第185話 妻たちの奔走(3/9)
メルディとルナはハルトに転移してもらって、
その足で武神が祀られている武の神殿へと移動する。
「メルディさん、王様にご挨拶しなくてよろしいのですか?」
久しぶりに国に帰ってきたというのに、メルディが父である獣人王に会いに行こうとしなかったので、ルナが疑問を投げかけた。
「あんまり時間がないから、お父様への挨拶なんて調べものが終わった後でいいにゃ」
「そ、そうですか」
「そうにゃ。だいたいお父様がいる王城には、すごい魔導書なんて保管されてないから、そこに行く意味がないにゃ」
「王様のお城なのに……秘蔵書みたいなのは、ないんですか?」
「ないにゃ。獣人族って脳筋が多いから、そもそも本を読まない奴が多いにゃ」
メルディは、ルナやそのほかのクラスメイトと比較すると勉強ができる方ではない。
しかし、そんな彼女も試験勉強などでたくさんの魔導書を読んでいる。
彼女は獣人族の中では珍しく勤勉な存在だった。また、メルディの学力が低いかと言われると、そうではない。
彼女は同学年の中では上位に入る成績を残しているのだが、その他のクラスメイトが上級生を含めた学園全体の成績順位で最上位に入るため、相対的にメルディの学力が低く見られてしまうのだ。
メルディはベスティエの王城に保管されている書物は全て読破していた。それは獣人族でありながら魔法を使う職に適性が出てしまったメルディが、必死に強くなろうと足掻いた証だった。
「この国で分身魔法のヒントになりそうなのって、もう武神様の神殿くらいしかないにゃ。だからルナはウチじゃなくて、リファとかについていけばよかったかもにゃ……ゴメンにゃ」
「いいですよ。私は久しぶりに、メルディさんとふたりでお出かけできて嬉しいです」
クラス全員で他国に出かける際、ルナはメルディと同室になることが多かった。その時ふたりは、いつもひとつのベッドで一緒に寝ていた。
誰かと一緒に寝ることが好きなルナは、一緒に寝ようと誘ってくれたメルディのことが好きだった。
「ウチとふたりでいいのかにゃ?」
「えぇ。私はメルディさんが大好きですから」
柔らかく微笑むルナが、メルディにはすごく可愛く見えた。
「ウ、ウチもルナのこと、大好きにゃー!」
「あはは。メルディさん、くすぐったいです」
メルディがルナに抱きついて、その頬をぺろぺろ舐めた。
少しザラザラするメルディの舌が、適度に心地よく、ルナから笑い声が漏れる。
「ルナにちょっと……相談があるにゃ」
ルナから離れたメルディが、少し頬を赤らめながらルナに話しかけた。
「なんでしょう?」
「今回は夜に添い寝してくれるハルトを増やすために、ウチらは分身魔法を創ろうと動いてるにゃ。でも、いつかは、添い寝だけじゃなくて──」
「そ、それって」
ルナはメルディの言いたいことを理解した。
そしてルナも、メルディと同じように顔を真っ赤に染める。
「ウチ、そーゆー経験がないから、できれば、その……初めてハルトとする時は、ルナと一緒にしたいにゃ」
「わ、私と、一緒にですか!? で、でも、私だってそんな経験ありませんよ」
「ひ、ひとりはちょっと、怖いのにゃ。ウチ、ルナと一緒なら、大丈夫かにゃって」
メルディがルナのローブの裾をつまむ。
その手が震えていた。
「ルナは、嫌かにゃ?」
さすが猫の獣人だ。
甘えるのが、上手すぎる。
うるうるした目をしながら、そんなことを言われて、ルナが断れるはずがなかった。
「……わかりました。ハルトさんが、いいって言ってくだされば、ふたりでさせてもらいましょう」
「いいのかにゃ!?」
「はい。私も、メルディさんと一緒にできたら……その、嬉しいです」
「や、約束にゃ! ハルトとする時、ルナとウチは、一緒にするにゃ!!」
「ちょ、ちょっとメルディさん。そんな大きな声で言わないでくださいよぉ」
周りにヒトがいないとはいえ、大声で夜の営みを一緒にすると宣言されて、ルナは顔がさらに赤くなっていた。
「ごめんにゃ。でも、そーと決まれば俄然、ヤる気がでてきたにゃ! まずはハルトと一緒に寝るのに慣れるため、分身魔法を創るにゃ」
「は、はい!」
メルディはルナの手を握って、歩き始めた。
実はルナもメルディも、ハルトの隣で寝る日は、ドキドキしすぎて朝まで眠れないことが多かった。
まだハルトと一緒に寝るローテーションに入って日が浅いふたりには、仕方のないことだ。
しかし、ずっとその調子では、いざハルトが
まずはハルトとの添い寝に慣れるため、ルナとメルディは分身魔法を創りだしたかったのだ。
それに関するヒントを探すため、ふたりは手を繋いで、武神の神殿へと向かった。
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