第250話 ミニ(?)世界樹

 

「な、なにこれ?」


 朝起きて、食堂までの廊下を歩いていたら、いつもより廊下が暗かった。


 今日は天気が悪いのかなって思ってたけど、そうじゃなかった。


 中庭に、巨大な木が生えていたのだ。

 その木によって、日光が少し遮られていた。


 昨日はこんな木、絶対になかった。


「……どうなってんの?」


 誰も答えてくれるわけないのだが、質問が勝手に口から出てくる。


 ここ、俺の屋敷だよな?


 近くにあった部屋のトビラを開けてみる。

 見覚えのある応接間だった。


 間違いなく俺の屋敷だ。


 おかしいのは、あの巨木の方だ。

 なんか、とてつもないエネルギーを感じる。


 この感じ、ちょっと覚えがあった。


 アルヘイムの世界樹に近づいた時に、感じた力と似ている気がする。


「……いや、まさかな」


 世界樹に近い力を感じるが、目の前の巨木が世界樹であるわけがない。


 創世記から世界と共に生きた木が、こんな所に生えていていいわけがない。


 とりあえず、もっとよく調べることにした。



 巨木に近づく。


 元々中庭に植えられていた木があったのだが、それはこの巨木に吸収されてしまったようだ。


 巨木の幹は、大人が五人くらい手を繋いで、なんとか周りを囲えるくらいの太さだった。


 幹の太さ以上に驚いたのが、木の高さと枝の広がりだ。


 巨木は三階建ての屋敷を優に超える高さまで伸びており、その枝は傘のように、俺の屋敷を完全に覆えるほど広がっていた。


 巨木の枝と葉で空を遮られているのだが、完全に日光が届かないわけでもない。


 適度に隙間が空いていて、そこから優しい光が俺の屋敷を包み込んでいた。


 もちろん巨木がなかった時ほどではないが、木の下にいるのに十分な明るさが確保されている。


 アルヘイムの世界樹の下も、こんな感じだ。

 ますます、これが世界樹なのではないかと考えてしまう。



 巨木に触れてみた。


「これは──」


 巨木の樹皮の内側は、まるで精霊界や狭間の空間が広がっているような感じだった。見た目以上に、この木は大きな空間を内包している。


 その空間内部に意識を向けていると、なにかがこの木に向かって、魔力を伸ばしているのを感じた。


 この魔力は……シルフ?


 最近、急に遊びに来なくなった精霊王シルフの魔力だった。


 いったい、なにをしてるんだ? この巨木がここに生えたのと、なにか関係あるのか?


 よくわからないが、シルフの魔力はこの巨木を探しているようだった。


「……繋いでやるか」


 魔力を巨木に流し込む。


 その魔力を操作し、シルフの魔力まで伸ばす。


 ──繋がった。


 細い魔力の道ができた途端、シルフの方から膨大な魔力が流れ込んできた。


 魔力と一緒に、なにかが俺に向かって飛んでくる。


「うわぁぁぁぁあ!」

「──っ!?」


 巨木の中から、シルフが飛び出してきた。


 けっこうな勢いで飛び出してきたので、衝撃を和らげるために後ろに倒れながら彼女を受け止めた。


「あーびっくりした──って、あれ……ハルト?」


 上半身を起こしたシルフは、俺が下敷きになっていることに気付いたようだ。


「びっくりしたのは俺の方なん──」

「ハルトだぁー!」


 シルフが抱きついてきた。

 俺は地面に倒れてるので、避けられない。


 なんかシルフが嬉しそうにしてたから、しばらく彼女がなすがままにさせておいた。



「久しぶりだな、シルフ。なにしてたんだ?」


「……ちょっと世界樹が大変なことになってて、それをなんとかしてたの」


「えっ!? そ、それは、もういいの? 俺がなにか手伝えることはない?」


 世界樹の危機は、アルヘイムの危機だ。

 世界樹の恩恵を受けて、あの国は繁栄できているのだから。


 アルヘイムは俺の妻のティナやリファの故郷なので、俺にできることがあればなんでもやるつもりだった。


「大丈夫、世界樹の異常はなんとかなったよ」


「そうか……それはよかった」


 とりあえずアルヘイムも無事だという。


「その世界樹の異常とこの巨木って、なにか関係があったりする?」


 俺が空を指さすと、シルフがその先に視線を送る。


「えっ……これ、なに?」


 シルフが空を覆う巨木の枝を見て、動きを止めた。彼女もこの巨木のことはわからないらしい。


「なんか朝起きたら、これが中庭に生えてたんだよ。しかも、ちょっと世界樹っぽい感じがするんだよね。まぁ、そんなことないとは思うけど……」


「え、えっと──」


「あっ、ハルト様、シルフ様、おはよーございます!」


 シルフがなにか言おうとしていた時、屋敷の方からルナがやってきた。


 そして、大きな声でこう言った──



「シルフ様! お水いっぱいあげたらも、こんなにおっきくなりました!!」

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