第281話 祖龍
時は遡り、ハルトたちがミウの母親の呪いを解く方法を知った直後──
彼らは『カタラの雫』という解呪のアイテムを作ることにした。
このアイテムを作るのに必要な素材が、創世記に書かれたという本に記されていた。その本をルナが読み上げる。
「カタラの雫を作るために必要な素材ですが、まずは九尾狐の毛です」
「主様、これで良いかの?」
ヨウコが自分の髪を抜いて、ハルトに手渡した。
「ヨウコ、ありがとな」
「続いて、色竜の鱗」
「ルナ、黒竜でもいいの?」
「えっと……はい。色竜であれば、種は問わないようです」
「そっか。じゃあ──ふんっ!」
いきなりリューシンが、自らの腕の鱗を剥がした。
「うぅ。い、痛ぇ……ほら、ハルト」
「リューシン、すまん。今、ヒールを──」
「ヒール!」
ハルトより早く、ヒナタが回復魔法をリューシンにかけた。
「リューシン様、大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「あぁ。ヒナタ、ありがと」
「リューシン様が自らすすんで鱗を剥がしたの、すごいと思います。偉いと思います。だからこれは……その、ご、ご褒美です」
そう言いながらヒナタが、リューシンの頭を優しく撫でる。
ちょっと照れているが、リューシンは嬉しそうにしていた。
「ルナ、そのほかに必要な素材は?」
「聖水と、世界樹の実も必要です」
「どっちもストックがあるね」
そう言いながらハルトが空間に穴をあけて、精霊界にストックしている大量のアイテムの中から、聖水の入った瓶と世界樹の実を取り出した。
「聖水のほかにもうひとつ液体で、『霊水』というのが必要なんですが──」
「「ハルト様、これをどうぞ」」
マイとメイが、ハルトに液体の入った瓶を手渡す。
「これって、霊水?」
「「はい!」」
「霊水って、水の精霊王しか作り出せないアイテムのはずなのですけど……」
ルナが小声で呟いた。
「マイ、メイ、ありがと。ルナ、ほかにも何か必要な素材はある?」
「は、はい。最後のひとつ、祖龍の爪です」
「祖龍?」
「おおじい様のことなの!」
「唯一、魔界で暮らす魔物ですね。本来は魔物などと括れないほどの存在なのですが……」
白亜やシトリーは、祖龍のことを知っていた。
祖龍は、始まりの魔物と呼ばれている。
悪魔や魔人は邪神の力で生まれるが、魔物や魔獣の多くはマナから発生する。そのマナは全て、世界中に張り巡らされた龍脈から漏れ出たものだ。
龍脈を管理し、マナを魔力に変換しているのは精霊たちだが、龍脈にマナを送り込んでいるのは、祖龍という一体の魔物だった。
「じゃあ、魔界に行かなきゃいけないのか」
「そうなのですが……魔界に行ったとしても、祖龍に会えるとは限りません」
「シトリー、どういうこと?」
「祖龍は魔界にいると言われていますが、我ら悪魔であっても、祖龍を見たことのある者はいないのです」
「私たちもそーなの。おおじいさまは新たに竜が生まれると祝福の言葉をくれるのだけど、その姿を見たことある竜は今、一体もいないの」
「そんな……」
カタラの雫を作るための最後の素材だけ、入手が不可能であることを知り、ハルトが落胆する。
「なんとか、ならないかな」
と、ここであることに気が付いたハルトが、地面に手をつく。
「ハルト様、何をなっさっているのですか?」
「世界の魔力は全部、その祖龍から流れてきてるんだろ?」
「そうだね。実際は祖龍が流してるのはマナで、それを僕ら精霊が魔力に変えてるの」
ハルトの質問に、精霊王シルフが答える。
「てことは、この世界を流れる龍脈の元をたどれば、祖龍の居場所がわかるかなって」
「い、いくらハルト様でも、それは無理かと」
ティナが言うように、普通は龍脈から祖竜の居場所を特定するなど、絶対に不可能だ。
──そう。
この賢者は、普通ではなかった。
九尾狐や魔王を従え、四属性すべての精霊王と契約を結んだ。そればかりか並みの精霊を、自らの魔力をもって精霊王級に進化させたこともある。
更に神の文字を使い、神界にも自由に出入りする。
なにより彼はとある理由から、この世界に生きる誰より、祖竜との結びつきが強かったのだ。
だから、できてしまった。
「あっ、これかな?」
賢者は、祖竜の居場所を特定した。
その瞬間──
「ハルト様!?」
ハルトは周囲の空間ごと、どこかに
──***──
「こ、ここは?」
ハルトの身体に転生してから、自分の意思以外で転移したのは初めてのことで、彼は戸惑っている。
「お前から我に接触してるのは、久しいな」
「──っ!?」
突然、ハルトの頭上から声が降ってきた。
彼の目の前に巨大な壁があったのだが──これは壁ではなかった。
巨大な生物の、腹だったのだ。
ハルトは今、壁の様に切り立った崖の上に立っている。その彼の前に、常軌を逸するほどの巨大な龍がいた。
「久しぶりに遊びに来たというのに、何を呆けておるのだ?」
巨大な龍が、顔をハルトに近づける。
ステータスが〘固定〙されているハルトでなければ、その呼気だけで吹き飛ばされかねない。
「そ、祖龍様ですか?」
「そうだが……ん? お前もしや、
最初のという祖龍の言葉の意味がわからなかった。ハルトには、祖龍に会った経験などないのだから。
「最初の……とは?」
「わからんならそれで良い。それで確実に、お前が最初であるとわかる」
全く回答になっていないことを言われ、ハルトは混乱していた。そんなハルトをよそに、祖龍が動いた。
「最初のハルトよ。お前に貸してやった力を今、返してもらうとしよう」
そう言いながら、祖龍が息を吸う。
周囲の大量の空気とともに、ハルトから膨大な魔力が奪われた。
奪われた──と言っても、邪神の呪いでステータスが〘固定〙されているハルトにとって、全く意味のないことだ。
「我が貸してやった力、確かに受け取ったぞ。あぁ……お前からしたら、未来のことになるのか」
「あの、いったいどういうことでしょうか?」
「まぁ、今はわからずとも良い。次にお前がここに来た時、遠慮せずに我から力を借りろということだ」
話の流れがわからず、そして目の前にいる祖龍の存在に圧倒され、ハルトはそれ以上問いかけることはできなかった。
「確かこの時のお前は、我の爪を欲しておったな……ほれ、これでよいか?」
祖龍は巨大な爪の先端を自らの牙で砕いて、それをハルトの前に置く。
「あ、ありがとうございます!」
ハルトは未だに状況が理解できていなかったが、目的の素材を手に入れた。
「うむ。今回は、あまり時間がないのだろう? またお前が遊びに来るのを、楽しみに待っておるぞ」
その言葉を発した祖龍が、ハルトを元の場所へと転移させた。
ハルトがいなくなった空間で、祖龍が呟く。
「次に会うのは、一万年ほど先だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます