第148話 エルノール家の戦力
「──ん? えっ!?」
サンクタム近くの森に転移したら、いきなり左右から魔法攻撃を受けたので、慌てて魔法壁を展開して防いだ。
多分、それは俺を狙ったんじゃない。
転移したら俺の目の前にいた男女。
彼らを狙った攻撃に、俺が巻き込まれたんだ。
ついでなので、ふたりも守っておく。
女性の方は見覚えがあった。
転移用の魔法陣は転移先にヒトがいるかどうかを検知できる機能があるが、俺はそれを使うのを忘れていた。
ダンジョン運営の相談を創造神様にしに行くということで、ワクワクして気が急いていたというのと、転移魔法陣を聖都からだいぶ離れた森の中に設置していたから、油断したんだ。
ただ、攻撃してきたのはヒトじゃないみたいなので、どのみちそいつらを検知することはできなかったと思う。
転移魔法もまだまだ改良の余地があるな。
少なくとも、転移先にいるヒトを検知する機能は自動で発動するようにしておかなくては。
今回は偶然、知り合いを助けることができたから結果オーライだ。
「あ、あんた誰っすか?」
騎士の格好をした男が尋ねてきた。
騎士なら相手に名を尋ねる前に名乗れよ。
それが、この世界の騎士道だろ?
そう思ったが、かなりピンチだったようで、現状が把握できず混乱してるのも無理ない。
「俺はハルト=エルノール。グレンデールの賢者です」
「け、賢者!?」
最近は賢者を名乗るようにしている。
必要ならステータスボードの職業欄だけを見せて、その証明もする。
名を売っておけば、将来クランを立ち上げた時に依頼が入りやすくなるからだ。
特に相手が権力者であれば、割のいい依頼をくれる可能性が高くなるので、しっかり賢者であることをアピールしておく。
俺の記憶が正しければ、目の前でペタンと座り込んで騎士に守られている美女は、サンクタムの聖女様。
聖女様と言えば、聖都では一番発言力がある人物で、俺のクラン発展のためにも是非とも仲良くさせていただきたい御方だった。
俺がこの美女を聖女様──セイラだと知っているのは、百年前ティナと一緒に会ったことがあるからだ。
あの時は確か、聖都に迫っていたスタンピードを止めにいったんだっけ?
それから、聖女である間は歳を取らないというのは本当だったんだ……昔見た時と変わらず、セイラはすごく綺麗だった。
俺は当時のセイラと少し仲良くなっていたので、声をかけようとも思ったが今の姿で『俺』だと分かるわけがないのでやめておいた。
とりあえず
「ハルト様、これは──」
「なんか、やばそーな奴らがいるにゃ」
「多分、魔人じゃの。我が殺ろうか?」
「「私たちでもいいですよ!」」
「わ、私は……ちょっと無理そうです」
「じゃあ、ルナさんは私に補助魔法を下さい」
「それならお任せください!」
どうやって魔人を倒そうかと考えていたら、転移魔法陣からみんなが出てきた。
転移先に魔人がいたわけだけど、みんなが転移してくるのを止め忘れていたから、全員こっちへきてしまった。
ヨウコとマイ、メイが殺る気だった。
完全体になったヨウコと、精霊王級へと成長したマイ、メイならば魔人程度に後れを取ることはない。
三人の今の力を見ておきたい気もする。
「じゃあ、ヨウコとマイ、メイであの魔人たちを頼む」
「わかったのじゃ!」
「「りょーかいです!」」
「リファは奴らが逃げたら撃ち落としてくれ。ルナはそのサポートをお願い」
「はい!」
「わかりました!」
「我の出番はないか?」
俺の首元でマフラーと化していた神獣のシロが、俺の肩へと移動しながら聞いてきた。
「俺がマイとメイにつくから、シロはヨウコについてくれ」
「承知した」
