第276話 E級の依頼と、それぞれの想い
俺たちはスライムを倒し、無事にE級冒険者になることができた。
E級に昇格してもこれまでと変わらず、なるべく人気のない依頼を消化するようにしている。
ギルドポイントも順調に貯まっているし、エルノール家のみんなが日に日にたくましくなっているのが嬉しい。
何日もかかるような依頼で、ずっと外にいることもあった。転移で屋敷まで帰ればいいのだが、あえてそうしなかった。
野宿など、普通の冒険者たちがするようなことを、みんなに体験してもらいたかったからだ。
地面で寝るのは抵抗があるというメンバーも多かったが、みんなで一緒に星を見上げながら寝るのは楽しかった。いい経験になったと思う。
交代で見張りをするというのもやった。
俺が一晩中起きてて、みんながひとりずつ起きてきて、俺と会話をしながら見張りをするっていう方式にしてみた。
野外なので解放感がある。
そして夜。
いつもと違う雰囲気で、普段は聞けない色んな想いや気持ちを、みんなから聞くことができた。
ティナとは昔、俺が守護の勇者だった時に、こうして野営したことを懐かしんだ。あの頃は今より命がけの野宿だったけど、ティナとふたりだったから頑張れたんだ。
リファには、そろそろ子供が欲しいとせがまれた。顔を真っ赤にしながら訴えてくる彼女が、可愛かった。
ヨウコは尻尾で俺を包みながら、俺と主従契約を結べて良かったと言ってくれた。暴走することなく、母であるキキョウと暮らせている今が最高に幸せだと。
マイとは少し、炎を手元に出して遊んだ。夜の火遊びは本当は良くないけど、だからこそワクワクしてしまった。
メイは、マイと一緒に俺と契約できて幸せだと言っていた。いつもはマイがメイのことを気にかけている感じなのだが、実はメイもマイと一緒にいたいという想いが強いのだと知った。
リュカとは、リザレクションのことで色々話し合った。俺も魔力が通ってるモノを治せる蘇生魔法が使いたいって相談したのだけど、やはりアレは竜の巫女だけのものらしい。
メルディには、手のひらマッサージをしてあげた。俺が久しぶりに、彼女の肉球を堪能したかったから。気持ちよさそーにしてくれてたから、問題はないよな?
シルフは見張りに来たのだけど、俺の膝に頭を置いて少し眠り、次のセイラと交代した。なにしに来たんだよ……。まぁ、寝顔が可愛かったから、良しとしよう。
セイラには、俺が守護の勇者だった時、彼女の命を救った時から好きだったと告白された。お互い、なんだか恥ずかしくなってしまい、それ以上はあんまり話せなかった。
セイラが顔を赤くしながら交代したから、次のエルミアには、セイラとの間になにがあったのか問いだたされた。ちょっとしつこかったから、強引にキスしたら大人しくなった。
シトリーには、自分が魔人ではなく悪魔で、邪神に加護をもらった魔王なのだと教えてもらった。そんな彼女でも、愛せるのかと聞かれた。
今更だろ?
シトリーは俺の家族だ。
たとえ魔王でも、愛してる。
──そう言ったら、シトリーが泣き出してしまった。
今までずっと、魔王であることを俺に隠してきたのが、心苦しかったという。
ごめんな。
もっと早く気づいてあげられればよかった。
……あっ。そうなるとアレか?
シトリーを生み出したのは邪神様だから、ご挨拶に行かなきゃいけないのか?
今は恨んでないけど、俺は邪神様に殺されたのだから、とりあえず一発殴ろうって思ってたのに……。
さすがに、お義父さんは殴れないよな?
──そんなことをシトリーと話した。
彼女は『殴っちゃえばいいと思います。でも、一発だけにしてくださいね』と笑顔で言ってくれた。
次に見張りに来たシロは、もっと自分を構えと訴えてきた。神獣であるプライドがじゃまして、俺とメルディ以外に撫でてくれと頼めないらしい。ちょっと萌えた。
白亜とは、ダンジョンのことで話が盛り上がった。フロアの構成から、罠やギミックの配置、アイテムのドロップ率など。
たまにベスティエのダンジョンの様子を、白亜とふたりで見に行っている。最近は一般の冒険者たちも挑戦するようになり、かなり順調だ。
キキョウからは、ヨウコの父について教えてもらった。昔、怪我をしていたキキョウを助けてくれた人族の男で、どことなく雰囲気が俺に似ていたという。
二百年も前のことなので、既にその男は死んでいる。ヨウコに封印されていたため、キキョウはその男の墓の場所も知らないと言っていた。
次はルークとリエルが来た。俺がいるのに、途中からイチャつき始めやがった。仲が良さそうでなによりだ。
交代する時、リエルがひとりで戻ってきて『最近ハルトさんが相手してくれないって、ルークさんが嘆いてました。たまには相手してあげてくださいね』って言ってった。またルークとふたりで、ゲテモノ屋台巡りしなきゃなって思う。
リューシンとヒナタからは、結婚のことで色々と相談された。そうか、結婚を考えてるんだな。是非とも幸せになって欲しい。俺は全力で応援する。
ふたりが結婚する最大の難関が、リューシンの母ククルカだという。でもリューシンの気持ちが本物なら、なんとかなると思う。
頑張れ、リューシン。
スライム娘たちはみんな、ぐっすり寝てたので、交代の見張りからは除外された。
最後にやってきたのは──
「こんばんは。ハルトさん」
「ルナ、こんばんは──って言っても、そろそろ日が昇るけどね」
空が白んできた。
「ふたりっきりでお話しするの、なんだか久しぶりですね」
「うん。そーだね」
ふたりで座って、太陽が昇る方角を眺めていたら、ルナが頭を俺の肩に預けてくる。
「ハルトさんは……元の世界に戻りたいって思ったりしますか?」
なんだかとても寂しそうな声で、ルナがそう聞いてきた。
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