第115話 ルナの過去(2/4)
私はこの世界で、ルナ=ディレッドという七歳の女の子に生まれ変わりました。
ルナは元々、貴族の子供だったようですが、両親が事故で死んだことで家が没落し、小さな町の孤児院に追いやられていました。
私には六歳までの記憶はありませんでした。でも、そのおかげでこの世界の両親を失った悲しみを感じずに済んだのです。
孤児院での生活は楽しかったです。他の孤児の皆は私と仲良くしてくれました。皆、私の兄妹で、私は彼らが大好きです。それからシスターがすごく優しくしてくれました。私はシスターのことも大好きです。
孤児院には寄付された本がいっぱいありました。私はその本をどんどん読んでいったのです。七歳では読めないような難しい本も、女神様がくれたスキルのおかげで理解できちゃいました。
八歳になった時、私は孤児院にある本を読み尽くしました。それでもまだ本を読みたがった私のために、シスターが町長に交渉してくださり、私は町にある図書館で本を読めることになったのです。
何百冊という本に囲まれて過ごせることが、すごく幸せでした。しかも、どんな本も読んでいいのです。
元の世界で私は、学校の授業についていくために必死に勉強していましたから、図鑑など授業に関係無さそうな本は見たり読んだりする余裕なんてありませんでした。
もちろん、漫画も読んだことがありません。なにせ人の数倍は教科書を読み込まないと単語や数式などを記憶できなかったのですから。授業についていくための勉強だけで精一杯でした。
しかし、生まれ変わった今の私には、絶対記憶というスキルがあります。本を読めば読んだだけ自分の知識にすることができるのです。私は毎日、図書館に通って本を読み続けました。
私のスキルは、一瞬でも目に入ればそれを理解し、記憶できちゃいます。なので、色んな本をパラパラっとめくって記憶し、孤児院に帰って小さい子のお世話をしながら、頭の片隅で記憶した本の内容を楽しむという離れ業もできるようになっちゃいました。
そして、わずか半年で町の図書館の本を全て読破してしまいました。それでも私の『新しいことを知りたい』という欲求は止まりませんでした。
そんな時です。この世界の知識を集約したと言っても過言ではない場所があると聞いたのは。
──その場所はイフルス魔法学園。
この国グレンデールにある、魔法使いを育成する学校でした。そこには数十万冊を超える書籍があり、更にこの世界で最高峰の研究が行われているそうです。
私は何としても
しかし、私は孤児です。
お金もなければ、一般人が魔法学園に入学する時に必要とされる後見人もいません。
それでも私は、魔法学園に入りたかったのです。
色々調べた結果、イフルス魔法学園には奨学生制度というものがあると分かりました。魔法に関する知識と扱いに優れた者を、入学金や授業料免除で、更に後見人も不要で受け入れるという制度です。
私はそれに賭けることにしました。幸い、魔法に関する知識は既に手に入れています。孤児院に使い古された魔導書が多数寄付されていたからです。
魔導書に関していえば、町の図書館より充実していました。
孤児たちが古代文字で書かれた魔導書なんて読めるわけないんですが、言語理解スキルを持つ私にとってはすごく面白い書物という認識でしかありませんでした。
今思えば、
そんなわけで、魔法に関する知識は問題なさそうです。古今東西、ありとあらゆる魔法に関する知識を得ていましたから。
問題は魔法の扱いに関してです。
当時の私のステータスは──
ステータス
名前:ルナ=ディレッド
種族:人間
加護:異世界の神の加護
職業:付術師(レベル50)
技能:絶対記憶、言語理解
こんな感じでした。私は魔物を倒したことはありませんでしたが、レベル50になっていました。そしてレベル50と言うと、この世界では強い部類に入るそうです。
この世界の神様が、私がいた世界から人を連れてくることがあるようなのですが、その転移してこられた方たちは、いきなりレベル150になっているのだとか。
一方、私は元の世界の女神様がこちらへ送り出してくださったためか、ステータスへの補正が控えめでした。
とはいえ、レベル50のステータスと、魔導書から得た魔法の知識があれば、後は魔法を使う技量を高めるだけで済みます。
私の職業は付術師でした。攻撃魔法は怖くてあんまり使えませんが、誰かをサポートする魔法なら怖くなさそうだと思いました。
イフルス魔法学園の事を知った日から、私は付術師として魔法の特訓を始めたのです。戦闘向きじゃないと思っていた絶対記憶と言語理解スキルが私を助けてくれたのです。
──***──
私は数ヶ月で、付術師が使える魔法を全て修得しました。
そして、魔物も倒しました。
倒す時はすごく怖かったです。
自分に補助魔法をかけられるだけかけて、離れたところから魔物に向かってひたすら下位の攻撃魔法を撃ちまくって倒したのです。
その後も同様に、自分よりだいぶレベルの低い魔物をいっぱい倒しました。同レベル帯の魔物の方がレベルが上がりやすいらしいのですが、そんなことは怖すぎてできませんでした。
安全第一です!
シスターや周りの大人たちは、私からしたらレベルが低かったので、私の特訓に付き合ってもらうことはできませんでした。
だから私はひとりで戦い続けました。
十歳になった頃、私はレベル52になっていました。たったひとりで、ふたつもレベルを上げたのです。
私、偉い!
自分で自分を褒めてあげたいと思います。
そしていよいよ、イフルス魔法学園の入学試験を受ける日になりました。
大丈夫、私ならできる。
今日のために頑張ってきたんだから。
私はシスターと、孤児院の弟や妹たちに見送られ、試験会場が設営される街へと向かいました。
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