第147話 聖騎士シン
どうも、俺っちは聖騎士のシンという者っす。
ステータス上の職業はまだ騎士なんすけど……
聖都サンクタムでは、聖女様をお守りする兵士には聖騎士という称号が与えられるっす。
ステータス上の聖騎士って職業と混乱しやすいんすけど、そもそも異世界からきた勇者さんたちでもなければ聖騎士にはまずなれないんで、大した問題じゃないっす。
そんで、サンクタムで聖女様の護衛の兵士──聖騎士になるのって、かなり大変なんすよ。
戦闘能力と適性検査、更に聖女様への忠誠心と創造神様への信仰心なんかが審査対象になるんす。しかも無事審査を通ったとしても、その後のクソ厳しい訓練の日々。
それらを乗り越えて、ようやく聖女様お付きの護衛になれるんす。そして、俺っちは先月、ついに聖女様をお守りする聖騎士になったっす。
めっちゃ嬉しかったっす。
聖女様、すげー美人なんすから。
俺っちが小さい頃から憧れていた御方。
俺っちはこの命に代えても、聖女様を絶対にお守りするって創造神様に誓ったっす。
聖騎士の仕事は、聖都で聖女様をお守りすることはもちろん、彼女が聖都から外出される時の護衛も大事な役割なんす。
聖女様は三ヶ月に一回くらい聖都から出て色んな国を巡り、その奇蹟の御業で人々を救って回るんす。とても尊い行いだと思うっす。
今回は新米聖騎士の俺っちにとって、初めての遠征護衛だったんす。行きと、各国での滞在中は問題はなかったっす。
その帰り──もう、聖都の外壁が遠目に見えるくらいの場所に辿り着いた時、俺っちたちは襲撃を受けたっす。
およそ三十人の盗賊っぽい奴らが俺っちたちに襲いかかってきやがったっす。
対して聖女様を護衛する聖騎士は俺っちを含めて十人だったんすけど、普通ならただの盗賊なんか、百人いたって負けるわけはないっす。
──ただの盗賊なら。
その盗賊たちは異常だったっす。
盗賊のひとりが、先輩聖騎士の攻撃で腕を切り落とされても怯まず先輩聖騎士に襲いかかって、その首に噛み付いたんす。
最初の衝突で五人の先輩たちがやられたっす。
盗賊たちは恐怖を全く感じないみたいで、手足が無くなっても、まるで何かに操られている人形みたいに襲いかかってきたっす。
頭を潰すか首を切り落とせば、さすがに復活してこなかったから、残る四人の先輩と俺っちはなんとか二十人ほどの盗賊を倒したっす。
残る盗賊は八人。
この調子なら聖女様をお守りできる。
そう思っていた矢先──
先輩たちが次々と倒れ始めたっす。
盗賊たちが使ってた武器には強力な毒が塗ってあったみたいで、盗賊の攻撃をカスっただけでもアウトだったみたいっす。
残る聖騎士は、俺っちただひとり。
でも絶対に聖女様だけは守ってみせるっす。
俺っち、自分で言うのもあれっすけど、結構強いんす。今回一緒に遠征した先輩たち九人を同時に相手にしても多分、勝てるっす。
俺っちには相手の魔力が見える『魔眼』があるっすから。
強い奴らはみんな、体内の魔力を動かして攻撃してくるっす。そんで、強い奴の魔力は肉体より速く動くっす。つまり身体を流れる魔力の流れが見えれば、次にどんな動きをするのか手に取るように分かるっす。
魔力を動かさず攻撃してくる奴らには使えない方法っすけど、大抵そんな奴らは強くないんで俺っちが負けることはないっす。
聖女様をお守りするために小さい頃から死ぬ気で訓練してきたっすから。
だから敵の攻撃を掠らせもせず、俺っちひとりで十人くらい盗賊を倒してやったっす。先輩たちを守るほどの余裕はなかったっすけど。
……ごめんなさい。
盗賊はあと八人。
そのうちの七人は倒せるっす。
問題は一番奥にいるボスっぽい男。
そいつだけ、他の奴らとは内包する魔力の格が違ったっす。俺っちが見たことない──ヒトでは到底ありえないほどの魔力量だったっす。
多分すけど、魔人って奴。
聞いてはいたけど、とんでもない魔力っす。
俺っちが十人いて、なんとかそのボスとやりあえるレベルだと思うっす。
この魔人が盗賊たちを操っているのだと、俺っちは思うっす。盗賊たちの頭に、ボスの魔力が絡みついてるのが見えたっすから。
ボスは手下を使って俺っちたちを攻撃させてて、本人はまだ動いてなかったっす。
それなら手下を全部倒してから、何とかボスを引き付けて、その間に聖女様に逃げてもらおうって考えていたいたんすけど──
「お前たちは聖女を捕えにいけ。コイツの相手は俺がする」
ボスが俺っちの前に立ちはだかったっす。
……ヤバいっす。
ヒトの姿をした絶望が、俺っちの目の前にいるんすから。
ボスは俺っちと戦う気になったのか、その身に纏う魔力が急激に膨れ上がってたっす。
ボスから目を離せないっす。
多分、目を逸らした瞬間に俺っちは死ぬ。
動けない俺っちの両脇を、盗賊たちがすり抜けて聖女様が乗っている馬車のもとへ──
「ホーリーランス!!」
馬車から魔法が放たれ、四人の盗賊がそれに貫かれて消滅したっす。
それは聖女様の魔法。
「シン、貴方は逃げてください」
