第107話 三回戦と準々決勝
勝利が確定したので、闘技台を降りて象の獣人のもとへ行く。
既に医療チームが象の獣人の周りを囲んでいた。
「こりゃあ、上腕骨と鎖骨から第二──いや、第四肋骨くらいまで粉砕されてるな」
「軽く叩かれた程度に見えたのだが……」
「と言うか、コイツが怪我をするなど信じられん」
白衣姿の医師たちが応急処置を施そうとする。
獣人は傷は治りが早く、そもそも防御力が高いので、そんなに大怪我をすることが無い。稀に大怪我をする獣人もいるが、それらはあっさり生を諦め、死んでしまうことが多い。
なので、この国の医療は遅れていた。治癒魔法の使い手も多くはない。そのせいで魔人襲来時は、多くの獣人が死の危機に瀕していた。
「大丈夫か? すまない、やり過ぎた」
「ぐっ、うぅ……い、いや、気にするな。もし例の剣の方を使われていたら今頃、俺はこの世にはいなかった」
象の獣人はそう言ってくれたが、顔色の悪い彼を見ると、やはり責任を感じてしまう。
「ヒール!」
俺は象の獣人に対して回復魔法を使用した。
骨折程度なら千回くらいヒールを重ねがけしとけば治るだろう。
「お、おぉ!」
担架に乗せられ、運ぶ準備をされていた象の獣人が起き上がる。
「なに!?」
「か、回復したのか? ヒール、だよな?」
「これが……異国の回復魔法か」
医師たちが驚いていた。
この大会で怪我をした全ての獣人を助ける義理はないが、少なくも俺が怪我をさせてしまった者は回復させようと考えていた。
その後、象の獣人に何度も礼を言われたが、そもそもやり過ぎた俺が悪く、お礼を言われるのも違う気がしたので、逃げるようにその場を後にした。
三回戦、第二試合が始まった。
対戦カードは獣王兵 vs 獣王兵だった。
うちひとりは俺たちを武の神殿に案内してくれた獣王兵だ。この国の最高戦力ふたりによる戦いで、実に白熱した戦いとなった。会場も沸いていた。
結果、俺たちを案内してくれた獣王兵が勝利した。彼が俺の次の対戦相手となる。
三回戦、第三試合は獣王兵と、王都の検問所にいた鹿の獣人の戦いだった。
草食系獣人で本戦まで来られたのは鹿の獣人だけで、しかも彼は二回戦で別の獣王兵を倒していたのだ。対戦を見てなかったので、どうやって勝ったのかは不明だが、シードになっていない獣人で現在、勝ち進んでいるのは彼だけだった。
対戦が始まった。
鹿の獣人が強い理由が分かった。
彼は魔法を使うのだ。
それもかなり発動スピードが早い。
恐らく、魔法系の職の獣人なのだろう。
彼は肉体強化魔法と、ほぼ完成された魔衣で身体能力を強化し、獣王兵を圧倒した。
リューシンが次の試合で勝てば、鹿の獣人と戦うことになる。
さて、そのリューシンだが三回戦、第四試合で狼の獣王兵と対戦した。
この狼の獣人は獣王兵の中でも最速の攻撃速度を誇ると言うが──
部分竜化を覚えたリューシンの敵ではなかった。リューシンは高速で繰り出される獣王兵の攻撃を全て、完璧に受け流してみせたのだ。
そして、攻撃を受け流されたことに獣王兵が驚いている隙にその足を払い、倒れた獣王兵の顔をめがけて拳を振り下ろす。
リューシンの拳は、狼の獣王兵の目前で止まっていた。それで、獣王兵が負けを認めた。
三回戦、第五試合。
メルディが獣王兵と対戦し、メルディが圧勝した。
対戦相手の獣王兵も弱くはなかった。
でも、魔衣を炎の鎧と化して、更に高度な武技を使うメルディはその遥か上をいっていた。
魔衣を炎の鎧にする魔法──これは俺が以前、メルディに一回だけ見せたことがある。
それを完璧に再現していた。
相変わらずメルディの戦闘センスには感心してしまう。
三回戦、第六試合と第七試合はどちらも獣王兵同士の戦いだった。
三回戦、第八試合は予選で
勝利したのは、レオだ。
不倒ノ的を斬り裂いた豹の獣人の剣を、なんと、その腕で受け止めたのだ。
皮膚すら斬れなかったことに驚いている豹の獣人に、レオの強烈な拳が叩き込まれ、彼は闘技台の外へと吹き飛ばされた。
武神武闘会の八強が決定した。
そして、準々決勝の対戦は──
俺 vs 獣王兵
鹿の獣人 vs リューシン
メルディ vs 獣王兵
獣王兵 vs レオ
となった。
まず、俺が獣王兵を魔衣で強化したパンチで吹き飛ばして勝利した。
続いて鹿の獣人が魔法を発動させるより早く、リューシンが彼に竜の爪を突き付けて勝利した。
メルディとレオも、対戦相手の獣王兵を圧倒して勝利した。
さて、ここからが本番だ。
獣王兵は一般的な獣人と比較するとかなり強いのだが、準決勝まで残った
多分、リューシンは俺に全力をまだ見せていないし、メルディは恐るべきバトルセンスがある。ふたりと戦うのであれば油断はできない。
俺が簡単に倒せた魔人に、苦戦したレオなら余裕かと言うと、そうでも無い。
俺はレオが纏う闘気を感じて、とある疑惑を持っていた。
もし、俺の予想が正しければ彼は──
なんにせよ、あと二勝でメルディの──いや、この国にいる猫獣人の肉球が触りたい放題というご褒美が待っている。ちょっとニヤニヤする。
よし、殺ろう!
──おっと、間違えた。
楽しみすぎて、ちょっと殺気が漏れた。
リューシンが身震いして、凄い勢いでこっちを振り返った。
メルディが泣きそうな表情で俺を見ながら震えている。
ごめんごめん。
大事な仲間を殺ったりしないから。
ちゃんと手加減はするから……ね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます