髪やリューシンの鱗が入った液体であることは、あまり考えないことにしておこう。
一応、素材は全部念入りに洗ったから、大丈夫だと信じることにした。俺もさっき飲んだけど、変な味はしなかった。
ただ、カタラの雫を飲んだ時、なぜかセイラが赤面していたのが気になる。そういえば俺は、聖水の作り方を知らない。
あの、セイラさん。
こっそり聞いてみたが、顔を真っ赤にして答えてくれなかったので、ちょっとモヤモヤした。
世の中には、知らない方がいいこともある。
このことは深く考えないことにしよう。
その後、俺たちはミウの母親にカタラの雫を飲んでもらった。
無事に邪神の呪いを解呪することができた。
体調も問題ないようだ。
「ハルトさん、お母さんを元気にしてくれて、ありがとうございます!」
「うん。良かったね、ミウ」
「おかげさまで、身体が凄く軽くなりました。本当に、ありがとうございました」
「治ったばかりですので、無理はなさらないでくださいね」
「はい。これ以上この子に、心配かけられませんから」
「そうだ、ミウ。俺たちに依頼するので、お小遣いを全部使っちゃっただろ?」
「そうですけど……いいんです。こうしてお母さんが、元気になったんですから!」
ミウは本当に、いい子だなぁ。
「ミウにお願いしたいことがあるんだ。それを聞いてくれるなら、コレはミウに返すよ」
ミウがギルドに払った依頼金より、少しだけ増やしてある。
まだ依頼の達成報告してないから、俺たちは報酬を受け取っていない。
だからコレは、俺のお小遣いから出した。
「お金なんてもらわなくても、ハルトさんたちのお願いならなんでもします! そ、その、私のできることなら……ですが」
「ミウでもできるよ。
そう言ってミウに、世界樹の芽がちょこんと出ている植木鉢を手渡した。
鉢は俺が、土魔法で作ったものだ。
「これは、なんですか?」
「すごく大きくなる植物なの。でも、育てるのに時間がかかるんだ。もしかしたら、ミウの子供や孫の代までかかっても、全然おっきくならないかも」
「これを育てればいいんですね?」
「うん。毎日、水をあげるだけでいいから。もし枯れちゃっても大丈夫だから」
俺の近くに置いておくと、この世界樹も大きく成長してしまう可能性があった。かと言ってわざと枯らしてしまうのはかわいそうだ。
というわけで申し訳ないけど、ミウに押し付けちゃうことにした。
「わかりました。大切に育てます!」
「よろしくね、ミウ」
ミウが引き受けてくれてよかった。
とてつもなく長い時間をかけて周囲の魔力を吸いながらゆっくりと成長していくのが、本来の世界樹だという。
ちなみに世界樹は、芽の状態ではあまり価値がないらしい。多分、コレを狙ってくる輩はいないと思うけど……。
念のため、これが世界樹だとわからないよう、オーラっぽいのはシルフの力で隠してもらった。
それで俺にも、これが世界樹だというのがわからなくなった。
さらに念には念を入れて、非常時に炎騎士が召喚される魔法陣を、ミウと彼女の母親、そして世界樹の芽に付けておく。
よし、こんなもんかな。
「ミウ、これで依頼は完了です。もし問題がなければ、ここにサインをください」
「は、はい!」
ギルドの依頼書の、依頼達成確認欄にサインをしてもらう。
ミウがサインが書き終わった時──
「やはりハルトだったか」
「本当にハルトがいるのかよ……」
俺の兄、カインとレオンが現れた。
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