第134話 遥人と四人の勇者(4/7)
『俺』がこの世界に転移してきて一年が経過した。魔物の活動は目に見えて活発になってきている。それなのに『俺』以外の勇者はまだこちらの世界に転移してきていない。
魔王は既に復活していて、魔物による被害も増え始めた。スタンピードと呼ばれる魔物が大挙して押し寄せ、村や街を襲う現象も数件確認されているという。
まだ本格的なスタンピードは発生していないようで、村などが壊滅したという話は聞かないが、油断できる状況ではなかった。
そんな中、『俺』とティナは
ここにサリオンはいない。世界中が魔物の被害に怯える状況下で、彼ほどの戦力を国が遊ばせておくはずがなく、サリオンはアルヘイム王都の守護を命じられていた。
ダンジョンに入る前、『俺』はレベル70、ティナはレベル55だった。そしてこのダンジョンは創造神が勇者育成のために造ったダンジョンだと伝えられていた。
この世界にはいくつかこうしたダンジョンが存在する。特にこの遺跡のダンジョンは低レベルの勇者を育成するためのダンジョンとされており、『俺』とティナがレベリングするのには最適な場所だった。
一層目から徐々に魔物のレベルが上がっていき、順調にいけば踏破した時にはレベル100を超えられるように
また、異世界──この場合は『俺』が元いた世界から来たレベル100以下の者がいなければ、このダンジョンには入ることができないという。
なんでそんなことが分かるかというと、ダンジョン入口の石碑にそう書いてあるからだ。このダンジョンまではベスティエの兵士が案内してくれたのだが、彼はその石碑の文字を読むことができなかった。
本当に勇者専用のダンジョンのようだ。
勇者を強くすることが目的のダンジョンなので、サリオンがいなくても安全マージンを取りながら進めば踏破できるはずだと考えていた。
そして緊急時には
──***──
なんの問題もなく、一層目のフロアボスを倒した。一層目だというのに、各所にはレアなアイテムが多数保管されていた。
ここは低レベル勇者の育成ダンジョンなわけだが、ほとんどの勇者はちゃんと創造神に高レベルにしてもらってからこの世界に来るのだろう。
そして、高レベルの勇者はこのダンジョンには入れない。更に一般の冒険者もここには入れないので、このダンジョンが造られて以来、アイテムはずっと放置されていたのだ。
レアなアイテムを取り放題だった。
一層目をクリアした後、次の層に行くための石碑に触れると、『俺』は四つの台座がある部屋に飛ばされた。ティナはその部屋には来なかった。
多分、
ティナと別の場所に飛ばされたことに焦る。苦手な魔力検知でティナを探ろうとするが、この部屋から外の様子は全く探ることができなかった。
部屋から出ようにも、扉がない。
アイテムを回収することが、部屋から出るフラグなのではと考え、四つの台座の上に乗っていたアイテムを持ってみる。
しかし、何も起こらない。
とりあえず、手に持ったアイテムをひとつの台座の上にまとめて置いた。
ティナのことが心配になるが、彼女は『勇者の血を引くもの』という加護のおかげでレベルが上がりやすいらしく、一層目を踏破した時点でレベル58になっていた。
一層目の魔物はレベル30くらいだった。二層目もそんなに強い魔物は居ないだろう。それにティナは賢い。『俺』とはぐれたからと言って取り乱すようなことはしないはずだ。
そう考え、『俺』も落ち着くことにした。
まず、手元にあるアイテムをチェックだ。部屋から出る手がかりがあるかもしれない。
この部屋の台座の上にあったのは、葉っぱ一枚、麻っぽい布で作られた袋が一個、手頃な短剣、それから本だ。
本は表紙も中身も何が書いてあるのか全く読めなかった。ダンジョンを踏破するのが目的なのだ。読めない本なんか邪魔にしかならないと判断して、置いていくことにした。
葉っぱは、よく分からないが、かさばることもないので、とりあえずポケットに入れておく。後でティナに見てもらおう。
短剣と麻の袋をこれまでアイテムを入れていたカバンに詰め込んだ。特に部屋から出る手掛かりにはならなかった。
その後なんとなく壁を触ってみると、ある一面だけ壁を通り抜けられるようになっていた。他にどうすることもできなかったので、意を決してその壁に飛び込んだ。
「ハルト様!」
壁のすぐ向こうにティナがいて、『俺』が現れたことに気付くと抱きついてきた。不安だったのだろう、少し涙目だった。とにかく、ティナの無事を確認できてほっとする。
ティナが落ち着いてから、アイテムを見てもらった。葉っぱは世界樹の葉という超レアアイテムだった。
短剣はよく分からなかったが、麻の袋は収納袋といって、いくらでもモノを入れられるアイテムだった。しかも入れたものの重さは感じなくなり、入れた時の状態を保持し続けるという収納袋の中でも最上位のレア度を誇る逸品だった。
さすが、創造神が造ったダンジョンだ。置いてあるボーナスアイテムの格が違う。とすると、置いてきてしまった本もすごく貴重なものだったんじゃないかと思うが、あの部屋には戻れないみたいなので、諦めて先に進むことにした。
この先にも、レアなアイテムがいっぱい眠っているはずだ。心を弾ませながら『俺』とティナはダンジョン攻略を再開した。
──***──
一層目から二層目に移動する時以外は、ボーナスルームへ飛ばされることはなかった。
そして、順調にレベリングしながら、レアアイテムも漏らさず収納袋に詰めつつ、ダンジョンを攻略していった。
そんな『俺』たちは今──ダンジョンの最終層、そこのボスである赤竜と戦っている。
ラスボスがドラゴンって……
竜族は最高危険度──Sランクに分類される魔物だ。特に『俺』とティナの目の前にいるコイツは、各属性の
ここに来るまでに、『俺』はレベル105、ティナはレベル98になっていた。それでも単独では赤竜に全く敵わない。
竜族を討伐するには最低でもレベル150は必要だという。『俺』とティナのレベルを合わせればそれを超えるが、連携が完璧でないとそうはならない。
ここまでの敵はレベルが『俺』たちより高くても、なんとかティナと協力して倒すことができた。だが、コイツだけは格が違う。
仕方ない、
「ティナ!
「は、はい!」
予め決めていた合図に従い、ティナは赤竜から距離を取って、俺の背後に移動した。
そして鞘に剣を収める。
目の前に自分より遥かに強い敵がいるというのに、武器を収めるという自殺行為。でもそれは全て打ち合わせ通りの行動だった。
戦える状態ではなくなったティナを、守らなくてはいけないと強く意識した瞬間──
急激にステータスが上昇するのを感じた。
俺の全てのステータスが倍増する。
「悪いな、ちょっとズルさせてもらうぞ」
『俺』は赤竜を倒した。
──こうして、『俺』とティナは遺跡のダンジョンを踏破したのだ。
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