第231話 精霊姉妹のお風呂

 

 ハルト様や他のみなさんと、朝ごはんを食べました。


 お魚の焼き加減が絶妙だって、ハルト様に褒めていただきました。



 今は食事の後片付けをして、お皿を洗っているのですが、頬が緩むのが止められません。


 ハルト様はいつも、私たち妻がなにか家事をしていると褒めてくださいます。


 お疲れ様──って声をかけてくださいます。


 私は、お掃除とかの家事があんまり好きじゃありません。ご飯を作るのは、好きなのですけど……。


 でも、そんなつまらないお掃除家事でも、ハルト様に褒めていただけるから、頑張ろうって思えます。



 更に今日は、ハルト様が食堂を出ていく際に、私の頭を撫でながら『ご飯、美味しかったよ』と言ってくださったのです。


 だから、いつも以上にニヤニヤしています。


 ハルト様に褒めていただけるのって、すごく幸せな気分になっちゃうのです。


 私がハルト様と召喚契約を結んでいる精霊だからって理由じゃないです。


 ハルト様が、大好きだからです。


 大好きな人に褒めていただけるのって、すっごく幸せなんです。心がポカポカします。


 また褒めていただけるように、がんばろって思えます。



「マイ、ちょっといい?」


「はい、ハルト様。なんですか?」


 そろそろお皿洗いが終わりそうになった時、ハルト様がキッチンに顔を出しました。


「これからティナとエルミアと、剣術の訓練するんだけど、汗かくと思うから、お風呂にお湯を入れてもらっていい?」


「わかりました」


 ハルト様のお屋敷のお風呂は、すっごく広いんです。二十人くらいが同時に湯船に入っても、余裕がありそうです。


 そんな大きなお風呂にお湯を溜めるのは、たぶん大変なことだと思います。


 しかし、私は火の精霊です。


 水精霊のメイと協力すれば、大量のお湯を簡単に準備できます。


 そんなわけで、この屋敷のお風呂にお湯を入れるのは、私たち精霊姉妹のお仕事なんです。


 このお仕事があるので、私とメイはその他のお仕事の割合を少なくしていただいています。


 数十秒で終わってしまうお仕事で、他のお仕事をやらなくていいってのは、なんだか悪い気がします。


 でも、ハルト様がそれでいいって言ってくださるので、問題ないのです。


 みんなに気持ちよく入っていただけるよう、完璧な温度調整をしてみせましょう。


「それじゃ、よろしくね」


「あ、あの──」


 家事をこなせば、ハルト様は褒めてくださいます。


 特にハルト様のお願いを聞いて家事をした時、ハルト様はご褒美をくださるのです。


「ご褒美? キスでいい?」

「はい!」



 えへへ、ハルト様にキスしていただいちゃいました。幸せです。


 でも、私だけっていうのはズルいですよね?


「ハルト様、メイにも手伝ってもらいますので……」


「うん、わかってる。ちゃんとメイにもお願いしに行くから」


 さすがハルト様です。



 ──***──


 メイと一緒に、お風呂までやってきました。


 メイはすごくニコニコしています。

 ちゃんとハルト様から、ご褒美をいただけたみたいですね。


 妹が幸せそうなので、私も幸せです。


 ご褒美を先にいただいてしまったので、しっかりお仕事をやらなくてはいけませんね。


「メイ、そろそろやるよ」

「うん!」


 メイが浴槽の上に手をかざすと、空間から水が集まりはじめました。


 この水は、ただの水です。

 霊水とかではありません。


 霊水は貴重なので、さすがにお風呂用としては使えないのです。


 だからその分、この水を温める私が頑張ります。



 この世界ができた時から灯っている炎。


 ──原初の炎を、手元に召喚しました。


 ハルト様から大量の魔力をいただいて、存在の格が上がった私が、最近ようやく召喚できるようになった炎です。


 その決して消えない力強い炎で、私はメイが準備してくれた水塊を温めていきます。


 数秒で適温になりました。

 いい感じです。


 もちろん、ただ温まるだけではありません。


 原初の炎を使っているのですから。


 このお湯に浸かるだけで、体力や魔力は全回復し、少しだけ寿命を延ばす効果もあります。


 十分間の入浴で、一日くらい寿命が延びると思います。



 もし仮に、メイが出す水が聖水だったら──


 原初の炎の効果と相まって、一日一回の入浴で一年は寿命が延びます。


 でも聖水って、霊水ほどじゃないですけど、かなり貴重なのです。


 さすがにメイも、聖水は創り出せないようです。


 残念です。




「あ、お風呂、入ってもいいですか?」


 元聖女のセイラさんがやってきました。


 聖女だった時、一日に何度も沐浴していたという彼女は、今もお風呂が大好きみたいですね。


 私たちが浴槽にお湯をためると、セイラさんが一番はじめに来ることが多いのです。


「「いいですよー。私たちも一緒に入ってもいいですか?」」


「もちろんです。一緒に入りましょう」


 そろそろ、ハルト様が訓練を終えてやってくるはずです。そしたら、ハルト様とも一緒にお風呂に入れます。


 ハルト様の妻はみんな、彼と一緒にお風呂に入ります。


 お湯が冷めちゃうからって理由を付けているのですけど、原初の炎で温めたお湯は一日くらい温度が保たれるんですよね。


 まぁ、ハルト様と一緒にお風呂に入るため、そのことを打ち明ける気はないです。



 ちなみに、ハルト様の入浴中に乱入するのって、実はけっこう恥ずかしいのです。


 でも、一緒にお風呂に入るのは大好きです。


 だから、先に入っておくのです。



 ふふふ。ハルト様、はやくこないかなー?

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