ヨウコなら余程大丈夫だと思うけど、念のためシロについてもらおう。
「ティナとメルディ、白亜は彼女たちを守って」
「分かりました。皆さん、頑張ってください」
「ウチらは防衛部隊にゃ!」
「わかった、守るの!」
三人には戦闘の余波から、セイラと騎士さんを守ってもらうことにした。
ヨウコは尻尾を具現化し、戦闘モードになった。
マイとメイも精霊体になっている。
布陣完了だ。
さて、殺りますか。
魔法壁を解除した。
それと同時に魔人たちが仕掛けてくる。
「なんなんだ貴様ら!!」
「我らの邪魔をす──ぐはっ!?」
炎を纏った精霊体のマイが、超高速で右側にいた魔人の前まで移動し、その魔人の顔面を殴りつけた。
殴られた魔人は後ろへ吹き飛ばされ──
直径三メートルの水の球体に飲み込まれた。
それはメイが作り出した水牢だ。
「さよなら」
メイが水牢にかざした手を握ると、三メートルもの大きさがあった水の球体が、一瞬で飴玉ほどの大きさに圧縮された。
この水牢に完全に囚われていれば、魔人と言えど確実に命を落とす。
しかし──
「ダメ、逃げられた」
「ふ、ふざけるなぁぁぁあ!」
右足を潰されたものの、何とか水牢から抜け出した魔人が、上空からメイに襲いかかる。
それでもメイは慌てる素振りを見せなかった。
魔人の背後に、自分を守ってくれる姉の姿を捉えていたから。
「私の妹に、手を、出すなぁぁああ!!」
「──!?」
魔人より更に上空に移動していたマイが、右の拳に溜めた超高温の炎の塊を、魔人に向けて振り下ろした。
「ばか、な──」
マイの炎によって魔人は焼き尽くされた。
その圧倒的な回復力により、手足の欠損ですら瞬時に再生してしまう魔人も、精霊王級の存在となったマイの炎には耐えられなかった。
「なっ、な……」
「お主、よそ見しておる余裕があるのか?」
「──っ!?」
仲間の魔人が倒されたことに驚いていたもう一体の魔人が、声をかけられた方に顔を向けて驚愕する。
ヨウコの九本の尾すべての先端に、凶悪なほど膨大な魔力が圧縮されており、それが魔人に向けて放たれる寸前だったからだ。
「さらばじゃ」
ヨウコが九本の尾の先端を身体の前に集めると、そこから光線が放たれた。
「くっ!?」
魔人はそれを躱した。
地面に転がる盗賊の死体を操って盾にし、ヨウコのビームを少し逸らしたのだ。
それでも完全に躱すことができず、魔人は右手を失っていた。
「お、お前たち……いずれ今日のことを、後悔させてやる!!」
魔人は転移で逃げようとしていた。
そんなこと、俺が許すわけないだろ。
「──は? な、なぜだ!? なぜ転移門が開かない!?」
「俺の転移魔法で空間繋げるのを相殺して、お前の転移は妨害させてもらったよ」
「馬鹿な! 下等な人族ごときに、そんな芸当ができてたまるかぁ!!」
そうは言っても、できちゃったんだから仕方ないだろ。
「くっ!」
何度やっても転移できない魔人は、転移を諦め、背中の羽を広げて飛び立った。
しかしすぐにその羽を撃ち抜かれ、俺の目の前の地面に転がり落ちてきた。
レベル100を超える付術師であるルナに、補助魔法をかけてもらったリファが魔人の羽を撃ち抜いたのだ。
「おかえり。逃げるのは……諦めたら?」
「く、く、クソがぁああ!!」
魔人が発狂しながら俺に飛びかかってきた。
俺の頭上に用意された魔法の発動を止めなければいけないと、本能で動いたんだろう。
でも、もう遅い──
「ホーリーランス!」
ランスとは名ばかりの、直径十メートルの光の柱が、魔人に降り注ぐ。
断末魔の叫びを上げることもなく、魔人は消滅した。
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