第230話 精霊姉妹が作るご飯

 

 こんにちは。マイです。

 私は、火属性の魔法を司る精霊です。


 人族のハルト様と召喚契約を結んで、人間界に顕現させていただいていたのですが、今はそのハルト様の妻になりました。


 私の妹、水精霊のメイも、私と一緒にハルト様の妻になっています。


 精霊族には本来、家名というのはないのですが、ハルト様と結婚したことで、私にも家名がつきました。


 私は、その名前をすごく気に入っています。

 ですから、そっちも名乗らせてください。


 改めまして、マイ=エルノールです。

 よろしくお願いします。



 さて、エルノール家ではハルト様の妻全員が、毎日交代で家事を担当します。


 私はいつも、メイと一緒に家事を担当していました。


 そんな私たちの、一日のお仕事をご紹介いたしましょう。



 私とメイは今日、ご飯当番でした。


 ハルト様、私とメイを含む十二人の妻、それから神獣のシロ様というエルノール家十四人分の、朝昼晩のご飯を作らなきゃいけないんです。


 たまに風の精霊王シルフ様も遊びにいらっしゃいますので、多い時は十五人分です。


 昨日の家事当番は、買い出しでした。


 エルノール家では、生活必需品と一緒に翌日のご飯を作るのに使う食材を買いに行きます。次の日ご飯当番の人たちが、買い出し当番になるんです。


 食材を購入するお金は、ティナさんが渡してくださいます。


 お小遣いとしても、いっぱいお金をくださるのですが、私たち精霊って、そんなに物欲がないんですよね。


 だからティナさんからいただいたお小遣いは、ほとんど使わずに貯金しています。


 いつか、メイとハルト様と三人で、旅行とか行けたらいいなーって思います。


 でも行くとしたら、ティナさんもついてきそうですよね。


 ティナさんも行くならって言って、ヨウコさんやリファさんも──



 ふふふ。なんだかんだで、家族みんなで行くことになっちゃいそうです。


 結局それって、いつもの家族旅行なんですけど、私はみんなと行く家族旅行が大好きなので、いっぱいお小遣いが貯まったら旅行を提案したいと思います。


 ティナさんからいただいたお小遣いで、ティナさんを連れて旅行するのも変な話ですけどね。


 いったい、ティナさんはどうやってあんなにたくさんのお金を稼いでるんでしょうか?



「マイ? ぼーっとして、どうしたの?」


 あっ、考え事しすぎて、メイに心配されちゃいました。


「ごめん、なんでもない。ご飯つくろ」

「うん!」


 メイと一緒に、昨日買ってきた食材を使って料理を始めました。


 今日の朝食はお魚を焼いて、お米を炊いて、お味噌汁を作りました。


 焼き魚とお味噌汁は、ハルト様がお好きな料理です。


 お米も、ハルトがお気に入りの極東の島国フォノストのものです。


 ハルト様は異世界からの転生者なのですが、元いた世界のお米とフォノストのお米が似ているようで、それがお気に入りなんです。


 フォノストと、ハルトの様のお屋敷があるここ、グレンデールはすっごく遠いのですけど、私とメイは精霊です。


 精霊界に一旦帰ることで、人間界のどこにでも自由に現れることができるのです。


 ですがハルト様のように、誰かを連れて転移するっていうのはできません。


 生まれた時からできたことなので、自分でもどうやって人間界と精霊界を行き来しているのかなんてわからないんです。



 それはさておき、大事なのはハルト様がお好きなお米を、私たちがご用意できるってことです。


 これは、なかなかできることではありません。だってフォノストとグレンデールはすっごく遠いのですから。


 普通はできません。


 そう、普通は──



 エルノール家にはたった一日の買い出しの時間で、フォノストまで行って帰ってこられてしまう方が何人もいます。


 ヨウコさんや白亜さん、シトリーさんは超高速で移動ができるみたいで、フォノストよりもっと遠い国まで買い出しに行くこともあります。


 遠くまで買い出しに行けるっていう私たちの能力は、エルノール家の中ではあまり大きなアドバンテージにはならないんです。


 ですからここは、味と見た目で勝負です!


 正直、ヨウコさんたちの料理はその……なんというか、見た目が悪いのです。


 ティナさんがしっかりと指導してくださっているので、不味くはないです。


 でも、お肉が焦げてたり、野菜のカットが不揃いだったりします。



 私は火の精霊です。

 その精霊の中でも、かなり高位の存在です。


 ハルト様に魔力を大量にいただいたおかけで、今では火の精霊王イフリート様と並ぶほどではないかと自負しています。


 ……すみません。

 調子に乗りました。


 精霊王様と同等ってのは、言いすぎですね。


 でも、イフリート様の次くらいには凄い火の精霊なんです。そしてイフリート様は、常時顕現している精霊ではないです。


 つまり私は、火の扱いに関して、この世界最高の術士といえます。


 食べ物を焦がすことなんて、有り得ません。


 あえて焦げ目をつけたい時も、最高の加減に調整できちゃいます。



 今日の焼き魚、完璧です。

 お米も、美味しそうに炊けました。


 ちなみにお米を炊くお水ですが、メイが出してくれた霊水を使ってます。


 もちろん、味噌汁にも。


 この霊水は、一口飲めばどんな病でも治療し、健康なヒトが飲めば寿命が一年延びる──そんな超レアなお水です。


 メイも私と同じように、ハルト様から大量の魔力をいただいて精霊王級の存在になっちゃいました。


 そんな彼女が、一週間にたった数リットルだけ生成できるようになったお水が、霊水です。


 それは見た目も味も、匂いも普通の水です。


 ですから、私たちがこっそり家族みんなの寿命を延ばしてるなんてこと、絶対にバレるはずがないんです。



 私たち精霊には、寿命がありません。


 普通に過ごせば、百年もしないうちにハルト様は死んでしまうでしょう。


 千年経てば、ティナさんやリファさんもいなくなってしまいます。


 一万年経てば、ヨウコさんや白亜さんも──



 そんなの、寂しすぎます!!


 エルノール家は全員が創造神様から御加護を頂いているので、もしかしたらある程度は寿命が延びているかも知れません。


 それでも、やはり寿命は有限です。



 だから私とメイは、ご飯でみんなの寿命を延ばすんです。

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