第260話 最強勇者の誕生

 

 遥人が暮らしていた世界。

 その、神の領域にて──


「本当にいいの? 貴女が望むなら、この世界で生き返らせてあげることもできるのだけど……」


 純白のかなり薄い服を纏った巨乳美女が、セーラー服を着た少女に話しかける。


「ありがとうございます。生き返りたくないわけじゃないです。家族も、寂しがるでしょうし……それでも私は、異世界に行ってみたいです」


 少女は、真っ直ぐ美女を見つめて答えた。


「わかったわ。確かに、最近多いのよね。貴女みたいに、生き返るより異世界に行きたがる人って」


「そうなんですか?」


「そうなの。まるで、異世界転生ブームね」


「あー、確かに。それはあるかも知れません」


 少女が、今の人間界では人が異世界に転移や転生して、その世界で主人公が無双するネット小説が人気があること。


 それらが本になったり、アニメになったりして、多くの人間が異世界転生に夢や希望を抱いていることを説明した。


「えぇ!? 今って、そんなにあっちの世界の情報が広まってるの?」


「はい。もちろん全部、作り話なんですが──って、もしかして異世界のお話は、割と正しい感じですか?」


「だいたい合ってるよ。私たちからチート能力をもらって、無双して、魔王倒して帰ってくるのとかね。もしかしたら、記憶を消されずに帰ってきた人がいたのかも……」


 あっさり肯定されたことに、少女は驚いた。

 それと同時に、微かな希望を見つけた。


 自分が読んだのお話は、単なる作り話ではない可能性が出てきたのだ。


 望みが叶うかもしれない。


 少女には、異世界でやりたいことがあった。



「お願いします。私を異世界に転生させてください!」


「うん、それはいいよ。ちょうどあっちの世界の神との契約が、発動したばかりだからね」


「契約?」


「んーとね。まぁ簡単に言うと、お互いの世界が危機に陥った時、助け舟を出しあいましょう──っていう契約があるの」


「せ、世界の危機を!?」


 少女の表情に緊張が見えた。


「そう。なんかあっちの世界で、かなり強い魔王が生まれたみたい。それこそ世界のバランスを壊すクラスのやつね」


「それを……私が倒すんですか?」


「その通り」


 少女は、異世界に転生してもらうことを望んでいた。


 しかしそれには、代償が必要だった。

 その代償とは──


 異世界の魔王を倒すこと。

 魔王を倒す勇者となることだった。



「でも私、戦ったことなんて──」


「安心して。そのために私たち神が『ギフトチート能力』をあげるんだから」


 巨乳美女の身体が輝き出した。


「こっちの世界の人間に、をやるのは久しぶり」


「あの、い、いったいなにを──」


 美女が纏うオーラの力強さに圧倒される。


「貴女に素敵な力をあげるの。普通、こっちの世界から勇者を連れてくと、その勇者に能力をあげるのはあっちの世界の神。だけど──」


 今回は違う。


 歴代最強最悪の魔王が、誕生したからだ。


 ある一定以上の力を持った魔王が君臨した時、を、あちらの世界に送り込む契約が交わされていた。


 強力な魔王が出現すると、異世界の神はその対処に追われ、こちらの世界から連れていった勇者に十分な力を与えられないかもしれない。


 だから今回のように巨乳美女──こちらの世界の最高神である女神が、勇者にチートを与えてから転移や転生させることになっていたのだ。



「実は私、あっちの世界の神より凄いのよ?」


 神の力は、世界に住む人々の信仰心で左右される。


 熱心に神を信仰する人の割合は、異世界の方が多い。あちらの世界の方が、神の存在がより身近に感じられるのだから。


 しかしこちらの世界は、転生先の世界より人口が圧倒的に多い。それだけ神を信仰する人数も多いのだ。


 つまり神の力にも、差があった。



「貴女が向こうの世界で、絶対に危ない目にあわないようにしてあげるね」


 女神から放たれたオーラが、少女へと移動していく。


 少女に、様々なギフト神からの贈り物が付与された。



 <体力増大(極)>

 <魔力増大(極)>

 <物理耐性(極)>

 <魔法耐性(極)>

 <異常状態(無効)>

 <スキルマスター>

 <ウエポンマスター>

 <スペルマスター>

 <クリエイトアームズ>

 <クリエイトマジック>

 <体力自動回復(極)>

 <魔力自動回復(極)>

 <回復速度上昇(極)>

 <神眼>

 <不屈>

 <超直感>

 <空間転移>

 <多重分身>

 <言語理解>



「──まぁ、こんなとこかな」


 通常、異世界の神が転移してきた勇者に与えるチートスキルは多くて三つ。


 この世界の最高神は、有り余る力を湯水の如く少女へとつぎ込んだ。



 その結果、歴代最強の勇者が誕生した。


「それじゃ、頑張ってね!」


 女神が手を翳すと、少女がその場から消える。


 異世界へと、転生したのだ。




 少女がいなくなった空間を、ぼんやり眺めていた女神の足元に、黒いモコモコしたなにかが近寄ってきた。


「どうしたの? ……あの子のことが心配?」


 女神はしゃがんで、黒いモコモコを撫でながら、優しい声で話しかけた。


「助けてもらったもんね。あの子と一緒に行きたいの?」


 その質問に応えるように、モコモコが縦に弾んだ。


「そう……わかった。彼女の所まで送ってあげる。しっかり彼女を守るのよ」


 少女と同じように、黒いモコモコもその場から姿を消した。



 ──こうしてハルトがいる世界に、歴代最強の勇者と、最高神の眷獣が転生した。

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