第122話 告白と選択

 

「……キスがいいの?」


 ルナみたいな可愛い子とキスできるなら、俺は嬉しい。


 ルナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 ちょっと気まずい雰囲気になる。


 でも大丈夫、俺には読心術がある。


(わ、私はなにを言ってるんですか!? さっきまで薬の触媒として必要なハルトさんの唾液の入手方法を考えてたせいです──って、あれ? 唾液を下さるような仲なら、そもそも惚れ薬なんて要らないのでは……)


 確かにその通りだな。


(でも、友達だったとしても、普通は唾液なんてくれませんよね?)


 うん、ルナも分かってるみたいで良かった。


 面と向かって『惚れ薬作りたいので唾液下さい』って言われたら、いくら女の子の頼みとはいえ、さすがに断らない自信がない。


 ──いや、ルナほどの美少女に頼まれたら、あげちゃうかも。


「あ、あの……」

(ほんとにキス、していただけるのでしょうか?)


「うん、いいよ」


「えっ?」

(私って……今、声でてました?)


「えっ──はっ!」


 し、しまったぁぁぁぁあ!

 普通に返事しちまった!


「いや、声は出てなかったよ。なんとなく、そうかなーって」


「えっ」


 のぉぉぉぉお!

 な、なんで、俺はミスを繰り返すんだ!?


(も、もしかして、私の考えてること……分かるんですか?)


「い、いや、そんなことはない!」


「……私、なにも言ってません」


「えっ」


 どうやら俺も、かなり動揺していたようだ。

 よし、落ち着こう。


「ハルトさんは私の思考が読めるのですね」


「…………」


 そんなこと聞かれても、答えるわけにはいかない。


 もう、引っかからないぞ!


(良かったぁ、さすがにそんなわけないですよね。リューシンさんの爪を入れた惚れ薬を飲ませようって考えてたこと、ハルトさんにバレなくて、本当に良かった)


「お願いだから、それはやめて」


「やっぱり私の心の声、読めるんじゃないですか!」


「……ゴメン」


 俺はもう、色々諦めた。


「ちなみに、思考を読むのって、オフにしたりできるんですか?」


「できるよ」


 ルナの質問に素直に答える。


「じゃ、ちょっとだけオフにしてください」


「分かった……したよ」



「ほんとに、オフになってるかチェックします。目を閉じてください」


「目を? ……これでいい?」


 なにをされるんだろうか?

 ビンタとかされちゃうかな?

 まぁ、仕方ないよな……。


 ちょっと覚悟していたが──



 なにか柔らかいものが唇に触れた。

 すごく瑞々しかった。


 驚いて目をあける。


 目の前にルナがいた。

 俺はルナにキスされていた。




「……目を閉じててくださいって、言ったじゃないですか」


 俺から離れていったルナが、顔を真っ赤にしながら怒った表情を見せる。


 その顔も可愛かった。


「ご、ごめん」


「でも、避けなかったってことは、思考を読むのはちゃんとオフにしてくれたってことですよね」


「うん」


「ちなみに、ハルトさんが思考を読めるのは私だけですか? それとも誰でも?」


「誰でもいける」


「そのことをティナ先生たちは知ってるんですか?」


「……いや、知らない」


 正直に答えてしまった。


 あ、これあれだ。ティナたちにバラさないかわりに、言うことを聞けって脅されるやつだ。


 まずいな。


 でも、ルナさんはそんな無理難題言ってくる子じゃないと俺は信じてるぞ?


 『私の奴隷になれ』とかはやめてくれ。



 ……いや、ルナ美少女の奴隷なら、悪くはないか。



「じゃあ、このことは秘密にしときますね」


「お願いします」


「はい」




「……えっ」

「えっ?」


「それだけ?」

「それだけです」


「俺の弱み握ったんだから、脅そうとかって思わないの?」


「……はぁ」


 ルナが深くため息をついた。


「ハルトさんは私の心を読めるので、もう分かってるでしょうから、告白しちゃいますけど、私はハルトさんが好きなんです」


 ルナが俺の目を見て、そう言い放った。


「大好きな人を、脅すわけないじゃないですか」


 大好きだからどんな手を使っても付き合いたい──って考えもあると思うが、ルナはそうじゃないようだ。


「あ、ありがと」


「それがお返事ですか?」


「えっ」


「私が、ハルトさんを好きだと告白したことに対するお返事ですか?」


 な、なんだろう?


 ルナってこんなにグイグイ来る子だったんだ……ちょっと、俺が思ってたキャラと違う。


「まぁ、ハルトさんにはふたりも綺麗な奥様がいらっしゃいますし、その他にも可愛い女の子に囲まれてるので、私なんかに好きだと言われても返事に困りますよね。なので三つの選択肢を提示しますので、選んでいただきたいと思います」


「選択肢?」


「はい。選択肢ひとつめ、私をハルトさんのハーレムに加える」


「ハーレムって……」


 一応、あれはエルノール家というひとつの家族であって、俺のハーレムでは無い。俺以外全員女性だから、結果としてハーレムみたいになっちゃってるだけだ。


 ──とすると、ルナの要望としてはエルノール家に入りたいってことでいいかな?


 勝手にそう解釈しておく。



「選択肢ふたつめ、ハーレムには入れず、ティナ先生たちには内緒で、私と肉体だけの関係になる」


「……はい?」


「ハルトさんの気が向いた時に私を抱いてただければいいです。ティナ先生たちと比べちゃうと全然ですが、これでも私は男性にモテるんですよ? それに、そんなに貧相な身体ではないと思います」


 えぇー。

 なにその都合のいい女になります発言……。


 もっと自分を大事にしろよ。


 大丈夫だよ、ルナは可愛いから。

 もっと自信をもてよ。


「そ、その……色々未経験ですが、できるだけ頑張ります、よ?」


 ルナが顔を真っ赤にしながら、そう言った。


 自分で言ってて相当恥ずかしいのか、モジモジしている。


 その姿がすごく愛おしい。


 俺が二番目の選択肢を選ぶことは無いだろう。



「三つめは?」


 とりあえず聞いてみた。


「選択肢の三つめは、私になんか興味ないので、今まで通りただのクラスメイトとして接する──です。ちなみに、これをハルトさんが選んだからといって、私がハルトさんの秘密をバラすことはないのでご安心ください」


 なるほど。

 その三択なら、俺の答えは決まっている。



「じゃあ、ひとつめの選択肢だな」


「ですよね、ひとつめの選択肢なんて選んでいただけないですよね──えっ」


「ん? ひとつめの選択肢がいいんだけど」


「ほ、ほんとにいいんですか?」


「俺はルナをすごく可愛いって思う。そんなルナが俺を慕ってくれてるんだ。俺はお前を手に入れたい。だから……エルノール家にきてくれないか?」


「いいんですか?」


「うん。入学式の日に『俺の屋敷に住まないか?』って聞いたの、覚えてる?」


「お、覚えてます」


「あの時ルナは、ちょっと考えますって答えてくれたと思うけど……今、もう一回、答えを聞いていい?」


 ルナの目から涙がポロポロこぼれ出した。


 そして──



「わ、私も、ハルトさんたちと一緒にくらしたいです」

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