第210話 ダンジョンのラスボス
「ルナ、お疲れ様」
「ただいまです。ハルトさん」
ルナが強化した俺の分身が、十六層目の魔物を一掃し終えたので、彼女をマスタールームへと転移させた。
「本当にクリアできたね。おめでとう。ご褒美は、なにがいい?」
「アレでご褒美がもらえるのか? そ、それはズルいのじゃ!」
ヨウコが声を荒らげる。
ほとんどルナが戦っていないので、文句を言いたくなるのも無理はない。
「「ルナさん。ご褒美、羨ましいです」」
「ハルト様、メルディさんの時とは難易度が全く違う気がします」
「わ、私もそう思います!」
ティナやリファも、不満があるようだ。
「それだったら、ボス倒したのはメルディさんですけど……わたしも頑張ったので、その、ご褒美がほしいです」
「ご、ご褒美ってなんですかにゃ!? ハルト様がなにかしてくださるのかにゃ? だ、だったら私も、ご褒美がほしいですにゃ!」
「わ、私も!!」
メルディにはご褒美をあげると言っていたが、その他の三人のについてはなにも言及していなかった。
三人も、ご褒美がほしいみたいだ。
「ハルトさん。私は……その、たいしてなにもしていないので、ご褒美なくても大丈夫です」
ルナがご褒美を辞退すると言ってきた。
その表情は、すごく暗かった。
確かにメルディと比べると、ルナは戦闘で苦労していない。それで俺からご褒美をもらってしまうと、他の妻たちとの関係が悪くなると思ってるんじゃないだろうか。
ご褒美が欲しくないわけじゃないと思う。
念のため、読心術で聞いておく。
(本当はご褒美、欲しいです。いつもより、ちょっと長めのキスがいいです──って、ダメですよね。ここで私が褒美もらってしまったら、ハルトさんがヨウコさんたちに怒られちゃいそうですし……)
あ、俺の心配をしてくれてるんだ。
ちょっと、嬉しいな。
やっぱりルナは、いい子だな。
なおさらルナに、ご褒美をあげたくなる。
長めのキスね。わかった。
屋敷に帰ったら、してあげよう。
「今回ダンジョンに挑戦してくれた全員に、参加賞としてなにかしらのご褒美をあげるつもりだったんだ。もちろん、俺が設定した課題をクリアできたら、ご褒美のランクは上げるつもりだった」
俺はダンジョンの各層に、それぞれテーマを設定していた。
メルディも、ルナもそれをクリアしていた。
「インフェルノウルフは、レベル100ちょっとのルナからしたらかなり脅威だったと思う。アイツはデフォルトで周囲を威圧するスキルが発動してるから、並の精神力だと囲まれた時点で声を出すのも困難になるらしいね」
「むぅ。それは、そうなのじゃが……」
ヨウコは俺が言わんとすることを理解してくれたらしい。
「ルナはちゃんと自分で俺の分身を呼び出したし、それの強化もしてた。俺はルナが、彼女なりに頑張ったって思うから、ご褒美をあげたいと思う」
「それは、ハルトさんが絶対に助けてくれるって約束してくださったから……頑張れました」
小声でルナが呟いた。
「もちろん、セイラとサリー、リリアにもご褒美をあげるよ」
「「「──!!!」」」
「そ、そんな……だったら、我も挑戦したかったのじゃ」
「私もなの」
「おっ! ヨウコと白亜、俺のダンジョンに、挑戦したい?」
俺は最後にもうひとつ、状態を見ておきたいフロアがあった。
ヨウコと白亜がご褒美をほしそうにしているので、ちょうどいい。
「ふたりで最終層のボスに挑んでほしいんだけど、やる? 挑戦してくれたら、ご褒美あげる」
「えっ、いいの!?」
「わ、我と白亜でいいのか? その、自分で言うのもなんじゃが……我らは、強いぞ?」
「うん、知ってる。もしふたりが簡単にボスを倒しちゃっても、ちゃんとご褒美あげるから安心して」
「わかった。主様、約束じゃぞ?」
「ヨウコ、がんばろーね!」
「うむ。サクッと倒して、ご褒美もらうのじゃ!」
さて、そんなに簡単にいくかな?
俺が用意したラスボス、なかなか強いぞ。
まぁ、初めてヨウコと白亜の本気が見れるかもしれないから、ちょっと楽しみだ。
俺はヨウコと白亜を、ダンジョンの二十層目に転移させた。
──***──
「ここは……」
「ひろーいの」
二十層目にはボス以外の魔物──いわゆる雑魚モンスターは湧かない。
そして壁も部屋も、宝箱などもない。
ただ何もない空間が広がっている。
大型のバケモノが全力で戦えるように、ハルトがダンジョン内で一番広く作ったのだ。
ここにいるボスが、全力を出せるように。
「
白装束を身に纏い、細い角を側頭部に生やした華奢な女が、ヨウコと白亜の前に現れた。
「お主がここのボスかの?」
「おねーさん、ひとりなの?」
「えぇ。私はここを守れと、旦那様から言いつけられております」
女が恭しく頭を下げた。
「貴様が旦那というのは、ハルトという男のことではあるまいな?」
ヨウコが女に向かって殺気を飛ばす。
「はい。私が言う旦那様とはハルト様のことで間違いありません……嗚呼! 卑しき私が、かの御方のお名前をお呼びするなど、恐れ多いことを──」
そう言いながら、女が頬を赤く染めた。
A級冒険者ですら身動きが取れなくなり、場合によっては気絶してしまうほどの殺気をその身に受けたのにもかかわらず、女は全く動じていなかった。
平然と受け答えする女に、ヨウコは疑問を抱いた。
「お主……何者じゃ?」
「申し遅れました。私は、シトリー。旦那様にテイムされた、
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