第117話 ルナの過去(4/4)
イフルス魔法学園の入学試験を受けて、およそ一ヶ月後、私のところに一通の手紙が届きました。
送り主はイフルス魔法学園でした。
ドキドキしながら手紙を開封したのを、今でも覚えています。
手紙には、魔法学園への入学試験に合格したという結果と、試験の成績が優秀だったので奨学生として入学金や授業料を免除するということが書かれていました。
しかも家賃や、生活費として返済不要の奨学金も毎月貰えるそうです。
「やったぁ!!」
それを見た途端、私は思わず叫んでしまいました。すごく嬉しかったんです。仕方ありません。
これで世界最高峰とも言われる魔法学園で、本に囲まれた生活ができるわけです。どんな本が置いてあるのか、どんな勉強ができるのか、楽しみで今からワクワクしてしまいます。
本が読めること以外にも、私には楽しみがありました。
彼とはもちろん、ハルトさんです。
ハルトさんは貴族ですし、あんなに凄い魔法を披露したのですから当然、入学試験に合格しているはずです。
もしかしたら、ハルトさんと同じクラスになれちゃったりして!?
イフルス魔法学園はすごく大きな学校で、今年入学する一年生だけでも三百人もいるそうですが、ハルトさんと同じクラスになれる可能性も、少しはあるのです。
元の世界では授業についていくのに必死で、女友達と遊ぶことも少なかった私には当然、お付き合いするような男の子はいませんでした。
ですが今の私には、女神様から貰ったスキルのおかげで学園生活を楽しむ余裕がありそうでした。できることなら男の子とも仲良くしたいと思います。青春したいんです。
そして、私を転生してくださったのが、知と美を司る女神様だったおかげでしょうか。自分で言うのもなんですが、私は元の世界の姿より可愛くなっていました。
透き通るような綺麗な肌、ぱっちりした目、サラサラで綺麗なスカイブルーの髪──転生してすぐ、髪の色に驚きましたが、こちらの世界では割と普通のようです。
今の私なら、仲良くしてくれる男の子もきっといるはずです。それがハルトさんだったらいいなって思いました。
──***──
魔法学園に入学する日がやってきました。
今日から七年間はひとり暮らしをしなくてはいけません。家事などは全く問題無いのですが、ひとりで寝るのが寂しくて嫌でした。
孤児院では添い寝と称して毎日、兄妹やシスターと一緒に寝ていましたから。既にちょっと心が折れそうです。
早急に、一緒に寝てくれるようなお友達を作らないといけません。できれば可愛い女の子がいいです。
そんなことを考えながら、入学式の会場へ向かって歩いていたら、突然後ろから押されました。
「おぃ、どこ見て歩いてんだ。痛ぇじゃねーか」
目つきの悪いの男子学生が、私にそう言ってきたのです。私は考えごとをしてましたが、ちゃんと前を向いて歩いていました。私のせいで彼にぶつかったなんてことはないはずですが──
「ご、ごめんなさい」
私は彼に謝罪しました。彼の着ているローブに、彼が貴族であるという印があったからです。例え言いがかりだったとしても、一般市民の私が貴族に反論なんてできるわけないのです。ここはそういう世界です。
「貴方、この方がゾルディ男爵家のご子息だと分かっているのですか?」
「ただ謝って許されると思ってるんじゃねぇだろうな」
私にぶつかった男子生徒はやはり貴族のご子息でした。そして、謝っても許してくれないそうです。いったいどうしたらいいというのでしょうか?
どうすればいいか分からず、勝手に涙が出そうになった時です。
「あー、俺の連れに何か用かな?」
後ろから誰かに声をかけられました。
振り返るとそこに──
ハルトさんがいらっしゃいました。
「あぁ? なんだお前」
「いや、お前がなんなんだよ。その子は俺の連れだ」
「えっ?」
思わず声が出ちゃいました。
ハルトさんが私のことを知り合いだと言ってくださったのです。ハルトさんは私を助けようとしてくれているのだと気づきました。
その後、私に絡んできていた三人はその場を去っていきました。ハルトさんお父様の方が爵位が高く、これ以上騒げば問題になって自分たちの立場が悪くなると気づいたようです。
入学試験の時に見た時よりもずっと近くにハルトさんがいます。
やっぱり、かっこいいです。
それから私はハルトさん、ルークさんとお友達になりました。後で知ったのですが、ルークさんはこの魔法学園の学長のお孫さんだそうです。しかも、かなりイケメンです。
そんなおふたりと、私はお友達になれちゃいました。勇気を振り絞って声をかけて、本当によかったと今でも思います。
──***──
暇だったので、結局全ての日記を読み返してしまいました。
ハルトさんとお友達になれて、一緒のクラスになったところまではよかったのですが、そこから一歩踏み出すことはできませんでした。
気付けばクラスメイトの過半数の女子がハルトさんと寝食を共にする関係になっています。皆さん、知り合って一年と少ししか経っていないのに……ハルトさん、スゴすぎです。
そしてルークさんには美人なエルフの彼女さんができました。残るクラスメイトのリューシンさんとリュカさんは、なんだかいい雰囲気だと思います。
……あれ? わ、私ひとりぼっち?
メルディさんがハルトさんにとられて、いよいよ危機感を覚え始めました。
ハルトさんは貴族のご子息で甲斐性があります。更に精霊王様を使役できるほど強いのに、貴族に絡まれている私を助けてくれるような優しいお方です。
それから、ルークさんに引けを取らないほどのイケメンです。私が元いた世界の人に近い顔をしているせいか、私はハルトさんの方がかっこいいと思っていました。
ですので、なんとかしてハルトさんのハーレムに加わりたいと思います。
ただ、そのハードルが高いのです。
女神様のおかげで可愛くなれたと言っても、ハルトさんの周りには私なんかより綺麗だったり、可愛い女の人がいっぱいいます。
美女エルフのティナ先生とリファさん。
最近ますます妖艶になったヨウコさん。
仕草なども可愛らしい精霊の、マイさんとメイさん。
それから、猫耳や尻尾、肉球など全てに癒されるメルディさん。
そんな方たちがハルトさんの周りにいるのです。ちょっと可愛くなった程度の私が、ハルトさんにご提供できるのはなんでしょうか?
……私が人族であることくらいしか思い浮かびませんでした。でも、それが大きなアドバンテージになるかもしれません。
ハルトさんは魔法学園にあるお屋敷で、色んな種族の女の子暮らしていますが、まだ人族の女の子はいません。
つまり、ハルトさんのハーレムの
でも、ハルトさんのことです。うかうかしていたらその人族枠も埋めてしまうかもしれません。いえ、既に埋め始めている気がします。
──これは、女の勘ってやつです。
なるべく早く行動しなくちゃいけません。ハルトさんから来てくれるのを待つのではなく、私からグイグイ行かなくてはいけないのです!
そんなことを考えていたら、部屋のドアがノックされました。
誰でしょうか?
「ルナ、今ひまかにゃ?」
扉を開けると、メルディさんが立っていました。
「特に用事はありませんけど……」
「じゃ、夕飯食べに出かけないかにゃ? ハルトたちと皆で行こうってなってるにゃ」
「いきます!」
ハルトさんと過ごす時間をちょっとでも延ばすのです。そして機を窺い、必ずチャンスを掴むのです!!
頑張れ、私。
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