第112話 勝者の褒美と王の任命

 

 武神武闘会で優勝した。


 結局、魔法を使いまくったし、果ては神獣であるシロを呼び出して二対一でレオを倒したわけだけど、会場は大いに盛り上がっていた。


 獣人族は高レベルの攻撃の応酬が見られれば、それだけで心が躍るのだと聞いていたので、そんなものかと半ば無理やり納得した。


 まぁ、レオは分身して八人になって攻めてきたしな。とすれば、俺はシロと二対八でレオに勝ったってことだ。そんなにズルはしてない──そう思うことにした。



 突然、俺のすぐ横に風が渦巻き、武神が現れた。


 武神の登場により、沸いていた会場が一瞬で静かになる。


「異国の者よ、良くやった。貴様はの強者であり、その武をここで示した」


 武神の言う真の意味とは、魔法でも何でも使って強いということだろう。


「貴様の武勇、この武神がしかと見届けた。今後、貴様が誰かに負けるその日まで、ここベスティエ獣人の王国における最強を名乗るがいい」


 武神の宣言により、円形闘技場を揺らさんばかりの歓声が巻き起こった。獣人が信仰する武神が俺を認めたことで、全ての獣人が俺をと認めてくれたのだ。


「しかし、まさかフェンリル様を従えていようとは……」


 ボソッと武神が呟いた。


 会場は大歓声が響いているので、聞き取れたのは側にいた俺だけだ。


 武神も今は神の一柱とはいえ、昔はただの獣人であり神獣フェンリルの眷属の一人だった。だからシロが俺に懐いている様子に驚いていた。


 餌付けしただけなんだけどな。


 当のシロはと言うと、レオが闘技台の外に倒れると直ぐに小さい姿に戻り、定位置俺の肩の上へとよじ登ってきていた。


「ハルト、約束だからな。帰ったらティナにカレーを作ってもらうんだぞ」


「あぁ、分かってる」


 シロとそんな会話をしていたら、闘技台の下が少し騒がしくなった。どうやらレオが起き上がったようだ。


 医療チームが慌てて引き留めようとするが、それを拒んでレオが闘技台の上まで上がってきた。


「ハルト殿……完敗です。最後の技は、とんでもない威力でした」


 いや、そのとんでもない威力の飛拳を八発受けて、こうしてすぐに立ち上がれる貴方も、とんでもないと思うのですが……。


「いえ、俺も貴方の分身には驚かされました」


 そう言いながらレオに手を差し出した。


 レオは握手に応じてくれた。

 手に触れたついでに、ヒールをかけておく。


「おぉ、かたじけない」


 レオのダメージは完全になくなった。

 俺が覇国で斬りつけた胸の傷も綺麗に消えている。



 レオが武神に対して頭を下げた。


「獣人王を任されていた俺が、武神様の前で無様な姿をお見せしました。申し訳ありません」


「気にするな。相手はフェンリル様を従えるほどのバケモノだ。正直、俺も勝てるか怪しい。お前は良くやったよ、見事な戦いだった」


「そ、それは……勿体ないお言葉」


 そう言ってチラっと俺を見たレオの顔は引き攣っていた。


 いやいや、さすがにまだ神には勝てないって!


 武神も本人を目の前にしてバケモノ呼ばわりはやめてほしい。



「さて、そろそろ締めるか」


 そう言って武神が息を吸い込んだ。


「皆、聞け!」


 沸いていた会場が、武神の大声で静かになった。俺もちょっとびっくりした。


「これより、武闘会覇者であるハルトが望みを伝える! 皆、できる限りその望みを叶えよ」


 えっ!?

 じ、自分で言う感じ?


 いや、さすがにこの大観衆に対して『メルディの肉球触りたい放題の権利が欲しい』なんて言えない……。


「さぁ、ハルトよ、望みを言え。それからお前はこの国の王となる権利も手に入れているが、それをどうするつもりかも話すがいい」


 そう武神に促された。


 ……仕方ない。腹を括ろう。

 俺は、とある決心をした。


 そして、自分の言葉が会場中に響くように風魔法を発動させる。武神のように大声を出す自信がないからな。


「獣人の皆、盛大な声援ありがとう。今回、俺が武神武闘会で優勝したわけだけど、俺はまだ子供で、国の運営なんてできないと思う。だから、この国の王にはならない」


 俺の宣言で、会場から落胆の声が上がる。


「王にはならないけど、俺はこの国の所有権を主張させてもらう。そして、その代価として、今後この国に訪れる災厄は全て俺が振り払う!」


 国の所有権が欲しいのは、ベスティエを歩いてて触り心地の良さそうな獣人を見つけたら、もふもふさせてほしいからだ。


 もちろん、強要はしない。


 我ながら無茶苦茶だと思う。


 でも、ここにいる獣人たちは嬉しそうだった。


「この国の王は引き続き、レオに任せたい。レオ、頼めるか?」


「お任せください」


 レオが俺の前に恭しく膝をついた。

 それとほぼ同時に、会場から割れんばかりの歓声が上がる。


 やはりレオは、王として国民に慕われていた。


 今後は魔法も使える獣人が増えることで、ベスティエはますます強国になっていくだろう。


 何せトップ国王が賢者なのだから。




「もう一つ、皆に言いたいことがある」


 俺の言葉に反応して、再び会場が静まった。


「メルディ、おいで」

「は、はいにゃ!」


 レオとの対戦で受けたダメージで気絶していたメルディだが、今は回復してティナたちと一緒に観客席で俺とレオの対戦を見ていた。


 そのメルディが、観客席から飛び出し、俺のもとへとやってきた。



「俺は武神武闘会で優勝した褒美として、この国の姫であるメルディを貰っていく。文句がある奴は、今ここに出てこい」


 会場は静寂に包まれた。

 誰も出てこようとはしない。


 隣にいるメルディを見る。

 顔を真っ赤にして俯いているが、尻尾は真っ直ぐピンと立っていた。


 次いで、彼女の父であるレオを見ると、レオは満足そうに笑顔で頷いてくれた。


「文句のある奴は居ないんだな?」


 再度確認する。

 会場は静かなままだった。


「メルディもいいか?」

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いしますにゃ」


 メルディも良いみたい。

 俺はメルディの肩を抱き寄せた。


「では、メルディを貰っていく」


 三度、大きな歓声が会場に響き渡る。

 この日一番の歓声かもしれない。



 ──こうして俺は十二歳の時に、獣人族の姫と、一つ目の国を手に入れた。

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