第155話 邪神の失敗(番外編)

 

 邪神がハルトを転生させた直後──


「我は、かなり力を使ってしまった……暫く休む。後のことは頼んだぞ」


「はい」


 邪神は後のことを式神に任せ、椅子に座ったまま眠りにつこうとしていた。


「あっ! 邪神様!」


「なんだ? もう、限界だ。寝させてくれ」


「あの者の転生先を決めていませんでした!」


「……なに?」


「このままですと、あの異世界人の魂がこの神界に漂います。そうなれば、勝手に異世界人を転生させたことが創造神様にもバレてしまいます」


「だったら、その辺の奴隷にでも転生させておけばよかろう」


「式神の私じゃダメなんです。神である邪神様が転生先を決める必要があるんです!」


「くそっ……わかった。じゃあ候補を持ってこい」


「はーい!」


 そう言って式神が、円状のボードと手投げの矢を持ってきた。


「おい、なんだこれは?」


「ダーツという異世界の遊戯です。このダートを、私が持ってる的に向かって投げてください」


 式神が手投げの矢を邪神に手渡す。そして、邪神のもとから歩いて少し離れ、頭上に的を構えた。


「では、どうぞ! 私に当てないでくださいね!」


 遥人の転生と呪いにかなりの力を注ぎ込んだ邪神は、今すぐにでも眠りにつきたかった。


 そのため、式神が持つ的に書いてある文字をほとんど読まずにダートを投げた。


 神というのは基本的に万能だ。


 的に向かって矢を投げるという行為も、たとえ適当にやったとしても必ず狙った所にいく。


 邪神は何も考えずに、的の中央を狙った。


 神である邪神が投げたダートは、当然の如く彼の狙い通り、的の真ん中に突き刺さった。


「おぉ! 邪神様、おめでとうございます! 一発で決まりました──って、あっ……」


 邪神はダートを投げた直後、意識を失った。

 眠りについたのだ。


 それは、いい。

 ほっといても邪神はそのうち目覚めるのだから。


 問題は遥人の転生先だった。


 式神が持つ的の大部分──およそ九割が『奴隷』だった。


 残り一割弱が『平民』で、これは的の中心付近にわずかばかり分布していた。


 そして的の中心──米粒のように小さな領域に『貴族』という転生先候補が記されていた。


 邪神が投げたダートは、ものの見事にその米粒大の領域に突き刺さっていたのだ。


 ちなみに、的もダートも式神が邪神の力の一部を借りて創り出したものであり、的にダートが刺さった時点で、遥人の転生先が決定していた。


 刺し直したところで意味は無い。



「やば……」


 式神の顔に冷や汗が滲む。

 恐る恐る邪神を見た。


 邪神はダートを投げ終わった体勢のまま、眠っていた。


「き、決めたのは邪神様ですからね!? それにステータス固定されてるんですから、彼が活躍するなんてことはないはず。うん、うん、絶対に大丈夫!」


 自分を正当化するように、眠る邪神にそう話しかけた式神は、急いで的とダートを処分した。



 こうして遥人は、グレンデール王国の有力貴族であるシルバレイ伯爵家の三男として転生することが決まったのだ。

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