第229話 謝罪、そして……

 

「リエル、俺──」


「ルークさん、かっこよかったです!」


「うん、そうだよね──って、え?」


「私を守ってくれて、ありがとうございます! まるで、騎士様みたいでした!!」


 リエルがキラキラした目で、俺を見つめてくる。

 すごく、可愛い。


「あの、怒ってないの?」


「……私以外の女の子に、キスしたことですよね? 怒ってるに決まってるじゃないですか! まだ私にキスしてくれたことないのに、なんで他の子にキスしてるんですか!?」


「ご、ごめん」


「わ、私にも、キスしてください!」


「えっ!? こ、ここで?」


「……お店では普通に、してましたよね」


 そう言ってリエルが、手を差し出してきた。


 あぁ、なんだ……。

 手の甲にすればいいのか。


 唇にしろって言われるかと思って、焦った。


 先程までのナードたちとのやり取りのせいで、俺たちの周りにはかなりの人数の野次馬が集まっている。


 さすがにこの人数の前で、唇にキスするのは恥ずかしすぎる。


 手の甲でいいのなら──



「お嬢様」


 リエルの手を取りながら、片膝をついた。


 さっき、リエルを守る姿が騎士みたいで、かっこよかったって言ってくれた。


 だから今は、彼女の騎士になろう。


「お嬢様に、忠誠を誓います」


 リエルの手に、キスをする。



 数十人集まっていた野次馬たちから、歓声が沸き起こった。


 リエルは顔を真っ赤にしているが、満更でもなさそうだった。



 ──***──


「あの時は、なんだかんだで有耶無耶にしちゃったけど、リエルの目の前で他の女の子にキスするとか許せないよね……本当に、ごめん」


「……目の前じゃなくても、嫌なんですけど」


「そ、そうだね。ごめ──っふ!?」


 謝ろうとしたら、リエルに両頬を摘まれた。



「ルークさんって、本当に真面目なんだから」


 ふふっと笑いながら、彼女が俺の頬から指を離した。


 引っ張られて少しヒリヒリしていた頬を、今度はリエルが優しく撫でてくれた。軽くヒールをかけてくれているようで、痛みが引いていく。


「あれ以来、私以外の女の子にキスしてませんよね?」


「もちろん!!」


「ならいいんです。あの時、大勢のヒトの前で私にキスしてくれたから、私はルークさんのことを、とっくに許してましたから」


「……そうなの?」


「そうです。すごく、嬉しかったです」


 良かった。

 リエルは、俺を許してくれたんだ。


 ずっと気になっていたことが、これでひとつ解消された。



「それだけですか?」


「えっ」


「私に学園祭の時のことを謝るためだけに、わざわざシルフ様にお願いして、こんな所まで連れてきてくださったのですか?」


 じーっ、とリエルに見つめられる。


 もしかして、俺の二個目の──というかメインの目的、リエルにバレてる?


 なぜかリエルがソワソワしている。

 彼女の耳が、赤く染まっていた。


 まぁ、こんな雰囲気の場所に連れてきたんだから、期待させちゃうよね。


 その期待に応えよう。



「リエル」


「は、はいっ!」


「俺と半年間、付き合ってくれてありがと。毎日会えるわけじゃないけど、俺とたくさんの時間を一緒に過ごしてくれて、すごく嬉しい」


「私も、ルークさんといっぱい一緒にいられて嬉しいです。でも、さすがに毎日ルークさんに会いたいなんて無理は言いませんよ。こことグレンデール、すっごく遠いんですから」


「会いたいか、会いたくないかで言えば?」


「……会いたいです。毎日一緒にいたいです!」


 俺はなるべく毎週、アルヘイムまで通って、リエルと一緒に過ごしていた。


 ここまで来てもリエルの都合で一時間ほどしか会えなかったり、学園のイベントなどで来られない時もあったけど、できる限りリエルに会いに来ていた。


 彼女と一緒に過ごせるのが、すごく楽しかった。これまでの人生で、最高の時を過ごしていると思えた。



「でも、ルークさんが毎週、グレンデールからここまで会いに来てくれることも、かなり負担じゃないですか? 私はこれ以上、望めませんよ……」


 負担か。負担に思ったことはないな。


 いつもアルヘイムまで飛んでくる時だって、リエルとのデートで何をしようか考えていると、いつの間にか着いてるし。


「一週間に一回ここまで来るくらいなら、全然問題ないよ。リエルとどこに遊びに行こうか考えてる間に、着いちゃうから」


「そう、なんですか?」


「うん。でも俺は、もっと長い時間、リエルと一緒にいたい」


「わ、私もです!」


 リエルが俺の胸に飛び込んできた。

 俺の服を、ギュッと握りしめている。



 俺はポケットから、彼女のために用意したモノを取り出した。


「リエル」

「……はい」


 彼女と見つめ合う。


「俺と結婚して、グレンデールに来てくれませんか?」


 リエルに、純白の指輪を見せた。


 誓い石という希少な鉱石を加工して、俺が作った指輪だ。


 ハルトがティナ先生に贈ったっていう、ヒヒイロカネの指輪と比較されちゃうと見劣りするが、それでもこの指輪は世界最高クラスの魔具だ。


 俺はこの指輪になった原石に、リエルを幸せにするという誓いを立てて、加工した。



 指輪を見ながら、リエルが泣いていた。


「……これを、私が受け取ったら、ルークさんが色々、大変になっちゃいますよ?」


 リエルは、彼女の家のことをあまり話してくれなかったので、なんとなく想像していた。


 貴族の家の令嬢とかで、人族である俺なんかと結婚するって言ったら、当主に反対されるってことだと思う。


 でも、俺の親友ハルトは、この国の大臣たちの反対を跳ね除け、国の英雄であるティナ先生と結婚した。


 アイツはチートでバケモノだけど、俺だって賢者の孫なんだ。


 好きな女の子と一緒になるためなら、なんだってやる覚悟があった。



「リエルがそれを受け取ってくれたら、俺は一生、リエルを守る。リエルと一緒になるためなら、どんな障害だって取り除く」


 彼女の目をまっすぐ見て、宣言した。


「もう一回、言うね。リエル、俺と結婚してください」


「……はい」


 彼女が左手を差し出してきた。


 俺はその薬指に、指輪をはめる。




 おぉぉぉおおお!

 よっしゃぁぁぁぁあ!!


 ついに俺にも、エルフの嫁ができたぞぉぉお!


 全力で、リエルを抱きしめた。




「ルークさん。これから、よろしくお願いしますね」


「あぁ! 俺は全力で、リエルを幸せにする」


「……明日、お父様にご挨拶しに行きませんか?」


 おっと、いきなりだな。

 でも大丈夫。想定の範囲内だ。


「わかった。行こう」


「ありがとうございます。それから、今まで黙っていて、すみません。私の名前は──」


 リエルが少し間をあけて、俺が予測していた中でも、最もありえない単語を口にした。


「リエル=アルヘイムです」


 へ、へえ……アルヘイムか。


 ……うん。

 可能性のひとつとして、一応考えてた。



 そっかぁ、俺。


 ハルトの義弟おとうとになるのか。

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