いつの間にか馬車から降りた聖女様が、俺っちのもとまで駆け寄ってきて、そう言ったっす。
その声は少し震えていたっす。
多分、聖女様もこの盗賊のボスが只者ではないと気付いているはず。
それでも、聖女様はボスを睨みつけ、手に持つレイピアをボスに向けたっす。
聖女様が配属されて間もない俺っちの名前を覚えていてくださったことに、こんな危機的状況にもかかわらず、嬉しくなってしまったっす。
「聖女様をお守りするのが、俺っちの使命っすよ? 逃げるわけ──」
聖女様の背後に、短剣をもった三人の盗賊たちが音を殺して歩んでくるのを、俺っちの魔眼は感知していたっす。
「ないっす!」
俺っちは三人の盗賊を斬り伏せたっす。
聖女様が視線とレイピアをボスに向けていてくれたおかげで、ボスの気が逸れて俺っちが動けたっす。
これで戦況はだいぶ楽になったっす。
あとは聖女様を逃がすだけでいいんすから。
このボス──魔人を倒すのは、今の俺っちには絶対に無理っす。
聖女様なら魔人でも倒せる可能性はあったっす。
創造神様から頂いた聖魔力が残っていれば──
各地を巡って奇蹟の御業をお使いになり続けた聖女様にはもう、聖魔力がほとんど残ってなかったっす。
多分、この魔人はそれを狙ってこの場所で俺っちたちを襲撃したんだと思うっす。
でも、聖都はもう見えてるんすから、聖女様が逃げてくだされば、あとは俺っちが魔人を止めるだけでいいっす。
魔人には勝てないけど、足止めは可能っす。
俺っちには魔眼があるっすから。
魔眼の能力は、他人の魔力を見られるだけじゃないんす。
魔眼のもうひとつの能力──それは魔眼で見ているものの時を止められる能力っす。
まぁ、一秒時を止めている間に十日分の寿命がなくなるんすけどね。
この魔眼を持つ俺っちのステータスボードには、残りの寿命も記載されてるっす。
俺っちの寿命はあと十年くらい。
魔眼を結構使ってしまったので、だいぶ減っちゃったっす。
それでも、残り全ての寿命を使えば、五分は魔人の動きを止められるはずっす。
「聖女様、俺っちが魔人の動きを止めるっす。その隙に全力で聖都まで走ってほしいっす」
聖都に入ってしまえば、魔人といえど手が出せなくなるっす。聖女様が聖都に入るまで、寿命が持てば俺っちの勝ちっす!
「シン、貴方、まさか……」
聖騎士は聖女様に隠し事はできないので、もちろん俺っちの魔眼のことを聖女様は知ってるっす。
そんで、俺っちがしようとしてることに多分気付いたみたいっすね。
「先輩たちが命をかけて戦ったのに、俺っちだけ生き残ろーとか虫のいいこと思ってないっす。絶対に、聖女様はお守りするっす。先輩たちのためにも、セイラ様には逃げてほしいっす!」
初めてお名前で呼んでしまったっす。
まぁ、最後だし……いいっすよね?
「ふむ、何をするつもりか知らんが、
「──!?」
突然後ろから声をかけられ、驚いて振り向くと、そこにはもう一体の魔人がいたっす。
魔眼で魔力を見る限り、初めからいた魔人とほぼ同等の力を持っていたっす。
そして、俺っちの魔眼で時を止められる対象はひとつだけ。しかも対象の切り替えには数秒かかるっす。
終わりっす。
寿命と引き換えに魔眼で足止めするしかない魔人が、目の前に二体もいるんすから。
「すまんな、呼び出して。これから誕生する魔王様の障害となりうる聖女は、ここで確実に消しておきたいのだ」
「あぁ、構わん。お前のマリオネットをひとりで倒すコイツも、早めに消しておくべきだろう」
「そうだな」
俺っちと聖女様を挟んで、二体の魔人が会話を始めたっす。
魔王が復活するって、魔人は言ったっす。
確実に俺っちたちを殺す気でいるから、口が軽いっすね。
まぁ、このことを聖都に伝える方法なんてないんすけど。
二体の魔人が、それぞれの手に膨大な魔力を集め始めたっす。もはや魔眼でなくても見えるほどの魔力。
その魔力が、魔人たちの頭上で球状の塊になっていったっす。それは悪意と死の塊。
「さらばだ聖女、そして誇り高き騎士よ。貴様の忠誠心と魂の強さ、嫌いではない」
魔人に褒められてもうれしくねーっす。
てか、褒めるくらいなら見逃せっての。
魔人の手が振り下ろされた。
死が迫る。
最後は騎士らしく聖女様の盾に──
おかしいっす。
爆音がして、魔人が放った魔法が爆発したのは確実なんすけど……
俺っち、まだ生きてるっす。
聖女様も。
目を開けると、俺っちと聖女様の周りを半透明のドームが覆っていて、それが魔人二体の攻撃を防いでいたっす。
聖女様を見ると首を横に振ったので、これは聖女様の結界ではなさそうっす。
そもそも、いくら聖女様でも神官のサポートなしで二体の魔人の攻撃なんて防げないはずっす。
じゃあ、この結界はいったい誰が──
実は、その答えはもう分かってたっす。
その結界の中には、俺っちと聖女のほかにもうひとり──黒髪の青年がいたっす。
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