第142話 邪神
魔王が倒された少し後の神界。
「邪神様! お、起きてください!!」
神界の最果てにある神殿で眠る邪神のもとに、一体の式神が飛び込んてきた。
「なんだ……どうしたというのだ?」
「魔王が倒されました!」
「なんだ、そんなこと──えっ?」
「魔王が、勇者に倒されました!!」
式神の言葉に耳を疑う。
創造神が異世界から勇者を転移させたのは知っている。
しかしこれまで、こんなに早く魔王が倒されたことはなかった。
少なくともあと数年は、魔王が世界から負のエネルギーを集めてくれるはずだった。
「魔王が! 勇者に! 倒されました!!」
「やかましいわ!!」
邪神が返事をしなかったので、自分の話を聞いてくれてないと思った式神が邪神の耳元で大声を出して、邪神に怒鳴られた。
「てっきり現実逃避して私の話を聞いてくださらないかと思いまして。失礼しました」
「ちっ、分かった……それで、俺の魔王を倒したのはどんな奴らだ? 次回の勇者対策を練らねばならぬ」
「それが……」
「どうした?」
「こんなに早く勇者が攻めてくると思っておらず、全く監視してませんでした」
「ほう、それで?」
「えぇ、ですので、どんな勇者が、どうやって魔王を倒したのか全く分かりません。なので対策の立てようがありません」
式神の言葉を聞いた邪神の顔が、みるみる怒りに染まる。
「こぉの、やくたたずがぁぁぁあ!!」
「だから録画機能付きの監視水晶買ってくださいって言ったじゃないですか」
周囲の空気を震わせるほどの殺気が邪神から放たれるが、式神は全くそれを意に介さず邪神に話しかける。
「なんですか? 私にずーっと魔王を見張っとけって言うのですか? 私だって暇じゃないんですよ。この神殿の管理してるの私一体だけなんですから」
式神にも思うところがあったようだ。
邪神に怒鳴られたことで彼女もキレていた。
「この無駄に広い神殿の掃除に、壊れた部分の修繕、エネルギーの収支計算、次の魔王のデザイン検討、その他にもやることいっぱいなんです。私がずっと魔王見てたら、邪神様がそれらのお仕事やってくれるんですか?」
「え、いや、それは……」
ずいずい前に出てくる式神の圧におされ、邪神が後ずさる。
「邪神様はいいですよね。いっつも寝てるだけで勝手にエネルギー入ってくるんですから。暇なら邪神様が魔王の様子をチェックすればいいじゃないですか」
「いや、ほら、あれだ。魔王とはいえプライベートを覗き見するのは良くないかな──と」
「アンタ、邪神でしょうが!! この世界で一番悪い奴でしょ!? なんで一番の悪がいちいち配下のプライベートを気にするんですか!? ていうか、魔王城の王座だけ見てればいいじゃないですか! アホなんですか?」
「おい!」
言いすぎたと式神は思った。
思わず口が滑ってしまったのだ。
「聞き捨てならんな。部下のプライベートを守らない上司は、部下に尊敬されない」
「そこに反応するんですか!?」
実は式神は、邪神とのこうしたやりとりを楽しんでいた。
彼女ら式神は創造神に生み出された後、それぞれ配属先を言い渡された。
そんな中、彼女が配属されたのは邪神の神殿。当初は世界を混沌に陥れる存在である邪神のもとへ配属されたことに絶望した。
すぐに邪神に使い潰される。
そう思っていた。
だが、邪神は彼女を大事に使ってくれた。
他の神のもとでは無理な命令をされて壊れてしまった式神もいるそうだが、彼女は生み出されてからずっと一体だけで邪神に仕えてきた。
邪神が良い奴だったわけじゃない。魔王に神託を出して戦争を起こし、多くのヒトを殺す。それでも、自分の配下に対してはいい上司であった。そして、その配下たちには好かれていた。
魔王や悪魔は、勇者に倒されるとその多くが『邪神様、すみません……』といって消えていく。それを見る度、邪神は少し悲しそうな顔をする。
無慈悲な邪神がそんな顔をするのは、式神の思い過ごしかもしれない。でも彼女にとって、邪神は命を預けるに値する上司だった。
そして魔王が倒されたことを受け止めた邪神がこう呟いた。
「創造神が異世界人を勇者として連れてきて、俺が育てた魔王を倒すのがウザすぎる」
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