第十章 転生勇者
第259話 創造神の悩み
「これは……ちと、面倒なことになったのう」
神界で、とある神が呟いた。
真っ白な髭と髪のその老人は、この世界を創った創造神だ。
そんな創造神のもとに、深い青みがかった髪をした上半身裸の男が歩み寄ってきた。
「じいさん、呼んだかい?」
「おぉ、海神。すまんな、呼びつけて」
上半身裸の男は、この世界の海を支配する海神だった。
「珍しいな。じいさんが俺を呼ぶなんて、何千年ぶりだ?」
「……少し、ヤバいことになっての」
「えー、じいさんが『ヤバい』って言葉を使うなんて──あれか? 明日、この世界が終わるのか?」
「なにもしなければ、そうなるやもしれんのう」
「……マジかよ」
冗談半分で言った海神だったが、その言葉を創造神は否定しなかった。
「アレを見てくれ」
創造神が持っていた杖をかざすと、その少し前の空間に映像が映し出された。
そこには、ひとりの女性が立っていた。
細い角を側頭部に生やした華奢な女。
その女を見た途端、海神の表情が険しくなった。
「な、なんだコイツはっ!?」
海神が驚くほどの、力を秘めていたのだ。
ありえない。
この女の力は、神に届きうる。
──そう、海神は判断した。
「じいさん、コイツはいったい何者だ?」
「……魔王だ」
「こ、これが、魔王? ──っく、あのバカ。なんてもんを生み出しやがった!?」
海神は、邪神が魔王を生み出したと考えた。
そしてこの魔王を倒すために協力しろと、創造神に言われるのだと考えた。
「コイツは、俺たち神が相手すべきクラスの強さだ。こんなのを倒せるやつなんて──」
ふと海神の頭を、ひとりの人族の姿が
「なぁ、じいさん。俺、コイツを倒せる人族を知ってるぜ」
「なに?」
「なんだったら俺がそいつに、この魔王の討伐をたのんでやろーか?」
「この魔王を、倒せる人族がおるのか?」
「あぁ。つえーぞ、そいつは。なんせ人族の身体で、俺と互角に戦うバケモノだからな」
「お前と互角にやり合う……だと?」
「そうだ。そいつはハルトって言う──」
「あ、なんだ。ハルトか」
「……じいさん、ハルトを知ってるのか?」
「まぁな。たまに、ここまで遊びに来るぞ」
「──は?」
創造神の言葉に、海神は耳を疑った。
ここは神界。
その中でも特別な、創造神が住む空間だ。
上位の神であっても、創造神の許しなしには来ることすらできない。
それなのに──
「少し前も『グレンデールに世界樹を生やしちゃいました』と報告に来たぞ」
「せ、世界樹を? アレってアルヘイム以外の土地じゃ、魔力足りなくて育たないんじゃ……」
「まぁ、そこはほれ。ハルトだからな」
「…………」
「なんだ。あの魔王を倒す人族がおると言うから、いよいよ世界のバランスがヤバいのかと思ったわ」
「ハルトは、人族だろ?」
「バカを言うな。アルヘイム以外の土地で世界樹を育てるほどの魔力を垂れ流し、まるで隣の家の住人に挨拶をするような気軽さで、ここまでやってくるバケモノを、儂は人族とは認めぬ」
「いや、ま、それは……そうだけど」
「それにのぉ──」
ちょうどその時、魔王のそばに魔法陣が出現した。その魔法陣から、海神も見覚えのある人族が姿を現す。
「あの魔王は、ハルトの嫁だ」
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
魔王シトリーが、転移で迎えに来たハルトに抱きつく様子を見ながら、海神が叫んだ。
しかしそれは、神にも匹敵する魔王がハルトの嫁になっていたことに驚いたからではない。
「聞いてねーぞハルトォ! 俺たち、
海神は、結婚の報告をハルトからされていないことにキレたのだ。
「アイツ、お前とも懇意にしておるのか」
「……俺が唯一認める男だ。ハルトとの戦闘ほど、楽しいもんはねぇ」
結婚したことを報告されなかったことには怒った海神だったが、ハルトとの戦闘を思い出したのか、その口角は上がっていた。
「──で結局、何がヤバいんだ? あの魔王はハルトの嫁だから、別に世界の危機ってわけじゃないだろ?」
「うむ。あの魔王がヤバいのではない。ハルトがそばにおる限り、危険はなかろう」
「じゃあ、いったいなんなんだよ?」
「あの魔王、一度だけ本気で力を出したのだ」
それはシトリーが、ヨウコと白亜を殺そうと力を放出した時のこと。
「そのせいで、異世界の神との契約が発動した」
「えっ、てことは──」
「そうだ。異世界から勇者がやってくる。それも、あの魔王を倒せるようなチートを持ったヤツが……な」
「じゃ、じゃあ、世界がヤバいってのは……まさか」
「理解したか? あの魔王を倒す力を持った
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