第207話 観戦と不死の魔王軍

 

 メルディたちが十一層目の魔物たちに囲まれていた時、ダンジョンのマスタールームはこんな感じだった。



「あの数のマホノームはえげつないのじゃ……」


 高威力のビームを放てるヨウコであれば、魔法耐性の高いマホノームといえど、殲滅は容易いだろう。


 それでも、ダンジョンでいきなり百を超えるBランクの魔物に囲まれるのは普通考えられないので、現在苦戦しているメルディに同情していた。


「キレヌーとセットで出現するのが厄介ですね」

「わ、私は十一層目……無理そうです」

「えぇ、そうかもしれません。もしリファさんがこのダンジョンに挑戦する時は、ハルト様に少し難易度を調整してもらいましょう」


 ティナとリファがそんな会話をしていた。


「お、おいハルト! セイラは大丈夫だろうな!? Bランクの魔物があんなにたくさんいる場所に送り込むなんて、聞いてないぞ!!」


「エルミア、心配するなって。ヤバくなったら俺がすぐ助けるから。それに──」


「「メルディさんがいるから、大丈夫だと思います」」


「そーゆーこと」


 ハルトの直感は、メルディならこの層をクリアできると告げていた。


 苦戦はするが、それを乗り越えれば彼女は一段階、強くなれると。


 今のメルディに足りないのは、高威力の魔法や物理攻撃を繰り出すために必要な溜めの時間を短くする技術だ。


 自分と同等、もしくは自分より格上の敵と戦う時、敵を目の前にしながら時間をかけて力を溜めなければ決定打を出せないなら、勝てるわけがない。


 また、溜めの時間を短くできないなら、逆に溜めを長くして、一撃で敵を殲滅できるだけの攻撃を身につけるべきだとハルトは考えていた。


 今のメルディは、攻撃速度も一撃の威力も、どちらも中途半端だった。



「ハルト、僕の気のせいかな? あの魔物たち、まるでなにかに操られているような気がするんだけど」


「私もそー思うの。なんかメルディだけ集中的に攻撃されてるの。普通の魔物なら、まずは弱い奴から狙うはずなの」


「シルフや白亜の言う通りだよ。あれ全部、俺が操ってる」


「「「えっ?」」」


「メルディに攻撃までの溜めを短くするか、一撃で敵を殲滅できる力をつけてほしくてね。ちょっと追い込んだら、きっと彼女は成長してくれるから」


 この層は、ハルトがメルディを成長させるために準備した層だった。



 ──と、ここでモニターからメルディの声が響いた。


『ウチの、ありったけを喰らうにゃ!』


 メルディの攻撃で、その場にいた魔物が全滅した。



「ほら、メルディならできるって言ったろ?」


 ハルトは満足そうに、膝の上に座るシルフの頭を撫で始めた。


 それは、メルディの成長が嬉しくなって、無意識に始めた行為だった。


「う、うん。僕もメルディ、凄いと思う」


 ハルトの意見に同調しながら、シルフは頭を撫でられて喜んでいた。


「ハルト、メルディが凄いのは私もわかったの。だから、私も撫でてほしいの!」


「んー。白亜は、次回このダンジョンで俺が指定するフロアをクリアできたらいっぱい褒めてあげるよ」


「えっ、今回は……ダメなの?」


「はいはい、ちょっとだけな」


 頭を撫でてもらえないと思った白亜がシュンとしてしまったので、ハルトは彼女の頭を軽く撫でてあげた。


「あ、ありがとうなの。次、私が挑戦する時、頑張るの! 元ダンジョンマスターの実力、ハルトに見せて褒めてもらうの!!」


「あぁ、頑張ってくれ」


 ハルトはテイムした魔人の強さを確認するため、白亜と戦わせようとしていた。


 敵が魔王クラスに強化された魔人であることなど、白亜はまだ知らない。



「メルディさんの攻撃が凄かったので、意識がそっちにいっちゃいましたが、あの百体はいたBランクの魔物をハルトさんがテイムしてるのにも驚きなんですけど……」


「ルナさん、私も同意見です。そもそもテイマーじゃないハルトさんが、あれだけの魔物を使役して、さらにそれが全部倒されたのに平然としているのが信じられません」


 ルナとリュカは冷静に、ハルトが成し遂げたことの難易度を分析していた。


 普通、魔物をテイムすると魔物との間に絆ができる。


 その絆があるからこそ、魔物はヒトの言うことを聞くのだ。


 しかし、魔物との絆ができるのは、良いことばかりではない。


 テイムしている魔物が倒れた時、絆で繋がっているヒトにも精神的なダメージがくるからだ。


 ハルトは百体もの魔物をテイムし、それを倒されたのに全くダメージを受けていなかった。



 魔物を使役しているのは、いつものように膨大な魔力で、無理やり成し遂げた荒業だ。


 精神的ダメージをうけなかった理由。


 ──それは、邪神の呪い〘ステータス固定〙の効果だった。


 ヨウコと主従契約を結んだ時と同じ。


 契約によりヨウコはハルトに従うが、ハルトは本来契約の効果で負うはずの彼女への庇護欲を無視できた。


 ハルトは魔物をテイムし、魔物からハルトへの絆はできているが、彼から魔物への絆はなかった。

 


 とはいえ、ダンジョン内を歩けば全ての魔物がハルトに懐いてくる。


 そんな魔物たちを使い捨てにできるほど、彼は冷徹になれなかった。


 だからハルトは、このダンジョンの十一層目以降にいる全ての魔物に対して、倒されても復活できるよう、ダンジョンコアにリザレクションをセットしていた。


 この遺跡のダンジョンでは、挑戦者だけでなく魔物も復活できる。



 ちなみに、ハルト以外の誰かがここの魔物を倒せば、経験値が手に入り、レベリングも可能だ。


 ハルトは自身が持つ無限の魔力を、仲間のレベルに変換できるシステムを作り上げていた。



 また、十一層目以降のフロアにいるおよそ千体の魔物たちは全てハルトの支配下で、全ての魔物が復活可能。


 それは、このダンジョン内に限定してみれば千に及ぶ不死の魔物の軍団をハルトが有していることを意味するのだが──


 本人もこのことをあまり自覚していなかった。


 最終層のボスは悪魔クラスの魔人。

 それも不死の特性を持つ。


 討伐難易度では、魔王級と言えるかもしれない。



 ハルトは仲間を鍛えるダンジョンを作るつもりで、不死の魔王軍を作り上げていた。

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