第173話 聖都防衛戦(3/4) 『賢者と竜の巫女』

 

 竜人の里に転移して、リュカとリューシンを連れて聖都サンクタムに戻ってきた。


 いざと言う時のためにクラスメイト全員に、転移魔法陣を貼り付けていたので、リュカたちのもとに移動するのは簡単だった。


 ただ、急いでいたってのもあり、あまり考えずにリュカの近くに転移してしまい──


 ちょっと色々あった。



 ──***──


 俺は入浴中だったリュカの目の前に転移してしまった。


 広い露天風呂だった。

 一糸まとわぬ姿のリュカが、そこにいた。


 固まる俺。

 顔を真っ赤に染めるリュカ。


 そして繰り出される白い鱗で覆われたドラゴンの尾による攻撃──


 突然風呂場に侵入してきた俺を、リュカが外まで吹き飛ばそうとしたのだ。


 このリュカの攻撃で、外まで飛ばされれば良かった。


 でも俺は、ステータスが〘固定〙されているせいでノックバック効果を受けない。


 避けることもガードもしなかったが、リュカの攻撃で俺がダメージを負うことも吹き飛ばされることもなかった。


「なっ、なんで!?」


 結構強めに叩いたつもりなのだろう。

 微動たりともしなかった俺に、リュカが驚いていた。


 部分竜化して尻尾を出現させたことで、リュカの身体はいろんな部分がドラゴンの鱗で覆われていた。


 そのおかげで、直視してもいいかなーと思える姿になっている。とはいえ全裸であることに変わりはないので、かなり色っぽい。


「リュカ、ごめん! 時間がないんだ。とりあえず、俺についてきてくれ!!」


「いきなりそんなこと言われましても──」


 その時、風呂場の扉が勢いよく開いた。


「リュカ! 大丈夫か!? なにが──って、ハルト?」


 リューシンが風呂場に飛び込んできた。


 コイツら、一緒に住んでるのか?

 やっぱり付き合ってるのかな?

 いや、既に夫婦って可能性も……


 そんなことを考えていたら──


「なんでアンタまで入ってきてるのよ!!」

「へぶしッ!」


 リュカは俺を殴った竜の尾で、今度はリューシンを殴り飛ばした。


 情けない声を上げながら、リューシンは家屋の方へと吹き飛んでいった。


「あ、私が弱体化したわけじゃないんですね」


「えっと、ふたりは一緒に住んでるんだな。なんか……ごめん」


 もしふたりが付き合っていたり、夫婦だったりしたら、リュカの入浴中に突然現れた俺はリューシンに殴られても仕方ないと思う。


 まぁ、殴られたとしても俺はダメージ受けないのだ。ちょっと申し訳ない。


「なにか、誤解していませんか? 私とリューシンは姉弟きょうだいですよ」


「そーなの?」


「えぇ。それから竜の巫女は家族以外の異性で身体を見せていいのは、夫だけという竜神様がお決めになったしきたりがあってですね……」


「えっ」


 なんか、やばいことをしてしまった気がする。


「ちなみに、そのしきたりを守らないとどうなるの?」


「竜の巫女としての力を失います」


「そ、それっていつから?」


「もう失ってると思います……ほら、リザレクションが発動しません」


 リュカが手を掲げて、魔法を発動しようとしているが、魔力が集まるだけで何も起きなかった。


「まぁ、ドラゴノイドとしての力は残っているので問題はないです」


 リュカは部分竜化もできたし、リューシンを吹き飛ばすほどの力も健在だった。


 しかしそれでは困る。


「今、聖都が悪魔に襲われてるんだ。聖都を守る結界を発生させるクリスタルを直さなきゃいけない! 何とか、竜の巫女としての力を取り戻せないか?」


「そ、そうなのですか!? えっとですね……竜の巫女の力を取り戻すには、私の身体を見た異性が夫になればいいのです。つまり、ハルトさんと結ばれれば──」


「……はい?」


「ハルトさんは、私と結ばれるの……嫌ですか?」


 リュカが上目遣いで尋ねてきた。


 この世界に来て、だいぶ感覚が麻痺している。

 何人も嫁がいるのに、拒む気が起きない。


「嫌では、ないけど……リュカはいいの?」


「元々、竜の巫女はできるだけ強い男性と子をなさなくてはならない定めがあります。本来であれば里一番の強者と結ばれるのですが、今はそれがリューシンなんですよね」


 さすがに、姉弟で結婚することはないらしい。


「里一番の強者と結ばれないのであれば、竜の巫女は外界で強者を探さなくてはいけません。そのために私は、世界最高と言われるイフルス魔法学園に入ったのですけど……ハルトさんなんです。私が出会った中で、一番の強者は」


 リュカが近づいてきた。


「唐突かと思われるかもしれませんが、私はずっとハルトのこと狙っていました」


 そう言ってリュカが目を閉じて、唇を差し出してくる。


 キスしちゃえばいいのだろうか?

 ……いいんだよな?


 また勝手に嫁を増やしたってリファに怒られそうだ。ティナは、夜寝る時ずっと一緒なので文句を言わないと思うけど。


 そろそろ真剣に分身魔法を覚えるべきなんじゃないかな。



 俺はリュカの唇に軽く触れた。


「ふふふ、これで私は今からリュカ=エルノールですね。実はヴォルガノ=リュカって名前、なんか名乗るのが恥ずかしかったんです。あっ、もちろん家族はみんな大好きですよ」


「そうなんだ。ところで、竜の巫女の力は戻った?」


「試してみます!」


 そう言ってリュカが、そばに転がっていた魔石に手をかざす。


 彼女がリューシンを殴った時に、この露天風呂にお湯を流していた魔石が壊れていたのだ。


 それが、リュカのリザレクションによって一瞬で修復された。


 相変わらず、とんでもない魔法だと思う。


「大丈夫みたいです。これで早速、旦那様のお役にたてますね。さ、聖都へ急ぎましょう!」


 そう言ってリュカは全身の鱗を器用に変化させてまるで服のようなモノを作り出した。


 どうやらリューシンより彼女の方が、部分竜化の技術が高いらしい。しかし──


「それってさ、竜の鱗を纏ってるだけで、ようは全裸だろ? その……できれば服を着てほしい」


 俺の妻になったリュカの全裸を、他の男に見られるのは嫌だった。


「あっ、そ、そうですよね。すぐに服を着てきます! ハルトさんは、リューシンを起こしてつれてきてもらえますか? 義弟になるんですから、彼も旦那様のために働かせましょう!!」


 リュカは家屋の方へと走っていった。


 そうか俺、リューシンの義兄あにになるのか……。

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