第150話 騎士の蘇生
「これくらいで足りますか?」
ハルトさんが、そう聞いてきました。
信じられませんでした。
普段、私が創造神様から頂く何倍もの魔力を送り付けておいて『足りますか?』──って。
私が聖女になった日から今日まで、魔力がいっぱいになったことなんて無かったんです。
聖女ってそういうものなんだそうです。
魔力量の上限がかなり上昇します。
以前、創造神様から魔力をいただいてすぐに確認したステータスボードには──
魔力:252000/???
と表示されていました。
創造神様が一度に下さる魔力にはバラツキがありますが、だいたい二十万前後でした。
レベル90の上級魔法使いの魔力量が最大で五千程度なので、二十万の魔力というと上級魔法使い四十人分に相当します。
凄い魔力なんです。
それだけの魔力を創造神様から受け取っても全然余裕がある私って、凄くないですか?
密かな自慢だったのです。
しかし今日、その受け取れる魔力量に限界があることを初めて知りました。
私はハルトさんから魔力をもらいすぎて、ちょっと気持ちよくなってしまいました。なんだか体が熱くって、頭がボーッとします。
これは多分、魔力酔いです。
魔力を、自分の器以上に受け入れてしまうと魔力酔いという症状がでます。
他人の魔力をもらう時になるのも魔力酔いと呼ばれていますが、魔力の波長を合わせることで、受け渡しによる魔力酔いは防げます。
賢者だというハルトさんは、さすがでした。
私の魔力の波長を、まるで以前から知っていたかのように、ピッタリと合わせて、しかも聖属性の魔力に変えて渡してきてくださったのです。
ですから、魔力の受け渡しで魔力酔いにはならなかったのですが──
感覚的にいつも創造神様から頂く魔力の量を超えても、ハルトさんが送ってくる魔力が途切れなかったので驚いていたら、急に身体が熱くなってきました。
私は聖女になって以来初めて、魔力酔いを体験することになったのです。
リザレクションに必要な魔力量は一万です。
聖都の結界の維持に必要な魔力は十万です。
これで、ハルトさんが私に送ってきた百万もの魔力がどれほど異常であるか、お分かりいただけますでしょうか?
聖女である私が、魔力を送ってくださっていたハルトさんの手を強引に振り払って逃げてしまったのも仕方のないことなのです。
いったい、どうなっているのでしょう? 賢者と言っても、これほどまでの魔力をどうやって──
いえ、今はそんなこと気にしている場合ではありませんね。
私を守るために命を落とした騎士たちには時間がないのです。魂と肉体との結びつきが弱くなってきている者が何人かいます。
急いで彼らを助けなくてはいけません。
いくらハルトさんから魔力を頂いてリザレクションが使えるようになっても、魂と肉体の結び付きが希薄になってしまえば、私では蘇生できないんです。
竜人の里にいると噂される竜の巫女──彼女であれば遺体の魔力から、それに呼応する魂を見つけ出して蘇生させられるので、最大一日の猶予があるそうですが……
あいにく私は竜の巫女にお会いしたことはありませんし、そもそも本当に存在するのかも怪しい人物です。そんな方を頼れません。
ですから私の騎士たちは、なんとしても私が蘇生させなければなりません。
私はハルトさんに深くお辞儀してから、蘇生の準備に取り掛かりました。
リザレクションは肉体から離れた魂を肉体に戻す魔法で、肉体の損傷が自動で治るわけではありません。なので、まずは騎士たちの遺体を治癒しなくてはならないんです。
私が回復魔法を使おうとしていると──
「聖女様はリザレクションのために魔力を取っておいてください。彼らの肉体を治癒するのは俺がやります」
ハルトさんがそう言ってくださいました。
私、百人を蘇生させられるだけの魔力を貴方から頂いているのですけど……それに、手足が千切れた者の治癒は、いくら賢者といえど難しいはずです。
そう言おうとしましたが、ハルトさんはすでに動き始めていました。
彼のお仲間と、我が騎士であるシンにも指示を出しながら、散らばっていた騎士たちの亡骸を一箇所に集めました。
そして──
「ヒール!」
本日何度目でしょうか。
目を疑いました。
ハルトさんは確かにヒールを使いました。
それは魔力の流れからも間違いありません。
なのにその効果は、ヒールの
回復に特化した、療術師──その中でも上級者のみが使用可能となるブライトヒール。
彼が使用したのは、まさにそれでした。
酷く損傷していた騎士の亡骸が、瞬く間に回復していきました。
私は聖女です。
特技は創造神様から神託を頂くことと、そのお力をお預かりし、利用させていただくこと。
それから人々の怪我や病気の回復です。
私はこの世界でトップクラスの回復魔法使いなんです。
一番だと言ってもいいと思ってました。
そんな私から見て、ハルトさんの魔法は異常でした。
回復ではなく、時を戻したかのような……
「これでよし。ルナ、聖女様が蘇生魔法を使いやすくなるよう補助をお願い」
「分かりました!」
彼の
「あ、ありがとうございます」
この補助魔法も普通ではありませんでした。
かけていただいたのは、コンセントレイアップという集中力強化の補助魔法で、魔法発動の成功率を上昇させてくれます。魔法の効果を少し向上させてくれることもあります。
一般的な付術師の補助魔法とは、ステータスが数パーセント上昇する程度のものなのですが、私にかけられた補助魔法は私の集中力を数倍にも高めてくださるものでした。
魔法をかけてくださった青髪の少女が、まるでレベル100を超えているかのような効果……
いえ、さすがにそれはないですね。
付術師でレベル100を超えるなんて聞いたことがありません。いくらパーティーを組んで魔物を倒しても、個人で魔物を倒せない付術師は、とてもレベルを上げにくいのですから。
きっと、レアな魔具でステータスを補っているのです──そう思うことにしました。
さぁ、私の騎士たちを蘇生させましょう!
「リザレクション!」
いつも通り、魔法を発動させたつもりでした。
目の前にいる、蘇生までのタイムリミットが近い騎士ひとりに対して発動したはずの魔法。
しかし、ハルトさんからもらった莫大な魔力と、
その魔法発動エリアにいる、全ての者に癒しと加護を与える究極の回復魔法──ディバインブレスが発動したのです。
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