第156話 ダンジョン管理の交渉
ベスティエにある遺跡のダンジョンの管理を任せてほしいと創造神様に交渉してみた。
元々、勇者を育てるために創造神様が創ったものだが、勇者は百年に一度来るか来ないかくらいであるうえに、遺跡のダンジョンはレベル100以下の異世界人がグループにいなければ入ることができない。
そのため、ほとんど活用されることがなかった。
遺跡のダンジョンはこれまでに二回踏破されたのだが、その二回とも踏破者は俺だった。
さらにダンジョンの管理者である白亜が、俺の家族になった。
また、ダンジョンの管理には大量の魔力が必要だ。冒険者を呼び寄せるエサとなる魔物を生み出すのにも、ダンジョンを拡張するのにも魔力が要る。
逆に言えば、魔力があれば大抵のことができてしまう。そして、俺には
──それらの情報をまとめて、俺がいかにダンジョン管理に適しているかを創造神様に説明した。
魔力陣の文字を魔力で書くことのできる俺は、魔力を文字の形にすることもできるし、それに色をつけて他人に見えるようにすることも可能だ。
少し訓練したら、イラストも描けるようになった。
俺は絵が下手なんだけど、見たことある風景や物をイメージすれば、それを魔力でイラスト化することができる。
明確にイメージできれば、見たことないものでもイラストにできるようになっていた。
その要領で、俺は資料を全て魔力で作り、空間に投影して創造神様にプレゼンしたのだ。
俺の要望は、あっさり創造神様に許可された。
「ベスティエにあるダンジョンの管理はハルトに任せよう。低レベルの者たちの育成ができるダンジョンにするというアイデアは素晴らしい。是非とも、やってくれ」
「ありがとうございます!」
創造神様に褒めてもらえた。
多くの初級冒険者のレベルが上がれば、ゆくゆくはヒトの強さの平均が上昇する。これは創造神様にとって嬉しいことのようだ。
ヒトが強くなれば平均寿命が延び、祈りを捧げてくれる期間が増える傾向にあるという。
「ところで、この空中に文字や絵を映し出すのはどうやっておるのだ?」
創造神様は俺のプレゼン資料に興味を持ってくれた。
「俺は魔力を操作して、文字を空間に書くことができます」
指先に魔力を集めて、『こんにちは』という文字を空間に浮かべてみせた。
「普段はこれを利用して、魔法陣を描くのですが、今回は応用して絵もつけてみました。いかがでしたか?」
「ふむ、素晴らしいの一言に尽きるな。非常にわかりやすい説明であった」
この世界の情報といえばほとんどが文字で、少し絵がある程度。
写真のようなイラストが添付された俺の資料は、かなり分かりやすかったはずだ。
情報リテラシーの授業を真面目に受けてて良かったと思う。まさか異世界にきてから活用できる日がくるとは思ってなかったけど。
なんにせよ、創造神様からダンジョン運営の許可を頂けた。
「では、遺跡のダンジョン管理は今後、俺たちがやらせていただきますね」
「あぁ、よろしく頼む。それから、儂が出したした条件だが──」
プレゼンの終わりに創造神様が念話を使い、俺にだけ聞こえる声で、とある条件を提示してきた。
「はい、それもなんとかします」
俺はその条件を呑んだ。
創造神様は
「そうか。では、その件も頼むぞ」
その言葉を最後に、創造神様が姿を消した。
気付くと、俺たちは大神殿の廊下に立っていた。
「ハルト様、創造神様が最後に言われていた条件とは、なんのことですか?」
「んー、今はまだ秘密にしてていい? 魔法学園に帰るまでには絶対に教えるから」
ティナに聞かれたけど、まだ教えるわけにはいかなかった。
ないとは思うけど、もし失敗した時、色々と気不味くなる可能性があったから。
しかし家族に関係することなので、創造神様の条件を達成した場合、学園に帰るまでにはみんなに説明する必要がある。
みんな、創造神様の出した条件が気になるようだったが、俺が絶対に説明すると約束したことで引き下がってくれた。
俺が創造神様から出された条件、それは──
聖都サンクタムの聖女を、エルノール家に迎え入れる──つまり、セイラとも結婚しろというものだった。
ただ、本当に結婚する必要はないらしい。
セイラを聖女の役職から解放することができればそれでいい。
創造神様は二百年もの間、聖女を続けてくれたセイラを休ませたいのだそうだ。
実は創造神様は、セイラに聖女を代替わりしても良いと何度か神託を出していた。
しかし、セイラは責任感が強く、自信を持って後任を任せられる人物が育っていないこともあって、その創造神様の申し出を断っていた。
後を託せる聖女候補が育ったことは何度かあったが、タイミング悪く魔王復活などと時期が被って、創造神様が神託を出せなかったようだ。
聖女候補を育てるのには時間がかかるが、聖女候補から聖女になれる期間は短い。
十六歳の誕生日を迎えたばかりの純潔の乙女でなければ、聖女になれないのだ。
そのためセイラが二百年もひとりで聖女をやることになってしまった。元がただの町娘なので、とてつもない精神力の持ち主だと創造神様も言っていた。
そして今週、聖女になりうる能力を持った少女が誕生日を迎えるらしい。
そのタイミングで、創造神様は神託を出すつもりのようだ。俺の仕事は、セイラが聖女を辞める後押しをすることだった。
セイラを口説いてもいいし、彼女を無理やり襲って純潔を散らしてもいいらしい。
とはいえ、俺がふたつめの選択肢を選ぶことは絶対にない。創造神様も俺がそんなことをするわけがないと分かっているから、その選択肢を教えてくれた。
さて、どうしようかな?
俺はどうやってセイラを聖女の職から解放するかを考えながら、大神殿を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます