第204話 分身魔法の用途

 

「この俺の分身たちを、今後はみんなのブレスレットに数体ずつ入れとくから、必要があれば好きに使っていいよ」


「「「えっ!?」」」


 俺の言葉を聞いた妻たちが、一斉に俺の方を向く。


「私たちがなにかをお願いしたら、ハルトさんの分身がそれを聞いてくれるというのですか?」


 リファが俺の分身の服を掴みながら、問いかけてきた。


「うん。基本的にはみんなを護るための魔法だけど、ほとんど俺と同じだから……その、俺がみんなの相手をしてあげられない時とかに使ってもいいよ」


 夜寝る時、俺の両側に妻がひとりずつ寝るのだが、俺の希望で左側は常にティナで固定だった。


 空いてる俺の右側に他の妻たちが日替わりでくるのだけど、ティナ以外の十人の妻たちとは十日に一度しか一緒に寝てあげられないのだ。


 妻たちはみんな、俺と一緒に寝る時は嬉しそうにしてくれるので、その分一緒に寝られない夜は寂しい思いをしているんじゃないかと思う。


 実際にリファやヨウコからは、なんとかしてほしいと相談を受けていた。


 そんな俺の妻たちの相手を同時にできるようにするため、俺は分身魔法を創ったのだ。


「た、例えば主様の分身に、添い寝をお願いしてもよいのかの!?」


「いいよ」


「「一晩中、出現させててもいいのですか?」」


「大丈夫。戦闘とかで魔力の放出をしないなら、一晩くらいは魔力の補充なしでいける」


 実は添い寝する程度なら、十日ほど分身を出したままでも問題ない。


 しかし、十日間も俺の分身とずっと一緒にいたら、妻たちの情が分身に移ってしまうかもしれない。


 だから夜、添い寝をした分身魔法は、朝の挨拶をしたら一旦ブレスレットに戻るよう行動を制御していた。


 妻たちに寂しい思いをさせたくはないけど、それによって俺から気持ちが離れるのは嫌だ。


 これは完全に俺のエゴ。


「ブレスレットに戻ったら、その日の夜にはまた出してもいいのかにゃ?」


「もちろんいいよ。みんなに渡してるブレスレットには、周囲から俺の魔力を吸収する魔石を組み込んである。俺の屋敷には、俺の魔力が高濃度で漂ってるから、みんなが俺の屋敷で過ごすだけで勝手に魔力の補充がされる」


「ハルトさんに、魔力の補充をお願いしなくてもいいってことですね?」


「うん、ルナ。そーゆーこと」


 ブレスレットから分身を出すごとに、俺が魔力を補充してあげてもいいのだが、それだと妻たちが使いにくくなるかもしれない。


 毎日のように俺に魔力の補充を頼んできたら、それは毎晩分身と寝ていると俺に報告するようなものだからだ。



 まぁ、分身が消える時に、それが経験したことが全て俺に流れ込んでくるので、魔力の補充を頼まれなくても妻たちが分身を使ったかどうかはわかってしまうのだが。


「「ちなみに、分身を何体か同時に出してもいいのですか?」」


「それも大丈夫だよ。でも、分身を複数体出すと魔力の補充に時間がかかるから、連日の使用は無理かな」


 その後、妻たちの質問にいくつか答えて一旦質問タイムを終了し、ダンジョンのお披露目の方に移行することにした。


 サリーとリリアを、完全に放置してしまっていたからだ。


「ふたりとも、待たせてごめん」


「い、いえ。お構いなく」

「分身魔法……ハルト様は相変わらず、とんでもない御方にゃ」


 サリーが小声で、いつか俺の分身をもらえるように頑張るにゃ、と呟いていた。


 分身を渡せるのは、俺特製のブレスレットを持つ者──つまり俺の妻だけだ。


 もし、俺の分身が欲しいなら、サリーにも俺の妻になってもらわなくてはいけないな。


 とはいえ、サリーやリリアには将来俺のクランに入ってもらうつもりなので、護衛として炎の騎士なら、渡しておいてもいいかなーと考え始めていた。



 ──***──


 ダンジョンの入口にメルディ、セイラ、サリー、リリアを残して、俺は妻たちと一緒にダンジョンのマスタールームに転移した。


 この部屋の中央に設置されている巨大水晶がモニターとなり、ダンジョン内部の様子がチェックできるようになっている。


「さ、みんな好きな所に座って」


 事前にモニターの前に椅子を準備していたので、そこに座るよう案内する。


「我が主様の右側じゃ!」


 モニターの正面の席に俺を強引に座らせたヨウコが、そう宣言した。


「あっ、ヨウコさん、ズルいです!」

「では、私はいつものようにハルト様の左側に」


 リファがヨウコに文句を言っている隙に、サッとティナが俺の左隣の席に座った。


「じゃ、僕はにするー!」


 そう言ってシルフが、俺の膝の上に乗ってきた。


「「えっ、そこ……ありなのですか?」」


 いや、ありだとは言っていないけど……。


「むー。私もそこ、狙ってたの」

「白亜さん、私の膝の上ならいいですよ」

「リファ、ありがとなの!」


 ティナの横の席に座ったリファの膝の上に、白亜が嬉しそうに乗った。


 他の妻たちも、それぞれ席についたようだ。



 さて、ダンジョンのお披露目会を始めますか!


 俺はブレスレットを通じで、メルディたちにダンジョンを解放したことを伝えた。

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