第六章 それぞれの過去
第113話 ルナの日記
こんにちは。ルナ=ディレットです。
今、私は日課である日記を書いています。
つまり私がこの世界に転生して、もう五年も経っているのです。
まぁ、そんなことはさておき、今日の日記を書きましょう。
今日の出来事として特筆すべきことは、私のクラスメイトのハルトさんが、獣人の国ベスティエの
何を言ってるのか意味がわかりませんよね?
国のオーナーって、なんでしょうか?
国を所有しちゃうんですよ?
そんなことが──
できちゃうんですよね。
ハルトさんなら。
実は、ハルトさんが実質支配していると言える国が、既にふたつ有るんです。
エルフの王国アルヘイムと、ハルトさんと私の出身国でもある人族の王国グレンデールです。
ハルトさんはアルヘイムの王女リファさんと結婚なさいました。大変、おめでたいことです。しかし、王族の方と結婚なさっただけでは王様ではないので、その国を支配していることにはなりません。
では、何故ハルトさんがアルヘイムを支配していると言えるのか──
それは、ハルトさんが風の精霊王シルフ様の契約者だからです。シルフ様はアルヘイムの中央にそびえ立つ世界樹の化身で、アルヘイムに加護と
アルヘイムにおいて、シルフ様は王様以上の存在であり、その発言力は絶大です。そんなシルフ様がハルトさんの言うことを聞くのです。
ですから、実質アルヘイムを支配しているシルフ様を使役できちゃうので、ハルトさんが、アルヘイムを支配していると言っても間違いではないと思います。
続いて、グレンデールに関してですが、こちらも同じように、国に加護を与えてくださっている水の精霊王ウンディーネ様とハルトさんが契約を結んでいました。
精霊王ふたりと契約を結んでいるんですよ?
──いえ、実はそれだけではありません。ハルトさんは火の精霊王イフリート様とも契約を結んでいるそうです。
この世界の精霊を統べる四人の精霊王、そのうちの三人と契約を結んでいるのです。もはや、チートです。ハルトさんはチーターです。
もう、ここまで来ると残る土の精霊王ノーム様とも契約を結んでいてもなんらおかしくないのですが、さすがにそれは無いでしょう。
だって、他の精霊王と違い、ノーム様はこれまで一度もヒトと契約を結んだことがないそうなのです。だからさすがに──
いえ、思い込みは良くありませんね。
可能性が無くはないのです。
さて、話は戻ってグレンデールのことです。先のグレンデール王の時代からウンディーネ様の加護を受け、この国は農業国として発展してきたようです。
そして現在、グレンデールはウンディーネ様、そして星霊王様からも加護を受けています。星霊王様というのは精霊王達の王──つまりこの星に存在する全ての精霊の王様なのです。すごく偉い方なんです。
この世界を創ったのは創造神様ですが、実際に世界の維持や管理を行っているのは精霊たちです。その精霊の王なのです。凄い方なのです。
では、そんな方が何故、グレンデールに加護を下さったのか──
答えはやはり、ハルトさんでした。
ハルトさんは星霊王様とも契約なさっていたそうです。ちなみに星霊王様は私のクラスメイトであるマイさんと、メイさんのお父様でもありました。
そんなハルトさんや、娘であるマイさんとメイさんが居るので星霊王様はグレンデールに加護を与えてくださったのです。
グレンデールが国として、ハルトさんたちを護ることを対価として。
それは、裏を返せばグレンデールがハルトさんと敵対した時、この世界全ての精霊がグレンデールの敵になることを意味します。
そんなの、国を挙げてハルトさんたちを護るしかないじゃないですか。
グレンデールは星霊王様の加護を受け、同時に支配下に置かれたようなもの。そして、星霊王様はハルトさんの意見を聞くのです。
ハルトさんの意向がグレンデールという国の動向を左右する。つまりは国を
そして、今日。
ハルトさんが、三つめの国を手に入れました。
獣人の王国ベスティエの武神武闘会で優勝し、国の所有者となったのです。
王様ではありません。所有者です。
王様より立場が上なのです。
実際に今日、ハルトさんが、自分に代わって国を治めさせるための王様を任命するという場面を見ました。
ただ武神武闘会で優勝しただけでは、そこまでの権利は認められないでしょう。
しかし、ハルトさんはベスティエを襲った魔人を倒し、強力な呪いに侵されていた王様を救いました。
更に、武神武闘会での優勝。
ハルトさんは力を示したのです。
そしてハルトさんはこの国の運営は王様に任せ、所有権のみを欲しました。この国を庇護するという条件で。
このハルトさんの提案は、驚くほどすんなり獣人の皆様に受け入れられました。
こうしてハルトさんは、ベスティエという国を手に入れたのです。
それから、ハルトさんは同時にメルディさんも手に入れてしまいました。
メルディさんは可愛らしい猫獣人の女の子で、私のクラスメイトです。そして、ベスティエのお姫様でした。
ハルトさんは武闘会で優勝した際に、闘技台の上にメルディさんを呼び、会場に集まった数万人の獣人に対してこう言ったのです。
『メルディを貰っていく。文句がある奴は今ここに出てこい』
──と。
数万人いる獣人に対してですよ?
カッコよすぎですよ!
もし私が、メルディさんの立場だったら……。
多分、嬉しすぎて倒れちゃうと思います。
いいなぁ、って思います。憧れます。
リファさんの時もそうでした。
ハルトさんはアルヘイムを侵略戦争から守り抜き、救国の英雄となってリファさんを妻に迎え入れたのです。
私も──
でも、私はお姫様なんかじゃないです。
この世界には家族もいません。
そんな私が、ハルトさんの家族になるのなんて無理なんだろうなって思います。
自然と涙が出ました。
今はベスティエの王城にある客室にひとりでいるので、余計に寂しく感じます。
普段、クラスの皆さんと旅行したりする時は、大部屋で皆と寝るか、メルディさんと同じ部屋になって一緒に寝ていました。
でも、今日はメルディさんはハルトさんの所に行っているので、私はひとりです。今後はずっとひとりかもしれないと思うと、何だか胸が苦しくなります。
ダメですね、私。
メルディさんを祝福してあげなきゃいけないのに……。
こんな日は、早く寝てしまいましょう!
日記には『ハルトさんが武神武闘会で優勝して、ベスティエのオーナーになり、メルディさんを手に入れた! おめでとうございます』──そう書き込みました。
おやすみなさい。
また明日が、良い日になりますように。
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