第104話 賢者 vs 猫の獣人兵
一回戦が全て終わった。
俺の周りの人たちはみんな二回戦からなので、特筆すべきことは無い。
今から二回戦が始まる。
まずは俺と、猫獣人の女性との対戦だ。
初めはどうやって手加減しようか、などと考えていたけど、一回戦の様子を見る限りそんな必要は無さそうだ。
それに、獣人相手に手加減をするというのは、相手を侮辱する行為に当たるらしいので全力で行かせてもらおう。
まず俺が闘技台に登る。
続いて猫の獣人、サリーがやってきた。
一回戦で、体格の良い熊の獣人を圧倒したせいか、サリーが登場した時の方が会場から大きな声援が上がった。
そりゃ、可愛い女の子が強い方が盛り上がるよな……。
少し、やりにくい。
「あの、全力で行かせてもらってもいいかにゃ?」
サリーが凄く申し訳なさそうに尋ねてきた。
身体の欠損を治してあげた俺に対して、全力で攻撃してくるというのは気が引けるのだろう。
でも、獣人たちはこの武神武闘会に人生をかけてる者も居るらしいので、悔いを残してほしくはない。
だから──
「あぁ、全力で構わない。もし、俺に一発でも攻撃を当てられたら、配下にしてあげるよ」
そんなことを言ってしまった。
サリーが全力を出せるようにしたかったとは言え、かなり挑発的な発言。
ちょっとやっちゃった感がある。
国で一番強い者を決める大会ということで、知らぬ間にテンションが上がっていたらしい。
調子に乗ったことを反省します。
でも、サリーは──
「ありがとうございますにゃ! このサリー、全身全霊をかけて戦わせてもらいますにゃ!」
そう言ってくれた。
サリーはあまり悪い気はしていないようで、ホッとする。心做しか、頬が赤くなっている。
さて、あんなことを言ってしまって負けたら恥ずかしいので、頑張ろう。
俺とサリーの対戦が始まった。
サリーはこちらの出方を窺っている。
──それは悪手だ。
俺は賢者なので、サリーとしては対戦の開始と同時に接近して、俺に魔法を使わせる間もなく攻撃してくるのが正解だった。
しかし、サリーは俺が魔人を倒したことを知っているが、俺が賢者であることは知らないので多分、警戒しての行動なのだろう。
いきなり来られないなら、こっちのものだ。
「ファイアランス!」
「──っ!?」
サリーが動揺する。
そして、会場もどよめいた。
俺が炎の騎士を出現させたからだ。
魔法が解禁されたとはいえ、一回戦で肉体強化以外の魔法を使い戦った者は居なかった。
さぁ、コイツを相手にどこまでできるかな?
俺は炎の騎士をサリーに突撃させた。
動揺していたサリーだったが、高速で向かってくる炎の騎士を見て、直ぐに気持ちを切替えたようだ。
炎の騎士の初撃を紙一重で躱す。
そして、熊の獣人にやったように高速で炎の騎士の側面に回り込み、ガードのない部分に拳を叩き込もうとする。
しかし、炎の騎士は魔法だ。
槍を突き出して攻撃が終わりなわけじゃない。
炎の騎士に拳を叩き込もうとするサリーに向かって、炎の騎士の身体の側面から第2の槍が飛び出した。
「くっ!?」
身体に当たる寸前のところで、サリーは強引に身体を捻って攻撃を避けた。
ほう、これを避けるのか。
正直これで決まると思っていた。
過去にリューシン達を襲った魔人、そいつを苦戦させた炎の騎士の攻撃を、サリーはその後も避け続けた。
その、サリーを観察していて、ちょっと気付いたことがある。
炎の騎士が攻撃に移る一瞬前に、サリーはどんな攻撃が来るのかを何らかの方法で察知しているようだった。そうでもなければ、炎の騎士の攻撃をここまで避け続けはできないだろう。
もしかしたら俺の兄、レオンの様に超直感などのスキルがあるのかもしれない。
んー、これじゃ埒があかないな。
申し訳ないけど、そろそろ終わらせよう。
サリーは炎の騎士の相手で精一杯で、まったく俺への警戒をしていなかった。
だから、俺はゆっくり準備ができた。
全身から魔力を放出して周囲の空間に溜めた。その魔力を魔衣として纏う。
よし、もう
俺は炎の騎士を消した。
急に敵が消えたことに驚き、続いて俺の存在を思い出したように俺を見たサリーの顔に絶望の色が浮かぶ。
俺が纏う膨大な魔力に気付いたからだ。
あるいは今後の未来を予測できてしまい、それから逃れられないと気付いたのだろう。
「ゴメンな、また次回、頑張ってくれ」
そう言って俺は拳を突き出した。
予選で不倒ノ的を吹き飛ばした攻撃だ。
ただ普通に殴るのではない。
魔力を固めた巨大な壁を押し出すイメージ。
今回の壁は縦五メートル、横十メートルぐらいのサイズがあるので、サリーに逃げ場はない。
サリーは壁に押され、綺麗に吹っ飛んだ。
しかし、さすがは猫の獣人。
吹っ飛ばされながらも空中で体勢を直し、しっかり足で着地した。
闘技台の外に。
武神武闘会では相手に負けを認めさせるか、闘技台の外に相手を落とせば勝ちとなる。
つまり、俺の勝利だ。
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