第119話 遺跡のダンジョン

 

 ダンジョンの内部を進んでいく。


 たいして強い魔物は居ないと思うが、念のため精霊界から覇国を召喚して装備している。


 ティナの話では、このダンジョンは地下十層まであるという。今いる一層目にはレベル30程度の魔物が出現し、ここから下に行けばいくほど、魔物のレベルが上がってくるそうだ。


 ダンジョンとしては比較的単純な造りで、入口から真っ直ぐ広い通路が続いていて、時々、左右に細めの通路が現れる。こっちに進むと、いくつかの部屋があって、魔物が居たり宝箱があるらしい。


 今俺たちが歩いている中央の広い通路を進めば、魔物はあまり出てこない。魔物と戦いたくなければ、広い通路を進めばいい。


 また、ティナはこのダンジョンのほとんどの部屋の配置や魔物の出現状況を覚えていた。


「三層目までは強い魔物は出ません。それにたいした宝物もないと思います。当時の私たちが置いてあった装備品をほとんど回収してしまいましたから」


 この世界のダンジョンには、ふたつのパターンがある。


 ひとつ目が、ダンジョンマスターと呼ばれる魔族が管理する冒険者向けダンジョン。こちらは何故か、宝箱の中身が定期的に補充されるし、討伐したはずの魔物も一定周期で再度出現する。


 レベル上げがしやすく、アイテムも手に入りやすいため、多くの冒険者たちがチャレンジし続けるのだ。


 どうやらダンジョンマスターがダンジョンポイントなるものを貯めて、ダンジョンの運営をしているらしい。


 ダンジョンを攻略し、そこのダンジョンマスターの魔族と仲良くなったという冒険者が、その情報を冒険者ギルドに伝えたのだ。


 以前、『冒険のススメ』という本にそのことが書かれているのを見た俺は、ちょっとダンジョンマスターに興味を持った。


 ダンジョンの運営って、何だか面白そう。



 そしてもうひとつが、神が造ったダンジョンだ。こちらは勇者の育成を目的として造られたダンジョンで、内部のマナが濃いため魔物が自然発生しやすくなっている。


 とはいえ自然発生するレベルなので、冒険者向けダンジョンと比較すると、魔物と戦う頻度は少なくなる。そして、宝箱もあるのだが、誰かが踏破したダンジョンでは宝箱の中身がないことが多い。


 神が造ったダンジョン──通称、神ダンジョンは冒険者向けダンジョンより、ゲットできるアイテムの質が格段に良いのだが、一度誰かが中身を取ってしまうと、そのアイテムが消費されたり、壊れたりするまで補充されることはない。


 神のダンジョンで転移勇者たちにゲットされた装備品などは、勇者が元の世界に帰った後、その勇者が所属した国が保有することになる。


 ほとんどの装備品が国宝になるという。それくらい、神のダンジョンで得られるアイテムの質は素晴らしい。


 ただ、国宝として大切に保管されてしまうので、壊れることがなく、神が神ダンジョンの宝箱に新たな装備品を補充してくれないのだ。


 この遺跡は神ダンジョンだ。そして、ここはティナと守護の勇者が既に踏破している。つまり、宝箱の中身にはあまり期待できなかった。


 まぁ、俺はアイテム目当てで来たわけではないから別にそれはいい。


 でも、そのことを知ったリュカやヨウコが残念そうな顔をしていた。彼女たちはお宝が大好きなようだ。


 お宝は無さそうなので、リュカたちは来る必要がなかったのだが、ダンジョンを踏破しないと守護の勇者に関する情報を得られない気がしていた。


 ダンジョンを踏破するための戦力としてヨウコに、非常時の蘇生回復要員としてリュカについてきてもらったのだ。


 ティナを連れていくのは少し迷ったが、本人が一緒にいくと言い張るので反対はしなかった。大丈夫、多分なんとかなる……気がする。


 読心術を身につける時、自分の脳に魔力を通しすぎて脳が活性化したようで最近、直感がよく働くようになっていた。


 まだまだ兄レオンどころか、猫獣人のサリーのスキルにも劣る直感だけど、これは非常に便利だ。ちょっとした選択肢がある時、いい結果になるよう自然と判断が誘導されるのだ。


