第261話 ハルトの提案
俺がこの世界にやってきて、十年経った。
今年、俺は十五歳。
こちらの世界の人族として、成人になった。
その年の十月、エルノール家で一番遅いルナの誕生日が過ぎ、そのお祝いのパーティーが終わった翌日。
俺は家族のみんなを集めて提案した。
「冒険者ギルドへ登録にいこう!」
「冒険者? ……主様は、冒険者になりたいのかの?」
「うん!」
この世界に転生した時からの夢だった。
冒険者としてギルドに登録し、ギルドランクを上げていく。
すごく楽しそうだ。
元の世界にいた時から、ゲームのトロフィー集めが好きだった。自分の称号やランクが少しずつ上がっていくのって、なんだかワクワクする。
先輩冒険者に絡まれる可能性もあるかもしれないが、実はそれも楽しみのひとつだった。
新人の俺を弄ろうとした冒険者に、ちょっと力を見せつけて『コ、コイツ、強い!?』──って、驚いてほしい。
あとは美人の受付嬢に、狩ってきた魔物を見せて『そ、そんな!? コレはCランクの魔物ですよ!!』──などと言ってもらいたい。
いやぁ、妄想が捗るな。
目指すはSランク冒険者!
俺はティナのギルドカードを見てから、アレが欲しくなった。真っ黒のカードに金の文字で情報が記されたそれが、とても格好がよかった。
Sランク冒険者って、三次職の限られたヒトしかなれないみたいだけど、幸い俺は三次職である賢者だ。レベル1だけど……。
でもとりあえず、実績さえ積めばSランク冒険者になれるはずなんだ!
「ハルト……お前、冒険者として働かなくったって、金には困らないだろ?」
無粋なことをリューシンが言ってきた。
コイツ、わかってないなぁ。
「金じゃないんだよ、リューシン」
必死になって魔物を倒して生活をしてる本物の冒険者の方々には申し訳ないが、俺は確かに金には困ってない。
今、エルノール家の十四人とシロに加え、ルークとリエル、リューシンとヒナタという計十八人と一匹が、俺の屋敷に住んでいる。
その生活費を全てティナが出してくれてるわけだけど、いくら贅沢しても彼女の預金は減ってるように見えなかった。
むしろ常に増え続けていた。
だから、お金のために冒険者になるんじゃない。
「冒険者って、夢があるだろ」
「……夢?」
なんだ、ルークもわからないのか。
仕方ないなぁ。
「たとえば、まだ見ぬ未開の地を旅したり──」
「ここ数年で、世界の隅々までハルトさんは転移の魔法陣を設置し終えちゃいましたよね?」
「リファの言う通りにゃ」
「「未開の地って……もう、ないですよ?」」
…………。
「た、たとえば、ダンジョンの奥底に眠る秘宝を探しに行ったり──」
「歴代の勇者ですらクリアした者のおらんかった最難関ダンジョンを、去年クリアしたのじゃ!」
「創造神様の祝福を受けた剣をゲットしたの」
「私がボスを任されている遺跡のダンジョン以外、全て踏破済みですよね? あそこも、旦那様とティナ様はクリア済みですが」
「シトリー、もう少し難易度下げてほしいのじゃ」
「今のままじゃ、絶対にむりなの」
「ふふふ。それは旦那様にご相談ください」
…………。
「そ、そうだな。たとえば、超レアアイテムを集めて、究極の装備を創ったり──」
「うちの庭に、世界樹生えてますよね。あの枝って、すっごいレアアイテムでは?」
「ルナの言う通りだね。あの枝を使えば『世界樹の杖』っていう最上位の武器が作れるよ。ここの世界樹、ルナのことを気に入ってるからルナなら枝を切っても怒らないと思う」
「シルフ様、よろしいのですか?」
「もちろん。ルナが剪定してくれたら、きっとすごく喜ぶから」
「それにここの地下には、ヒヒイロカネの鉱床があって、それを使ってエルミアに鎧をつくってくださいましたよね?」
「あぁ、アレ。すごい性能なんだ。鎧がない部分も見えない何かで守られてるし、どんな武器や魔法でも傷がつかない。ハルト、本当にありがとう」
「
…………。
「魔物を倒して、その素材を──」
「一番価値のある魔物は……ほれ、ハルトの目の前におるではないか」
「えっ、俺!?」
「シロの言う通りじゃな」
「白竜の私やリュカより、黒竜のリューシンの鱗とか牙の方が高く売れるの」
「そうですね……リューシン、ハルトさんが貴方の素材をご所望よ?」
「リューシンさん。痛くしませんから」
「セイラさん? そ、それ聖属性魔法では!?」
「リューシン様……」
「ヒ、ヒナタ、助け──」
「ごめんなさい。ここに住まわせていただいてる、家賃の分だけですから」
「えっ、ちょっ──ぁぁぁぁぁぁぁああ!?」
なんか……ごめん、リューシン。
ヒナタもエ
んー、どうしよう……。
あっ!
「ギルドカード!」
「「「え?」」」
「ティナ、みんなにギルドカードを見せて」
「かしこまりました」
ティナがみんなに自分のギルドカードを見せる。
「おぉ! これがSランク冒険者のギルドカードか!!」
「す、すごいな……」
ルークと、腕の鱗を一枚剥がされて涙目のリューシンが、ティナのギルドカードを見て目を輝かせていた。
よし、いいぞ!
「俺はコレが欲しい」
「欲しいのでしたら、差し上げますよ。それ」
「──えっ」
「冗談です」
ふふ、っと笑うティナの笑顔が可愛かった。
……まぁ、それはいい。
「と、とにかく俺は、冒険者になりたいんだ!」
もう、ゴリ押しでいくことにした。
何人か賛同してくれればいいけど──
「わかったのじゃ」
「ハルトが冒険者になるなら、私もなるの!」
「私も一緒に登録しにいきますね」
「「私たちも」」
「ウチもなるにゃ!」
「回復はお任せ下さい」
「私は、皆さんをいっぱい補助します!」
「面白そうです。妾も登録しましょう」
「我は……ハルトの従魔でいけるか?」
「シロ様、それで大丈夫です」
「エルミア、わたしたちも登録しますよ!」
「う、うん。わかった」
「俺もー!」
「もちろん、俺も」
「私たちも」
「冒険者になりまーす!」
結局、全員が賛同してくれた。
色々と理由をつけようとしたのが、なんだったのだろうって思えてしまう。
「ハルト様の意思が、エルノール家の総意です。ハルト様がなさりたいことをすれば良いのです」
「その通りじゃ」
なんだ、最初からこれで良かったのか。
「よし、それじゃ今から、冒険者ギルドに登録しにいくぞ!」
「「「「おぉー!」」」」
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