第149話 初依頼?
魔人を倒した。
この場には二体の魔人がいたわけだけど、俺の家族なら問題なく撃退できることが分かって、ほっとする。
一体は俺が仕留めちゃったけど、あのまま戦っていればヨウコは魔人を倒せたはずだ。
不安があるとすれば、ルナがひとりで魔人か悪魔に遭遇した時かな。付術師であるルナが個人で魔人と戦うのはかなり厳しい。
ルナにはみんなに渡しているブレスレットより、強めの魔法を込めた魔具を渡しておこうと思う。
「あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございました。このお礼は、必ずします」
セイラが俺たちに頭を下げた。
「気にしなくていいよ。たまたま移動してきた所にセイラがいたから助けただけ」
「お前、聖女様を呼び捨てにするなんて……死にたいんすか?」
おっと、騎士さんに怒られてしまった。
昔のクセでつい……。
セイラと呼んでくれって彼女から頼まれたからそう呼んでたんだけど、それは俺が百年前に勇者だった時の話だ。
今は一般人である俺が、聖女様をそう呼んだら怒られてしまうのも無理はない。
「シン、おやめなさい。この御方は英雄ティナ=ハリベル様のお仲間ですよ」
「えっ!?」
セイラはティナのことを覚えていたようだ。
俺のことは分からないみたいだけど──
まぁ、仕方ないさ。
自分を守ってくれていた童顔エルフが、世界を救った英雄ティナだと教えられ、騎士さんは驚いていた。
「私の騎士が失礼致しました」
「いえ、気になさらないでください。こちらこそ、聖女様に無礼なもの言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」
とりあえず謝っておく。
騎士さんが睨んでくるので敬語で話す。
「セイラさん、お久しぶりです。私のことを覚えていてくださったんですね」
「もちろんです。聖都を、そして世界を救ってくださったティナ=ハリベル様を忘れるはずありません」
「ありがとうございます。ひとつ、訂正させてください。私、今はティナ=エルノールなんです」
「エルノールって、もしかして──」
「はい。私は、ハルト様の妻です」
そう言いながら、ティナが俺の腕に抱きついてきた。ちょっと恥ずかしい。
「改めまして、ハルト=エルノールです。グレンデール王国在住の賢者です」
「そ、その若さで賢者ですか……」
レベル1なんですけどね。
「ステータスボード、見ますか?」
「い、いえ、大丈夫です。先程の魔法が貴方のお力を証明していましたから」
俺の力を見せつけることができたので、セイラの目の前で、魔人を倒したのは正解だった。
これで将来、俺を頼ってくれること間違いなしだ。
ご依頼、お待ちしておりまーす!
「あの、お願いがあるのですが……」
「えっ」
いきなり依頼がきてしまった。
「なんでしょうか?」
「彼らを聖都まで運ぶのを手伝っていただきたいのです」
セイラの依頼は、周りで死んでいる聖騎士たちを聖都まで運ぶことだった。
聖都まで戻れれば、彼らを蘇生させられるらしい。でも、時間がなかった。
「今から聖都まで応援を呼びに行くと、何人かは助けられません。お願いです。お力をお貸しください」
セイラが地面に膝をつき、俺たちに頭を下げた。白い鎧を纏って死んでいる者たちは、聖騎士というセイラを守る兵士だ。
聖女という権力者でありながら、自分の部下を助けるために躊躇なく頭を下げられる彼女はすごいと思う。
「お、俺っちからも頼むっす。先輩たちを助けるために、協力してほしいっす!」
騎士さんも、聖女様に並んで土下座してきた。この人ならひとりで数人運べるかもしれないが、全員は助けられないと判断して、俺に頼み込んできたのだ。
周りを見渡す。
何人かの聖騎士は手足をもぎ取られていた。
内臓をぶちまけている者もいる。
彼らをそのまま運ぶのには抵抗があった。
「聖都まで運ばずに、ここで蘇生させましょう。聖女様は
昔、セイラが蘇生魔法を使ってるのを見ていたから知っている。そして、ここで今、彼女がそれを使えない理由も──
「リザレクションは使えます。ですが……魔力が足りないんです」
蘇生魔法には膨大な魔力が必要だ。
元々魔力量が多いリュカですら、蘇生魔法を使う時は竜化して、魔力量を底上げしてからでないと使用できない。
セイラは創造神に祈り、信仰心を捧げることで、魔力を分け与えられる。彼女はその創造神からもらった膨大な魔力を全て受け入れられる『器』ではあるが、本人が魔力を生み出す能力が高いわけではない。
今、セイラの魔力量はほぼゼロだった。
そのため、聖都に戻り魔力を創造神からもらわなくては蘇生魔法が使用できない。
とはいえ、足りないのは
そして、ここには俺がいる。
全ての問題が解決した。
「俺が聖女様に魔力を渡しますので、それでリザレクションを使ってください」
「む、無理です。いくら貴方が賢者でも、ひとりの蘇生にいったいどれほどの魔力が必要か──」
「まぁまぁ、それは主様から魔力を受け取ってから判断してほしいのじゃ」
「「その通りです!」」
俺から魔力を受け取ったことのある三人が擁護してくれた。
化け物クラス──というか、九尾狐だから本物の化け物なんだけど──の魔力を持つヨウコと、見た目からもかなり上位の精霊だと分かるマイとメイが説得してくれたので、セイラは俺から魔力を受け取ることに同意してくれた。
「それじゃ、いきますね」
「は、はい。お願いします」
セイラに魔力を送り付ける。
ついでに彼女が扱いやすいよう、聖属性にしてから放出していく。
百万くらい送ったところで──
「あ、あの! も、もう、はいらないです」
セイラがちょっと苦しそうに魔力を送り込んでいた俺の手から、逃げるように離れていった。
なんだ、この程度でいいのか。
大量の魔力を送り込んだことで存在の格を上げたマイたちとは違い、セイラは人族なので、魔力の入れすぎはよくない。
「う、うそ……こんなことって──」
セイラの身体が、ぼんやりと光り輝いていた。
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