第106話 賢者 vs 象の獣人

 

 俺、リューシン、メルディ、そしてメルディの父レオは二回戦を突破した。


 メルディとリューシンも打撃や斬撃を飛ばせるので、それで相手を寄せ付けることもせず勝利した。


 レオは普通に戦いを楽しんでいた。

 ちょっと相手の獣人が可哀想だった。


 そして、三回戦に挑もうとしたのだが──



「ハルト殿、もしやその剣を使うつもりではあるまいな?」


 覇国の柄を持ち、抜刀の練習をしていたらレオに止められた。


「……ダメ?」


「本来、武器の使用は制限しておらんし、獣人ならば弓矢でも避けられる。また、剣など持たずとも我らの牙や爪はそこらの剣より斬れ味が良い」


「じゃあ、俺も剣使いたいんだけど」


 相手は剣を持ってるようなものなのに、俺だけ丸腰とか無理でしょ。


「ハルト殿が持っているのは、どう考えてもそこらにある剣ではない……あれか? この国の獣人を切り刻みたいのか?」


「大丈夫だって、峰打ちするから」


「いや、それ……両刃刀」


 その後、レオが渋るので仕方なく俺は木刀を借りて対戦に挑むことになった。


 覇国、ごめんよ。

 お前の出番はいつか作ってやるからな。


 借りた木刀は覇国ほどではないが軽くて、長さもちょうど良く、扱いやすかった。ただ、強度だけが心配だ。


 あの防御力の高そうな象の獣人に、全力で攻撃したら、折れちゃうんじゃないかな?


 久しぶりにをやるか。


 俺は木刀を持つ掌から魔力を放出した。


 木刀に神経を張り巡らせるようなイメージで、木刀にどんどん魔力を送り込む。


 木刀が柄から切先にかけて黒くなっていった。普通に木に魔力を送り込んでもはならない。


 緻密な魔力コントロールで木の繊維間を補強し、その強度を向上させているのだ。



 ただの木刀は、今やオリハルコンの剣すら叩き折ることが可能な刀となった。


 俺はこれを黒刀化と呼んでいる。


 ちなみに、木刀でなくても黒刀化は可能だ。例えば鉄の剣だったら、金属結合を補強するようなイメージで魔力を通すと黒刀化できた。


 正直、金属結合とかあんまり理解してないんだけど、やったらできちゃったので、あまり深いことは考えずたまに使ってる。


 どんな剣──いや、剣でなくとも、その辺に落ちてる木の棒ですら黒刀化すれば、破壊不能の最強の武器となる。


 覇国を手に入れる前は、これを使用することが多かった。


 魔力で木刀を補強しているわけだが、一度、黒刀化してしまえばその後、魔力を補充しなくても黒刀はずっと黒刀のままだ。


 ちなみに、一本の黒刀をつくるのに十万ぐらいの魔力を消費するので、俺以外だと個人で作れる人は居ないはず。



「こんなもんかな」


 完成した黒刀を振ってみる。


 うん、強度も大丈夫そうだ。

 久しぶりだったけど上手くできた。


「あの、ハルト殿。そ、それは?」


 レオが聞いてきた。


「魔法で強度を上げたんだ。特段、斬れ味が上がるってわけじゃないから、これならいいだろ?」


「う、うむ。まぁ、それなら……」


 レオも認めてくれたので、これでいこう。

 俺は闘技台の上に登った。



 象の獣人が既に闘技台の上で待っていて、俺に話しかけてきた。


「例の剣を置いてくれたこと、感謝する。アレを使われるのであれば、俺はこの戦い、棄権するつもりだった」


「そ、そうなんだ」


 アンチマジックスキンを持つような獣人なら覇国であっても刃を通さないんじゃないかな?



「手加減してもらったとは思わん。それほどまでに貴方と俺との間には力に差がある。全力で行かせてもらおう!」


 そう言って象の獣人は魔力を放出する。

 さすがに武神武闘会をここまで勝ち進んでくる獣人クラスになると、魔衣ができかけている。



「いざ、参る!」


 象の獣人が突進してきた。


 巨体が高速で向かってくる。

 まるで壁が迫ってくるようだ。



 ──と、言っても魔衣で肉体強化した俺が避けられないほどではない。


 俺は象の獣人の突進を横にズレて躱し、その右肩に黒刀を叩き込んだ。


「ぐわぁぁぁあ!!」


 象の獣人が、叫びながらゴロゴロ転がり、闘技台の下へと落ちていった。


「──えっ」


 そ、そんなに強く打ち込んだつもりではなかったんだけど……。


 よくよく考えたら、黒刀で悪魔や魔人以外を攻撃したことはなかった。ヒトに対してする攻撃じゃない威力で叩いちゃったのかも知れない。



 ……なんか、ごめん。

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