第273話E級昇級試験(再挑戦)

 

 翌週


 俺たちは、再びE級冒険者への昇級試験を受けにきた。


 前回同様、試験監督はB級冒険者のヨハンさんがやってくれるみたいだ。


「ヨハンさん、よろしくお願いします」


「あ、あぁ……その、なんだ。今回は頑張れよ」


「はい。みんなもスライムに負けて、かなり悔しがってました。この一週間、全力で特訓してきたんです。その成果を、見ててください!」


「お、おぅ」


 最弱の魔物であるスライムに負けたというのは相当応えたようで、ヨウコと白亜、リューシンはベスティエにある遺跡のダンジョンに入り浸り、猛特訓をしていた。


 他のメンバーも、それぞれ己の力を磨いてきた。


 今回こそは、昇級試験を突破できるはずだ!


 ちなみに前回、俺たちに勝ったスライムたちは今、幼女の姿になって円形闘技場の観客席で、俺たちを応援してくれてる。


 四人の幼女が応援用の旗を一所懸命振ってる姿は、見ていて力が湧いてくる。


 ちなみにもうひとりは今、別のところで待機している。彼女には、やってもらわなきゃいけないことがあるからな。


 彼女ら五体──いや、もうずっとヒトの姿でいるからか。


 彼女ら五人は、前回の昇級試験後にエルノール家の家族になった。


 完全に人化したおかげで、普通に会話も可能。


 そして多分、彼女らは炎の騎士より強い。


 そんなわけで、パーティー単位で行動する時は、ひとつのパーティーにつきひとり、スライム娘が随伴するようになった。


 しかも彼女らは体内に、無限の収納スペースも持っているようで、収集したアイテムを預けておくのにも役に立ってくれる。


 リューシン以外に直接攻撃しなかったので、うちの家族には簡単に受け入れられた。


 リューシンは魔衣を使えるスライムを師匠と仰ぎ、魔衣のイロハを教えてもらってたみたいで、彼もスライムと仲良くなった。


 そんで、すげー強いのだけど、ちっちゃ可愛いスライム娘たちは、エルノール家のアイドル的存在になっている。


 行動も幼女そのもので、見ていて癒される。


 上着と間違えてズボンを着ようとしてしまい、頭が出ずに『あぇ?』と首を傾げる様子を見ていた俺とティナは、ふたりして萌え死ぬかと思った。


 何気ない行動のひとつひとつが、すごく可愛いんだ。


 ちょっと、子供が欲しくなった。

 ティナとの子供……。


 きっとすごく可愛いんだろうな。




「そろそろ、試験始めていいか?」


「あっ、すみません。もうちょっとだけ、待ってもらっていいですか?」


 ヨハンさんが昇級試験を始めようとしていたので、少し待ってもらう。


「ルナ、例のやつをお願い」

「はい!」


 ルナが魔力を放出する。


ダメージインバリッドダメージ完全無効アルティマパワー攻撃力究極上昇

 アルティママジック魔法攻撃力究極上昇アルティマスピード速度究極上昇

 アルティマコンセントレ集中力究極上昇イト!」


 レベル150を超え『言霊使い』という三次職になったルナが、俺たちに補助魔法をかけてくれる。


 エルノール家全員の攻撃力や速度が何倍にも強化され、さらに一定時間ダメージを受けなくなった。



「私、今回は本気なの!」


 白亜が、白竜の姿に戻る。



「じゃ、俺も──」


 リューシンが半人半竜の姿になった。


「よし。リエル、ヒナタ、やるぞ!」

「はい」

「リューシン様、いきますね」


 リューシンに、ルークたちが前回同様、魔衣を纏わせる。


 しかしその魔衣の力強さは、前回の比ではなかった。



「我も、全力を出そう」


 シロが元の姿──フェンリル神獣の姿へと戻った。



「ならば我もじゃ」

「今回はわらわも、戻るとしましょう」


 ヨウコとキキョウが、九尾狐の姿になる。



「「私たちも!」」

「僕も、全力だすよ!」


 マイとメイが精霊体になり、精霊王シルフは全力で戦う時の姿に変化した。


 風を纏う落ち着いた雰囲気の大人の女性が、シルフが本気を出すときの姿だ。



「エルミア、わたしが全力でサポートします。臆せず行きなさい」

「あぁ、セイラ。信じてるぞ」


 ヒヒイロカネの鎧を纏ったエルミアが、俺たちの前に出てくる。その身体を、セイラの聖属性魔法が幾重にも覆っていた。



「メルディさんには私が、『白竜の鎧』を付与しておきますね」

「私の風も!」

「リュカ、リファ、ありがとにゃ!」


 全身に白い鱗と風の鎧を纏ったメルディが、最前列でエルミアと並び立つ。



「ハルト様」

「……あぁ」


 ティナは守護の勇者の黒刀を、俺は覇国を手に持つ。


 準備完了だ。



「ヨハンさん。準備ができました」


「そ、そうか……」


 若干ヨハンさんが、ひいてる気がする。


 けど俺たちは前回、スライムに負けたんだ。


 で、今回の敵もスライム。

 それも、だという。


 絶対に、負けるわけにはいかないんだ。


 全力で勝つ!!



「それじゃ、いくぞ?」


 ヨハンさんが、スクロールを闘技場の中心に投げた。


 そこから、一体のスライムが現れる。


 そのスライムが口を開いたかと思うと──



 『なにか』が飛び出してきた。


 その『なにか』は、ヒトの形をしていた。


「みんな、気をつけろ! スライムが変化へんげした!!」


 まぁ、そんなことはないんだけど。


 そもそもスライムは、他の魔物の姿形を真似る『擬態』はできるが、その能力なども使えるようになる『変化』はできない魔物だ。


 ちなみに『なにか』を吐き出したスライムは、超高速で俺の魔法障壁を通り抜け、今は観客席で五人目の幼女の姿になって、俺たちの応援をしてくれてる。


 すごい速さでの出来事だったから、ヨハンさんにはスライムが『なにか』に変化したようにも見えただろう。


 うちの家族はほとんど全員が、に気づいてる様子だけど、みんな空気を読んでくれている。


 ほんとに、ノリのいい家族だなぁ。



「ぐ、ぎぎ……」


 スライムに吐き出された『なにか』が、足をガクガクさせながら起き上がる。


「ふ、ふざけるな……このバエルを、下等なスライムごときが──」


「みんな、まずいぞ! スライムはみたいだ。しかもバエルって、邪神配下で一番強い悪魔だ!!」


「…………えっ」


 悪魔に変化したスライムが、俺たちに気づいて唖然としていた。


「スライムとは言え、油断できませんね」


「もとより、なんの変哲もない個体だったとしても我らはもう、スライム相手に油断などせんのじゃ」


「そうだな」

「ですね」

「そーなの」

「あぁ」

「「全力です!」」


「よし……みんな! いくぞ!!」


「「「はい!!」」」



 俺たちのE級昇格をかけた、スライムとの戦闘が幕を開けた。

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