第202話 久しぶりの再開とダンジョン前市場(仮)

 

 翌朝──


 今日は俺の屋敷に、エルノール家の全員が揃っていた。


「この食事、とても美味ですね」


「ティナのごはん、おいしー!!」


 いつもと少し違うのはヨウコの母キキョウと、風の精霊王シルフがいるってことだ。


 キキョウはエルノール家の一員になったので、これからはずっと俺たちと一緒に食事をすることになるだろう。


 シルフは昨日、リファをアルヘイムに迎えに行った時に俺たちについて屋敷までやってきた。


 シルフは俺の屋敷にいつか遊びに来たいと言っていたし、今日は俺がみんなに見せたいものがあったので、その観客のひとりになってもらうつもりでうちに滞在してもらっていた。


「ふふ、ありがとうございます。シルフ様、お代わりはいりますか?」


「うん、いる!」


 朝だというのに、シルフの食欲は凄かった。




「みんな、今日は暇?」


「えぇ。特に予定はないです。なにかあるのですか? ハルト様」


 俺は昨日準備したダンジョンを、みんなに見せたかった。


「遺跡のダンジョンを改装したんだ。で、そのお披露目をしたいなって」


「もうできたの? さすがハルトなの!」


 遺跡のダンジョンの以前のマスターである白亜には、事前にダンジョンを改装すると説明していた。


「うん。一般の冒険者が挑戦できるように難易度を調整して、ちょっと複雑な構造にしてみたんだ」


 元々、勇者の育成用として造られた遺跡のダンジョンは、勇者が好きにレベリングをできるよう全体的に単純な構造になっていた。


 それを、一般的なダンジョンと同じく迷路のようにして、階層も増やした。


 また、人造魔物や宝箱の設置などもしている。


「お披露目って、なにをするにゃ?」


「何人かに、俺が調整したダンジョンにチャレンジしてもらおうって思ってる。メルディもその候補なんだけど、お願いできる?」


「面白そうにゃ! ハルトのダンジョン、攻略してやるにゃ!!」


「そのほかの候補は誰なのですか?」


「実は、エルノール家じゃない人をふたり呼んでるんだ。理想としては四人パーティでの挑戦だから後ひとり、回復役が欲しいんだけど……」


「私がその役をやりましょうか?」

「わたしでもいいですよ!」


 回復職としてこの世界最高クラスの力を持つふたり──竜の巫女のリュカと、聖女のセイラが名乗りを上げてくれた。


「僕でもいいよ!」

「回復なら妾も、そこそこできます」


 シルフとキキョウも回復役として動けるようだ。


 でも、俺はすでに任せる人を決めていた。


「今回はセイラにお願いしていい?」


「わかりました!」


 こうして、俺のダンジョンに初挑戦するメンバーが決定した。



 ──***──


 みんなをつれて、ベスティエまで転移した。


 ベスティエ王都に入るための門の前で、見覚えのあるふたりが待っていた。


「ハルト様、お久しぶりですにゃ」

「お待ちしておりました」


 猫の獣人サリーと、犬の獣人リリアだ。


 サリーとは以前この国の武神武闘会で戦い、彼女の強さを認めた俺が、いつかクランをつくったら入ってほしいと声をかけていた。


 リリアはサリーの友人で、王都の検問所で働いている。


 ふたりとも、戦闘ができるような格好をしていた。


 俺はこのふたりの獣人に、俺の家族をサポートメンバーとしてつけて、俺のダンジョンを攻略してもらうつもりだ。


 昨日、サリーに渡してあった連絡用の魔石を通して、俺のダンジョンに挑戦してもらえないか打診した。


 ちょうどその場にリリアもいたから、彼女にもサリーと一緒にどうかと聞いてみた。


 彼女たちは俺からの連絡に驚いていたが、すぐにダンジョン攻略の件を了承してくれた。


「ふたりとも、今日はよろしくね」


「はいにゃ!」

「精一杯、頑張ります!」


 その後、サリーたちに会ったことのないキキョウやセイラたちを紹介し、俺の目的を改めてみんなに伝えておく。



 俺はベスティエ獣人の王国のオーナーになっている。


 ベスティエは俺の国だ。


 自分の国なのでその住人たちを、悪魔や魔人といった脅威から護りたい。


 しかし、俺がベスティエに常駐できるわけではない。


 危機が迫れば、転移で直ぐに来れるのだが、間に合わないこともあるだろう。


 獣人族はこの世界では強い種族だが、それでも個人で魔人を倒せる獣人は、魔法の使用を解禁した獣人王のレオくらいだ。


 だから俺は、魔人と戦える獣人を増やしたかった。


 とはいえ、魔人と戦えるレベルまでヒトを育てるのはかなり大変だ。


 普通に森などに発生する魔物を倒していては到底、レオのレベルまで強くなれない。


 特別なスキルでも持っていなければ、かなり効率よくレベリングする必要があるのだ。


 そこで活用できないかと考えたのたのが、勇者育成のために用意された遺跡のダンジョンだった。


 俺は遺跡のダンジョンを、仲間の強化のためのダンジョンへと変貌させた。



 一般的な冒険者には、一層から十層までを公開し、そちらを攻略してもらう。


 俺は元々、地下十層までしかなかったダンジョンに十一層から二十層までを追加した。


 この追加した層が、俺の仲間の育成フロアとなる。


 俺が組み込んたプログラムをこなしていけば、ダンジョンを踏破する頃には魔人を倒せるレベルになるように設定したつもりだ。



「それじゃ、早速だけど行こうか!」


 俺の妻たちと、サリー、リリアをつれて遺跡のダンジョンまで転移した。



 ──***──


「えっ!?」

「あ、あれ? な、なんで──」


 ティナを初め、その場にいた俺の家族妻たち全員が固まった。


  遺跡のダンジョンの前に設置した、転移魔法陣へと転移したのだが、そこに俺が準備していたモノにみんなが驚いていた。


「なかなか凄いでしょ? けっこう頑張って揃えたんだから!」


 俺はダンジョンの入口の前に、武器屋、防具屋、道具屋、食事処、宿屋などを作り上げていた。


 急ピッチで作ったので、建物は壁と屋根だけ。


 品揃えもまだまだ物足りないが、何となく形にはなっている。


 いずれ商人たちを招いて、ダンジョン前市場として活性化させていきたいと考えている。


 ダンジョンに冒険者を呼び込むためには、ダンジョンの中身も重要だが、それ以上に冒険者をサポートする環境が大事なのだ。


 俺はそれを、元の世界のラノベで学んでいたから、実現してみたのだ。


「ここにそのうち、小さな町を作りたいんだ。ダンジョンに挑戦する冒険者をサポートするための町だ。今はまだまだだけど──」


「あ、主様……」


「ん? ヨウコ、どうかした?」


「ダンジョンの入口付近に町ができることは知っておる。主様がそれを真似ているというのもわかる。しかし──」


 ヨウコが、近くの道具屋の店員のもとまで歩いていった。


「なぜ店員が、全てなのじゃ!?」


 ヨウコが武器屋の店員の服を引き、店の外へと引っ張り出した。



 ──彼は、姿

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