 その直感が、ティナを連れていっても大丈夫だと告げていた。



 さて、話を戻そう。ダンジョン攻略に向けて他に声をかけたのはルナだ。彼女は歩くアイテム図鑑と言っても過言ではない──それくらい、アイテムや装備品に関する知識が凄い。


 また、観察眼も鋭く、ちょっとした異変にも気がついてくれるので、なにかが隠されているダンジョンに行くなら是非とも連れていきたいメンバーのひとりだ。


 それに今回は特に、彼女を連れていった方がいいと俺の直感が告げていた。


 ──ということで、ルナをダンジョン攻略に誘ったら、喜んでついてきてくれた。



 そして、ティナが行くなら私たちも──と、リファ、マイ、メイとメルディもついてきた。


 リュカを誘ったのでリューシンにも声をかけたら彼もついてきた。


 ここまで来るとルークだけ誘わないのも悪いので、彼も誘った。


 こうして、クラスメイト全員でレアアイテムもなさそうなダンジョン攻略に出てきているのだ。



「三層目まで何もなさそうなら、サクサク進んじゃおうか」


「賛成です」

「さっさといくにゃ!」


 俺たちはたまに脇の通路から出てくるレベル30程度の魔物を倒しながら、真っ直ぐ中央の通路を進んでいった。



 ──***──


 ダンジョン一層目の一番奥まで来た。

 行く手には重そうな石の扉があった。


 この先に、一層目のボスモンスターが居て、そいつを倒さないと次の層に進めない。ティナが前に挑戦した時はレベル40くらいのゴブリンファイターがボスで、周りに数体のゴブリンを従えていたという。


 うん、その程度なら全く問題なさそうだ。


 全員で進むと、扉が勝手に開き始めた。


 扉の奥には大きな部屋があり、その中央に二メートル程の体躯のゴブリンファイターと、その側にいる二体のゴブリンの姿を確認した──


「「ファイアランス!」」

「「飛空拳!」」


 二本の炎の槍がゴブリンファイターを貫き、飛んでいった魔力の塊が取り巻きのゴブリンをそれぞれ爆砕した。


 ボスの存在を確認した瞬間、俺とティナがファイアランスを、メルディとリューシンが飛空拳をほぼ同時に放ったのだ。


 ちなみに打ち合わせとかはしてない。なんとなく、ボス部屋に入る前にボス倒してやったぜ──的なことをやってみたかっただけだ。


 同じようなことを考えてるのが、俺の他にもいたことにちょっと驚いた。



「みなさん魔法の発動、早すぎです……」


 そう言いながら、魔法の発動が間に合わなかったリファが、翡翠色の弓を下ろす。


「うん、そのスピードはむり」


 ルークが魔法発動のために放出した魔力をどうしようか悩んでいた。


 ルークとリファも魔法を放とうとしていたのだ。


 ──てかルーク、ゴブリンファイター程度にその魔力量は多すぎじゃない?


 上位魔法とまではいかないが、中位魔法の中でも強い部類の魔法を発動しようとしていたようだ。


「ルーク、要らんなら貰っていいかの?」


 ヨウコがルークの放出した魔力を欲しがった。ヨウコは他人の魔力を吸収して尻尾に貯めておける。日々生活するだけでも彼女は多くの魔力を消費するようで、俺か神獣のシロが定期的に魔力を渡していた。


「うん、勿体ないから貰ってくれ」

「ありがとなのじゃ!」


 ヨウコが手を翳すと、ルークの魔力が吸収されていった。なんとなく、ヨウコのバストが大きくなった気がする。


 ……もしかして、ヨウコが大量の魔力を消費するのって、人化したときの体型維持のために使ってるんじゃないよな?



 そんな感じのやり取りをしながら、俺たちは次の層に移動するため、ボス部屋に入っていった。

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