第239話 邪竜討伐隊の結成

 

 グレンデールの、とある屋敷にて──



「少し、お時間よろしいですか?」


「ん、なに?」


 綺麗な銀髪の美女が、本を読んでいた黒髪で青眼の男に声をかける。


「邪竜の存在が確認されたと、サンクタム聖都から連絡がありまして……」


「へぇ、邪竜が出たんだ」


 最強の魔物である竜が、怒りや不安、絶望などの負の感情に呑まれた時、その魂が邪に染まることで生まれる存在──それが邪竜。


 精神的にも強者である竜族が、邪竜になることは滅多にない。


 しかし、一度それが世に現れると、多くの種族が死に直面することになる。


 なるべく早期に、討伐すべき存在であった。



「その邪竜、俺が倒しに行くよ」


「よろしいのですか? 一応、私の所に来た依頼なのですが……」


「妻を危険に晒すのは嫌だからね。俺がやる」


「ありがとうございます。依頼主とのやり取りなどもありますから、私も同行しますね」


「うん、わかった」




 ──実は、リューシンが邪竜を倒したことは、ヒナタの村にしか伝わっていなかった。


 邪竜の眷属が影竜に倒されたことで、五つの村は邪竜の支配から解放された。


 しかし四つの村では、それがリューシンによるものだとは伝えられていなかった。


 邪竜が既に倒されたことが、わからなかったのだ。



 解放された村から、冒険者ギルドに助けを求めるために、走った男たちがいた。


 彼らはギルドマスターに訴えた。


 数十年もの間、邪竜によって支配されていた地域がある──と。


 その知らせは直ぐに、聖都サンクタムに伝えられた。


 数多の強者を抱える冒険者ギルドと言えど、最強の魔物である竜族を討伐できる人材を、簡単に派遣できるわけではない。


 しかも、その竜が邪竜になっているという。

 並の冒険者では、束になっても勝てない。


 だからこそ、邪に対して絶対的な力を持つ聖女に、討伐を依頼しようということになったのだ。


 しかし現聖女は、代替わりをしたばかりで、邪竜討伐に赴けるほどの余裕がなかった。



 そこで抜擢されたのが、一代前の聖女だ。


 彼女は創造神によって聖女の任を解かれていたが、とある理由から聖女の力を失っていなかった。


 邪竜を討伐するに足る力を有していたのだ。



 元聖女は、邪竜討伐の依頼を受け入れた。


 そして、討伐に出かけるということを、自分の夫に話したところ、彼が邪竜の討伐をしてくれることになった。



 元聖女の夫は、この世界最強の賢者だ。


 元聖女と最強賢者が、リューシンのいる村に向かって移動を開始する。



 ──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る