第232話 長寿ご飯
お風呂、気持ちよかったです。
みんなと一緒に入るお風呂は、すごく楽しいです。
できればもっと、ハルト様と触れ合いたいのですけど……。
ハルト様の周りには十人も女性が集まりますので、なかなか近づけません。
昔、ヨウコさんとメイと私の三人で、ハルトさんの入浴中に乱入したことがあります。
あの時は、素肌でいっぱいハルト様に触れられました。彼の魔力を直にいただくことができて、幸せでした。
でもその時、ハルト様と一緒にお風呂に入ったことがティナさんの逆鱗に触れちゃったみたいで、怒られちゃいました。
あの時のティナさん、すごく怖かったです。
その三日後くらいから、ハルト様とティナさんが一緒にお風呂に入るようになったので、私たちもどさくさに紛れて一緒にお風呂に入るようになりました。
その頃はよかったです。
ティナさんを入れても、四人でハルト様を占有できたのですから。
あれから、どんどんハルト様のお屋敷に住むヒトが増えて、ハルト様と接する機会が減っていきました。
最近は、ちょっと寂しいです。
そんな私たちのことを思って、ハルト様は分身魔法を覚えてくださいました。
見た目はハルト様そのものです。
……でも、何かが違うのです。
私たちが精霊で、ヒトの魔力に敏感だからでしょうか?
ハルト様の魔力で構成された分身魔法といっても、なぜか満足できませんでした。
ですから私とメイは、あまりハルト様の分身と寝ることはありません。
たまに──ほんとにどうしようもなく寂しい時だけ、分身ハルトさんに一緒に寝ていただくことはありますけど……。
ハルト様と触れられる機会は減りましたが、私とメイはいつも一緒です。だから、寂しさを我慢できているのだと思います。
できるだけ分身魔法に頼らず、次のハルト様の日を楽しみに待ちましょう。
──***──
今日のご飯当番は私たちです。
当然、お昼ご飯も私たちが作るのです。
そのための食材を昨日購入してきたのですけど、メイン料理はヨウコさんたちが獲ってきた千年獣のお肉に変更になりました。
千年獣は、悠久の時を生きる聖獣です。
滅多に姿を現さない、希少種です。
そのお肉は、この世のものとは思えないほど美味だとして、人族の商人たちのあいだでは、白金貨三枚ほどで取引されているそうです。
高価なだけじゃありません。千年獣を食べると、寿命が延びると言われています。
食べる部位によって寿命の延び率が変わるのですが、一番いい部位はハツ──つまり心臓です。それを食べることで、少なくとも百年寿命が延びます。
余すことなく千年獣を食せば、千年寿命が延びる。
だから千年獣と呼ばれているんです。
出現自体がレアであることと、その討伐難易度から、Sランクの魔獣に分類されます。
千年獣って、すごく強いんです。
更に、運よく千年獣を発見して、なんとか討伐できても、それだけじゃダメです。
適切な処理を施さなくては、貴重な部位からとんでもない速さで腐ってしまいます。
心臓が一番初めにダメになります。
ですから、千年獣のハツなんて普通は手に入りません。
それを、ヨウコさんと彼女のお母様であるキキョウさんが手に入れてきました。
処理が完璧に施されていて、新鮮な状態のハツが、私たちの目の前にあります。
「
どうやら、ハルト様の寿命を延ばそうとしているのは、私たちだけじゃないみたいですね。
私たちは星霊王の娘で、エルノール家の誰よりも長く生きています。
千年獣の調理方法も、知識があります。
そして調理技術は、メイド(極)というスキルをお持ちのティナさん仕込みなのです。
レア食材の千年獣であっても、臆せず完璧に調理してみせましょう。
メイと私のふたりなら、できるはずです。
「「ヨウコさん、千年獣の確保、ありがとうございます。調理はお任せください」」
「うむ、よろしく頼むのじゃ!」
──***──
「う、うまい……」
ハルト様が千年獣の料理を一口食べ、そう呟いて動きが止まりました。
「主様、我が仕留めた獣なのじゃ!」
「
「は、母様……なぜそれを?」
「ふふふ。私だって、ハルト様に褒めていただきたいのです」
あっ、これは私たちもちゃんと、アピールしないとダメなやつですね!?
メイに目配せします。
彼女もそれに気付いたようです。
「「調理したのは私たちです! おいしくなるように、頑張りました!!」」
「マイ、メイ、ヨウコ、キキョウ、ありがとな。これ……ほんとにうまいよ」
おいしいだけじゃ、ないのですよー。
ハルト様に出したお皿のお料理を完食していただければ、五百年は寿命が延びます。
おかわりもありますよ?
いっぱい食べて、長生きしてくださいね。ハルト様。
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