第275話 また……ハズレ?

 

「カイ兄、これで何度目だよ?」


「悪かったって。だからこうしてお前と、お前の部下たちをつれて、俺の奢りで飲みにきてんだろ」


 カインが後ろを振り向くと、レオンの部下である王国騎士の隊員たちが、酒を飲んで大いに騒いでいる。


 ちょっとは遠慮しろよ──カインがぼそっと、そう呟いた。



「あぁ、そのことに関しては大丈夫だ。アイツら、仕事もせずにタダ酒飲めて、満足してるだろうからな」


「なら、いいじゃねーか」


「別に俺や部下たちが、無駄足踏まされるのが問題って言うんじゃないんだ。国に迫る脅威を取り除くのは、俺たちの仕事だからな」


 ハルトの兄レオンは、王国に仕える騎士たちを率いる部隊長になっていた。最年少で部隊長になった彼には現在、三十人の部下がいる。


 また、レオンとハルトの兄カインは、この王都に迫る脅威を、超直感スキルで感じ取ることができる。しかし、彼はこの国の王の親衛隊長であるため、自由に王都から出ることはできない。


 そのためカインがレオンに頼んで、王都に迫る脅威を取り除いてもらったことが、これまでに何度かあった。


 ここ最近も数回、カインがレオンに魔物の討伐を依頼したのだが──

 


 その全てで、レオンが部下をつれて出撃する前に、カインがそれを止めた。


 討伐対象が、消えてしまったから。


「カイ兄の超直感がここまで外れるってのが、かなりヤバいんじゃないかと俺は思ってる」


 レオンは、カインの不調を心配していた。


 魔物は放置しておくと、強く成長してしまう個体が多い。逆に言えば、早めに討伐することで被害を抑えることもでき、討伐する者の負担も少ない。


 カインの超直感は、強い魔物が発生しそうな予兆を教えてくれる。それにこの国は、何度も救われてきたのだ。


 そのカインの超直感が当てにならなくなってきたことを、レオンは心配していた。



「実は、直感が外れてるわけじゃないんだ」


「……どーゆーこと?」


「魔物は確かに出現してる。でも、それの討伐をお前に依頼してるうちに、誰かがそれを倒してるってこと」


「は? えっ、だって……俺に討伐を依頼するような魔物だろ? いったいだれが、そんな魔物を倒せるって言うんだよ!?」


 レオンは強かった。


 この国の兵士で、一番強いのはカイン。

 その次が王国騎士団長。

 三番目がレオンだ。


 カインと王国騎士団長はその役職上、自由に動くことができない。魔物の出現が分かっていたとしても、彼ら自身が即座に出陣するということはまず不可能。


 だから、ある程度自由に動ける兵士としては、レオンがこの国で一番強い。


 そのレオンが動く前に、誰かが脅威を取り除いていた。


 しかし、得体の知れない戦力は、それ自体が脅威となりかねない。


「カイ兄は……心当たり、あるんだろ?」


 カインがなにかを隠していることを、レオンはなんとなく気づいていた。


「……ある。けど、確証はない。俺のスキルは、所詮はただの直感だからな」


「わかった。じゃ、次にカイ兄が強い魔物が出ることを感じたら、俺がとにかくその場に行ってみるよ」


「部下をつれていかない気か?」


「そうだな。部下たちに出撃準備させてると、どうしても動きが遅くなっちまう。だから次は、俺ひとりでいく。もちろん、無理はしない」


 弟に危険なことはさせたくないが、それでも自分のスキルを信じられなくなってきていたカインは、レオンの提案を受け入れることにした。


「わかった。ヤバそうなら、すぐに逃げてこいよ?」


「あぁ、そのつもり。ちなみに、カイ兄の超直感だと、その強い魔物を倒してるのは誰なの?」


「えっと……それは、だな──」


 カインの超直感は稀に、彼にビジョンを見せる。


 A級危険度の魔物が出ると感じた時、その魔物はオーガであるというビジョンが見えた。


 そしてオーガを、粉々に斬り刻む人物も──



 それは、カインがよく知る人物。


「ハルトだ」


「え?」


「俺らの弟、ハルトだ。アイツが魔物を倒してる」


「……ハルトはまだ、魔法学園の生徒だぞ? さすがにこの王都近くの魔物を倒すのって、無理があるんじゃ──」


「ハルトは今年、十五歳になった」


「う、うん。そうだな」


「ってことは、冒険者ギルドに登録できる」


「……冒険者ギルドに登録したハルトが、ギルドポイント稼ぎのために、俺が出撃しなくちゃいけないクラスの魔物を倒してる──ってこと?」


「そーゆーことになるな。ちなみに超直感によると、アイツはまだEランク冒険者だ」


「はぁ!?」


 中途半端な情報しか得られず、レオンの中の疑問はどんどん膨れていった。



「とりあえず、次に強い魔物が出るって予感したら教えるから、行ってこいよ。多分、そこにハルトがいるから。そしたら本人に色々聞いてくれ」

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