第258話 邪神の失敗
ハルトの呪いが『ステータス固定』になった理由のお話です。
──邪神の神殿──
「邪神様、転生させる者にかける呪いは、どんなものにしましょうか?」
式神が邪神に問いかけた。
邪神はこれから、異世界人を殺してこちらの世界に転生させようとしていたのだ。
異世界人を転生させるのにはこの神界から膨大なエネルギーが消費される。
本来は創造神のみに許された異世界人の転生を、邪神が勝手に行うことで創造神の妨害をしようとしていた。
ただ、邪神と言えどこの世界では力を持つ神の一柱なのだ。彼が普通に人を転生させると、その者には勝手に『転生特典』がついてしまう。
転生特典とは──
ステータスの上昇幅が通常の十倍になる
転生先の身分が王族や貴族になる
ダメージを受けなくなる
気配を完全に消せるようになる
など、様々なチート能力のことをいう。
邪神は自分が任命し、力を分け与えてやって、世界を恐怖に陥れられるまでに育てた魔王を、創造神が転移させた異世界人の勇者に倒されるのが嫌で仕方なかった。
創造神の妨害をするために、これから異世界人を転生させるのだ。
その異世界人に転生特典などつけて、もし魔王を倒されようなら目も当てられない。
だからこそ、転生させる異世界人には強力な『呪い』をかける必要があった。
「そうだな、呪いの書棚から
「畏まりました」
邪神の指示を受けた式神が、神殿の書庫へと向かう。
「えーっと、ヤバそうなやつ、ヤバそうなやつっと……」
この世の暗黒面を統治する邪神の神殿には、世界を破滅させるレベルの呪いが封印された本が、数多く保管されていた。
書棚にはそれぞれ、中に保管されている本の分類が記されていた。
呪いの本が保管されている書棚は全部で五つ。
『割とまし』
『ヤバい』
『ちょーヤバい』
『世界がヤバい』
『ある意味一番ヤバい』
ちなみに、この書棚の分類を記したのは邪神だ。邪神は呪いを生み出すと、それを本に封印して式神にこの書棚に保管させていた。
しかしあまりにも大量の呪いを生み出してきたため、邪神は自分でもどんな呪いがあるのかほとんど把握していなかった。
「この『ある意味一番ヤバい』って書棚、本が一冊しかない……」
その書棚に入っていた本は──
『ステータス固定の呪い』だった。
「なんでこんなのが一番ヤバいんだろう? ……でも、一番ってことは『世界がヤバい』よりヤバいんだから、これでいいよね?」
式神はそう判断して、その呪いが封印された本を手に取った。
書棚に一冊しかないので中身を読まずに選んで良くて楽だったというのも、その本を手に取ったひとつの理由だった。
式神は邪神の言いつけ通り、一番ヤバそうな呪いを選んだのだ。
彼女に非はない。
あるとすれば、その本の中身を読まずに邪神のもとへと持っていったことだろう。
「邪神様、お待たせいたしました。これなんかどうでしょう?」
「どれ……ふむ、ステータス固定の呪いか……なんか地味じゃないか?」
「ですが、ステータスを固定されていれば、呪いをかけられた者はずっとレベル1なんですよ? 最近の異世界人って、転生させられたらチート能力もらえるってはしゃぐ奴らが多いらしいです。そのテンションが上がってるバカな異世界人の絶望する顔、見たくないですか?」
「お前……なかなか面白いことを思いつくではないか。確かに、それは面白そうだ」
「えへへ、褒めてください!」
「おい、調子に乗るな」
そう言いながらも邪神は式神の頭を撫でていた。
実はこの呪い、邪神がうっかり効果を間違えて作ってしまったものだった。
本当であれば『ステータス上限固定の呪い』を作ろうとしていたのだが、うっかりステータスそのものを〘固定〙する呪いを作ってしまった。
この呪いをかけられた者には、ダメージを与えることができなくなる。
なぜなら体力が〘固定〙されてしまうからだ。
効果はそれだけではない。
無限の魔力を持っているのと等しくなる。
一度に放出できる魔力量の最大値は、呪いをかけられた時の値に依存するのだが、その最大値以下であれば無尽蔵に魔力の使用が可能となる。
さらに、デバフを受けないという効果もある。
麻痺や強制睡眠、毒状態にはならないし、ノックバックすらしない。
殴られても吹き飛ばないのだ。
なぜなら状態も〘固定〙されるのだから。
そしてこの呪いは転生者にかけることしかできない。そういう制約で作った呪いだからだ。
邪神はこの呪いを破棄しようとも考えたが、あまりにも膨大な魔力を注ぎ込み作った呪いだったため、とりあえず保管しておくことにした。
もしかしたら自分に従順な異世界人を転生させる機会があるかもしれないと考えたから。
だからこそ『ある意味一番ヤバい』という書棚を作り、そこにこの『ステータス固定の呪い』を保管した。
しかし、それは数億年も前の話。
邪神も最近は呪いを作っておらず、過去に作った呪いの種類もほとんど忘れかけていた。
こうして、ハルトに『ステータス固定の呪い』がかけられることになったのだ。
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