第209話 インフェルノウルフ
……おや、もう誰か来たのか?
思っていたより早かったな。
しかし、我が主の命令は絶対だ。
ここに来る者がいれば、俺はそいつを全力で倒す。
俺の名はフェル。
炎獄の炎を操る、最強の魔狼──インフェルノウルフ。
その一族のボスだ。
中位の魔族すら倒せる俺にとって、ヒトなど敵ではない。
我が主を除いて。
俺は昨日、人族の男にテイムされた。
その男こそ、我が主だ。
──***──
昨晩、何者かが俺の縄張りに入ってきた。
インフェルノウルフの縄張りを侵そうとする愚かな者など、ここ数十年はいなかったのだ。
だから少し、そいつで遊ぼうとした。
配下に奴を包囲させ、じわじわと追い詰めていく。
──追いつめるつもりだった。
しかし、それはまるで
信じられなかった。
そいつは俺や、俺の配下が吐き出した炎獄の炎をものともせず、最速の魔物である俺たちの攻撃をいとも容易く避けたのだから。
三十二体いた俺の配下たちは、ものの数分で屍と化した。
配下を倒され、怒りが込み上げてくると同時に、俺は奴の動きに感心していた。
全ての動作に無駄がなく、流れるような動きだった。
そいつが腕を振るえば、配下の一体の首が飛んだ。
俺たちの攻撃を一歩前に進むだけでギリギリ躱すと、死角から攻めさせたはずの俺の配下の胴を手刀で真っ二つに斬り裂いた。
まるであの場が、全て奴に支配されていたように、俺たちの攻撃は一切通じなかった。
そして奴が俺たちに攻撃した回数は、三十三回。
俺を含めて、その場にいたインフェルノウルフの総数と同数だ。
そいつは、俺の配下を全て一撃の下に沈めていった。
俺すらも──
全く歯が立たなかった。
手刀の一振。
それで俺は、
しかし俺と、俺の配下たちは蘇生された。
蘇生してくださったのは、我が主だ。
俺が復活し、最初に見たものは──
俺を殺した
同じ姿形のヒトが、俺の前にふたりいた。
いや、片方はヒトではない。
俺を殺した奴だ。
そいつは、我が主の魔法だった。
改めて奴の魔力を近くで感じると、とてつもない魔力の塊であることがわかった。
こんな奴に、勝てるわけがない。
それを生み出した我が主に、俺は即座に忠誠を誓った。
そして、我が主のテイムを受け入れた。
実は受け入れたというより、強制的にテイムされたのだが……。
まぁ、それはいい。
さっそく我が主の命を果たす機会が来たのだ。
全力で相手をしてやろう。
そして、俺が有能であることを我が主に見せつけるのだ。
先ずは配下に探りをいれさせる。
俺はこのフロアのボスだ。
このボス部屋から出るわけにはいかない。
『ボス、人族のメスがいます。ひとりです』
配下から念話が飛んできた。
人族のメスがひとり?
本当か?
『どうします? 襲いますか? 愛でますか?』
少し悩む。
我が主の命令は、ここに来た者を全力で倒せというものだった。
しかし配下からの報告では、俺たちが全力で相手をするような敵ではないと思われる。
悩んだうえで──
『殺れ』
配下に命令を出した。
どんな敵であろうと、我が主の命令は絶対だ。
『わかりまし──っ!? あ、アレは!!』
『えっ、まじ?』
『いやいやいや、無理無理、無理だって!』
突然、配下たちの念話が混乱し始めた。
『お、おい、どうし──』
『ぎゃぁぁぁぁあ』
『う、うそだろぉぉ?』
『──いぎっ!?』
一瞬にして、人族のメスの側にいた配下たちの念話が途絶えた。
状況がわからない。
『おい、手の空いているものはいるか?』
このフロアの、他の場所にいる配下を偵察に向かわせようとしたのだが──
『えっ、あれは──っぐう!?』
『な、なんで貴方が』
『ちょ、ま──』
『うぎゃぁぁぁぁああああ!』
フロアの至る所から配下たちの悲鳴が聞こえてきた。
い、いったい、どうなっている!?
少しして、配下の悲鳴は聞こえなくなった。
恐らく、全滅したのだ。
信じられない。
報告のあった人族のメスに、そこまでの力があったというのか?
俺の配下も当然みなインフェルノウルフであり、最強の魔狼なのだ。
それなりに敵の力を読む能力がある。
しかし配下の報告では、人族のメスと言うだけで、大して強そうだなどという意見はなかった。
俺の配下がそう感じたと言うのであれば、実際にそのメスには大した力はないはずだ。
わけがわからない。
外の様子が気になり、ボス部屋から出ようかと考えていた時、この部屋の扉が開いた。
あ、あれ?
なんで
ボス部屋に入ってきたのは、我が主の分身魔法だった。
しかも奴が纏うオーラは、昨晩俺を倒した時のものと比べ物にならないほど膨れ上がっていた。
そんな奴の背後から──
もう三人のバケモノが現れた。
そして最初に入ってきた奴が、俺に向かって放った言葉は──
「悪いけど、ルナの経験値になってくれ」
俺への処刑宣告だった。
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