第103話 武神武闘会 本戦

 

 武神武闘会の予選を無事に通過した。

 もちろん、メルディとリューシンも。


 俺たちが変なやからに絡まれないよう護衛してくれていた獣王兵も、十人全員が的を大きく破壊し、本戦への進出を決めた。


 予選の最後に登場した獣人王は、軽々と的を吹き飛ばした。さすがだ。


 それ以外だと、的を破壊できたのは黒豹の獣人だけだった。残りは的へのダメージをどれくらい与えられたかで予選突破できるかどうかが決まる。


 そして、俺たちを含め五十人の本戦出場者が決定した。



 ──***──


 翌日


 これから、武神武闘会の本戦が始まる。


 本戦は一対一のトーナメント形式となっている。このトーナメントで優勝すれば、獣人の国ベスティエの王になれる。


 獣人以外、例えば俺とかが優勝しちゃったらどうするのかと思って、獣王兵に聞いてみた。


 俺が優勝したら王になってもいいらしい。ただ、王位を放棄してトーナメント上位に入った獣人などに王を任命しても良いとのこと。


 勝者こそが全てであり、その意向には国全体が異を唱えずに従うという。また、この国ができることであれば、武闘会の優勝者はどんなことでも望みを叶えられる。


 そういうことなら手加減なんか考えず、全力でやろう!


 ちょっと楽しみになった。


 俺の優勝賞品はメルディの肉球一日触り放題で!


 的を破壊できた者はシードになるようで、俺たちは二回戦から出ることになる。一回戦で自分の戦う相手の様子を見られるので、だいぶ有利になると思う。


 トーナメントのどこに入るのか決めるくじを引いた。そしておよそ十分後、対戦表が貼り出されたので確認しに行く。



 俺の対戦相手になる可能性があるのは──


 凄く身体の大きな熊の獣人か、『力を示せたら配下にしてほしい』と言ってきた猫の獣人だった。


 このふたりの勝った方が俺の対戦相手になる。


 女性を殴るのはちょっと嫌だなぁ。できれば熊の獣人が相手になれば良いなと思っていた。



 ──***──


 武神武闘会本戦の開会式が始まった。

 まず、獣人王が闘技台に上がる。


「私が不甲斐ないばかりに、多くの者を傷付けた。本当にすまない。幸い、異国の賢者が私を含め、多くの兵を救ってくれたが、この世を去った者も多い。その者たちに誓おう。私が再び王になった時はこの国を、魔人なんぞに負けぬ強国にすると!」


 力強い王の宣言に、円形闘技場を埋め尽くす数万の獣人が歓声を上げた。


「今ここに、武神武闘会の開会を宣言する!」


 会場から沸き起こる歓声が、より一層大きくなった。


 獣人王──いや、今はただのライオンの獣人で、メルディの父か。メルディの父の名前はレオと言うらしい。俺の兄の名に似ていた。


 そのメルディの父レオが闘技台を降りてくると、代わりに大臣の一人が闘技台に登っていった。



「では、武神武闘会のルールを改めて通達しよう。例年通り、武器の使用は可とする。また、武神様の定めた規則により、肉体強化以外の魔法の使用を──」


 《許可する》


 突然、頭に声が響いた。

 聞いたことのある声だ。


 闘技場に集まった全ての獣人にも声は聞こえたようだ。闘技台の上にいる大臣は意味がわからず狼狽えている。


 その大臣の近くに、風が渦巻く。



 風が消えると、そこにレオより身体の大きなライオンの獣人が立っていた。


 この世界の神の一柱──武神だ。


「武神様!?」


 大臣が慌てて膝をつく。


 武の神殿で顕現したのを無かったことにしたので、武神が神格に至って以来、この世界に顕現したのはこれが初めてということになる。


 しかし、武神が発する神性のオーラが、彼を神であると、その場に居る全ての者に理解させた。



「俺はかつて、己が持つ全ての力を活かして強者となれ。そして、その力で仲間を守れ──そう同族に言った」


 武神の力強い言葉が、会場に響き渡る。


「しかし、魔法を使える獣人が少なかったせいか、いつの間にか獣人は魔法禁止などというルールになっていた。だが、俺は魔法禁止などと言ったことはない。魔法を使って戦える者は使えばいい。魔法も獣人族の力の一部だからだ」


 この言葉を聞いて、メルディが涙を零した。


 自分の力を認めてもらえたと思ったのだろう。


「故に今ここで武神の名において、武闘会における魔法の使用を解禁する。その身に備える全ての力を用いて、最高の闘いを見せてくれることを期待する」


 武神はその言葉を最後に姿を消した。会場は静寂に包まれた。そして、会場にいる獣人たちの視線は闘技台の上の大臣に注がれる。


 大臣がレオを見た。

 それに応えるように、レオが頷く。



「武器の使用は可とする。また、武神様の定めた規則により魔法の使用も可とする」


 魔法の使用が許可された。


 武闘会で魔法を使えるように取り計らうと言った武神の約束が今、果たされたのだ。


 その後、会場は騒がしくなった。武神が顕現し、長年に渡って守られてきた武神武闘会のルールが改変されたのだから当然かもしれない。


 そして、会場にいる全ての者に対して、『魔法有りでなら不倒ノ的を倒せる自信のある者は居ないか?』という確認がなされた。


 本戦だけルールが改変されては不満が出る可能性があったからだ。結果としては、誰も名乗り出なかった。


 高速で魔法を発動させながら戦える獣人は珍しく、そもそもそんなことができる獣人であれば魔衣も強力なはずなので、予選を突破しているだろう。


 ちなみに、ルークが手を挙げようとしていたが、思い留まった。メルディとの一対一の戦闘訓練でボコボコにされたことを思い出したようだ。彼は魔法を発動させる前に、メルディに接近され、何もできずにひたすら殴られ続けたのだ。


 ルークの魔法の賢者見習いとして相応しいレベルだ。しかし、多彩さと、魔法の発動スピードという点で見ると、まだまだ改善の余地がある。もちろん本人もそれを理解していた。



 追加の参加希望者が居なかったので、本戦が開始されることになった。


 一回戦、第一試合は俺の対戦相手を決める、熊の獣人と猫の獣人の戦いだ。


 ちなみに、俺、リューシン、メルディ、元獣人王のレオはトーナメント表の四つの大きなブロックにバラバラに入れられた。


 予選で成績の良かった者──つまり、的の破壊率が大きかった四人は、準決勝まで対戦しないようになっているのだ。順当に勝ち上がれば俺とリューシン、メルディとレオが対戦することになる。


 まぁ、順当いけばって話だ。

 まずは初戦を勝たなくちゃ!


 でも、やっぱり女性を殴るのは気が引けるので、できれば熊の獣人が勝つといいな。



 ──そんなことを考えていたら、猫の獣人が勝利してしまった。


 彼女は強かった。

 圧倒的だった。


 熊の獣人の猛攻を軽々と躱し、ガードの空いた熊の獣人の脇腹に強烈な拳を叩き込んだのだ。


 その一撃で、熊の獣人は立てなくなった。


 ヤバい、女性だから直接殴らないようにしなきゃとか、色々言っていられないくらい強いかもしれない。

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