第146話 聖都旅行の目的
魔法陣を生成し、転移の準備を行う。
転移先はもちろん聖都サンクタムだ。
サンクタムは聖都と名のつく通り、国ではなくひとつの都市なのだが、どこかの国に所属しているわけではない。
聖都は独自の法や行政機関、軍を有し、完全な独立都市として成り立っている。また創造神の神託を唯一授かることのできる場所として、世界的な不可侵領域とされている。
仮に聖都に戦争を仕掛けようとする国があれば、その国は世界中から制裁を受けることになる。
サンクタムに行ったことがないというメルディに、聖都の説明をしてあげていた。
「創造神様……武神様よりもっと上の神様なのかにゃ。そんな御方に会えるのかにゃ?」
「普通はお会いできませんよ。そもそも、武神様にお会いできたのだって奇跡だと思います」
リファが言うように、いくらここがファンタジーの世界と言ってもホイホイ神様が出てきてくれるわけではないらしい。
神様から話しかけられる──つまり神託を授かることができただけでも、末代まで語り継ぐレベル。神が顕現し姿を見せようものなら、瞬く間に世界中で話題となる。
武神が顕現したことで、
聖都から高位の神官たちがベスティエに派遣され、武神が顕現した理由や経緯などを事細かに調査していったと
レオには俺が試作した遠距離通信用の魔道具を渡していたんだけど、魔道具を通して見たレオは酷く疲れた様子だった。
『奴ら、全然帰ろうとしないのです! それなのに何度も何度も同じ話ばかり聞いてきやがって……』
レオが怒っていた。
俺が武神像の前に灯っていた炎を消したことで、武神が顕現してくれた。そのことをレオには話していたが、レオはベスティエの所有者となった俺の情報を勝手に漏らさないよう配慮してくれた。
武神の顕現に俺が関係していることを隠したので、レオの説明が曖昧なものになり、神官たちがしつこく質問を繰り返したのだろう。
レオにはちょっと悪いことをしてしまった。
もし、俺が関係しているとバレたら……
聖都に連行されて、長い間拘束されることになったかもしれない。レオに感謝しなくては。
──そのくらい、神様が顕現するって凄いことらしい。
「私も一回お会いしただけなの。その後はたまに神託をいただくだけだったの」
創造神からの命を受け、遺跡ダンジョンの管理者となった白亜ですら一度しか会ったことがないそうだ。
ちょっと不安になる。
俺は創造神に会って、相談したいことがあったのだ。
それは──
「普通は絶対に会えない創造神様に、ダンジョンの運営させてほしいって交渉しようにゃんて……」
メルディが『お前、正気かにゃ?』と言うような表情で俺を見てくる。
俺が聖都に行く目的は、俺たちが踏破した遺跡のダンジョン──そこの運営をさせてほしいと創造神様に交渉することだった。
元の世界で、異世界転生もののネット小説を読んでいた俺は、ダンジョンの運営にも興味があった。
魔物や宝箱を配置して冒険者を呼び込み、冒険者の感情などをダンジョンポイントとして回収し、ダンジョンを成長させていく。
まるで育成ゲーム。
凄く楽しそうだ。是非、やってみたい。
今、俺のもとにはダンジョンの管理者である白亜がいる。彼女のダンジョンは勇者育成専用で、勇者とその仲間しか入ることができなかった。
ちなみにそのダンジョンがこの世界にできてから、これまでに二組しか入ったことがなく、どちらにも俺がいた。その二組ともがダンジョンを踏破したのだ。
つまり俺は白亜のダンジョンを完全制覇したと言ってもいいだろう。
また、勇者専用ダンジョンと言っても、現在は全てのレアアイテムが回収され、俺がルナとリュカのレベリング目的で狩り尽くしたため魔物も少ない。
今の白亜のダンジョンは酷く寂しい状態になっていた。
これを俺に任せてもらえれば、冒険者で賑わうダンジョンへと変えてみせよう。
プランはある。
色んな問題が起こるかもしれないが、その解決策は既に俺の頭には入っている。
なぜなら、白亜から聞いたこの世界の一般的なダンジョンの仕組みは、俺が元の世界で読んだダンジョン運営もののネット小説の設定と酷似していたのだ。
あとはそれを実現させる力だが──ほとんどが魔力で解決する。
そうなると、俺ほどダンジョン運営に向いた者は居ないだろう。
なにせ、俺には
もちろん、低レベル勇者が生まれてしまった時のために、その育成もできるようにしておくつもりだ。それの計画もある。
正直、あれだけの規模のダンジョンを百年に一度来るかどうかの勇者のためだけのものにしておくのは勿体ないと考えていた。
問題は創造神様が顕現してくださるかどうか。
白亜を聖都の神殿に連れていけば何とかなると勝手に思っていたのだけど、そう簡単ではないのかもしれない。
「交渉は頑張るけど、まずは創造神様に顕現していただかないと。出てきてくださるといいのだけど……まぁ、とりあえず行ってみよう!」
武神の時は分かりやすかった。武神像の下に灯された炎を離れた場所から、魔法を使わずに消せばいいだけだった。
創造神様もそうだったらいいのに。
そんなことを思いながら、俺は完成した転移魔法陣に足を踏み入れた。
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