第116話 ルナの過去(3/4)

 

 イフルス魔法学園の入学試験が行われる街につきました。


 私が住んでいた町から、馬車で二時間くらいの場所にある大きな街です。何回かシスターと一緒に来たことがありますが、ひとりでこの街に来るのは初めてでした。


 朝早くにここまで送ってくれた商人の人にお礼を言って、私は街の中へと入りました。今日はイフルス魔法学園の入学試験会場が設営されるため、街は多くの人で賑わっていました。


 試験は午後からです。


 でもその前に、試験を受けるための申請をしなくちゃいけません。私は申請のための列に並びました。



 ──***──


 無事、受験申請が終わりました。私の受験番号は101番でした。私のひとり前が99番だったので、ちょうど100番かなって思ってたのですが、何故か101番でした。


 もしかしたら、私の前に貴族の方が試験を受けるのかもしれません。イフルス魔法学園では貴族関係者でも入学試験を受けなくてはいけません。


 ただ、私のような一般人と違って、貴族関係者は事前に受験申請ができるのです。しかも、好きな順番で試験を受けることができます。


 朝早く起きて、この街まできて、受験申請の列に並ぶ──なんてことをしなくてもいいのです。ちょっと羨ましいです。


 そして、貴族のご子息様は幼少期から高名な魔法使いに魔法を習うため、みなさん魔法を使う技術が高いのです。だからほとんどの貴族の方は問題なく入学試験に合格するみたいです。


 魔法を学ぶ学園なのに、入学する時点である程度魔法が使えなきゃいけません。一応、素質がありそうな子供をスカウトする制度もあるみたいですが、私には来ませんでした。


 私、レベル50オーバーで、あらゆる補助魔法が使えるんですけど……。


 まぁ、小さな町に住んでて、公に何かをなし遂げたわけでもないので、学園のスカウトの人の目に止まらなくても仕方ないですよね。


 済んだことを悔やんでも仕方ありません。

 全力で試験に取り組みましょう。


 私はただ試験に合格するだけじゃダメなんです。お金がないので、奨学生として認められる必要があるのです。じゃないと試験に合格したとしても、入学金や授業料を払うことができませんから。



 まず、筆記試験を受けました。


 魔法に関する一般常識から、古代ルーン文字を解読しろという超難問まで出題されましたが、私は全問解くことができました。


 古代ルーン文字と言っても、言語理解スキルのある私にとっては苦もなく読めてしまいます。


 その古代ルーン文字で書かれていた言葉が『この文を理解した者に、祝福を』──だったので、何だか嬉しくなりました。


 ちなみに受験者は番号順で席について筆記試験を受けていたのですが、100番の方は来ませんでした。多分、貴族の方は別室で試験を受けていたのでしょう。私は100番さんがどんな人なのか、何となく気になっちゃいました。



 ──***──


 その後、実技試験を受けるため会場を移動しました。実技試験では得意な魔法を試験官に披露して、魔法を使う技量をアピールしなくちゃいけません。


 私は自分自身に補助魔法をたくさんかけて、最下級の攻撃魔法で的を破壊してみせる──というのを計画してました。この方法で、魔物をいっぱい倒してきたので、なかなか洗練された魔法の使い方ができてると自負してました。



 99番の男の子の試験が終わった様です。


 私は会場に、足を踏み入れようとしました──


「あ、101番の方ですね。少しお待ちください」


 私が会場に入ろうとしたら、係の方に入口で止められました。どうやら100番の方がこれからここで、実技試験を受けるようなのです。


 少し待っていたら、別の入口から誰かが入ってきました。恐らく、彼が100番の人なのでしょう。その人の横顔がチラッと見えて、私はその方が誰か分かりました。


 私の前に受験する100番の人は、予想通り貴族の方でした。その方は、この街や私の住んでる町を領土の一部に持つ、シルバレイ伯爵様のご子息でした。


 お名前は、ハルトさんです。

 私と同い年だったんですね。


 ハルトさんはこちらの世界では珍しい黒髪で、目は綺麗な青色。立ち居振る舞いが凛としていてかっこよかったです。


 お召し物もすごく上質なものでした。やはり私とは、住む世界が違うお方です。


 そのハルトさんが、試験官に一礼して魔力の放出を始めたみたいです。私は他人の魔力を感知するのがあまり上手くはないのですが、そんな私でも分かるほど高密度で、膨大な魔力量でした。


 これほどの魔力で、いったいどんな高位魔法を使うのでしょうか?


 私はドキドキしながら、ハルトさんの動向を注視しました。



「ファイアランス!」


 私の予想とは裏腹に、ハルトさんは炎系最下級の魔法を放ったのです。そして、私はその結果に驚きました。


 彼が放った魔法炎の槍は、用意されていた頑丈そうな的を容易く貫き、燃やし尽くしてしまったのですから。どう考えても最下級魔法の威力ではありませんでした。


 ハルトさんは満足そうに、会場を出ていきました。私が居る会場への入口とは別に出口があったようで、彼はそちらから出ていったのです。だから、私が見ていたことなど全く気付かなかったでしょう。


 試験官は少し放心状態でしたが、私が入口に立っていることに気付いて、試験を再開してくださいました。


 最下級魔法で的を壊すってアピールの仕方を考えてたのですが、直前にあんなに凄いハルトさんの魔法を見せられてしまったので、試験官には私の魔法が霞んで見えるかもしれません。


 それでも他に方法を考えてなかったので、結局、自分に補助魔法をかけられるだけかけて、中級魔法でなんとか的を壊しました。



 それでも全壊はできませんでした。

 ハルトさん、ちょっと異常ですよ……。


 でも、できる限りのアピールはしました。


 後はいい結果を頂けることを祈るばかりです。



 ──***──


 孤児院に戻って、今日のことを日記に書きました。絶対記憶があるので、日記なんて書かなくてもその日の出来事を覚えていられるのですが、元の世界にいた頃の癖で毎日日記を書いていました。


 日記を書かないと何だか落ち着かないんです。それに、その時どう感じたか、どう思ったかなどは絶対記憶で覚えることはできないので、日記を書くのです。


『今日はイフルス魔法学園の入学試験を受けました。筆記は完璧だと思います。実技はどうでしょう? やるだけやりましたが……私が全力で半壊しかできなかった的を、領主様のご子息ハルトさんが最下級魔法で全壊しちゃったから、私の成果が霞んで見えないか不安です。あ、ハルトさんはかっこよかったです。初めてあんなに近くで見ちゃいました。できれば、彼と同じ学校に通いたいです』


 ──今日はここでペンを置きました。


 これ以上書いていたら、ハルトさんと学園生活を楽しむという妄想を書き綴ってしまうかも知れません。これは日記です。


 ハルトさんとの学園生活は夢の中で楽しむことにしましょう。


 古代ルーン文字で祝福されたので、今夜はいい夢が見られそうです。


 それでは、おやすみなさい。

 明日も良い一日になりますように。

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