第97話 武神の真実

 

「ど、どういうことにゃ? 武神様の職業が魔法拳闘士!?」


「武神様の職は物理系最高峰の闘士であると、この神殿にある書物にも記録されています。それが……嘘であると言うのですか?」


 メルディと、獣王兵が信じられないという表情で武神に尋ねる。


「嘘か、嘘をついたつもりはなかったのだか……結果としてはそうだな、俺は闘士ではない。そもそも、俺は自分の職を誰かに伝えたことはない」


 武神は少し、言い辛そうに言葉を続けた。


「俺がこの国の王となった当時は、今よりも顕著に物理攻撃系至上主義があった。そんな中、私は魔法系への適性を持って生まれた。私の家族はそのことを隠し、私も生涯、自分の職を誰かに打ち明けることは無かった」


 昔のベスティエは、魔法系の適性を持って生まれた子を忌み嫌い、魔法を使い出すと家族ごと国外追放されることもあったという。


 ただ、獣人族の間ではステータスボードを他人に見せることは一般的ではなかった。


 真の力は他人に開示すべきではない。そして、力を示すなら拳で語り合え──というのが慣例だった。


 そのため、魔法系に適性が出ても公の場で魔法を使用しなければ、国を追われることは無かった。



「魔法への適性があったものの、俺の身体はどんどん逞しく成長した。そして、魔法を魔法と認識されないで使う方法を編み出し、魔法を使いながら戦うことで、この国最強となったのだ」


「ま、魔法を魔法と認識されない使い方!? そんなのがあるのですか?」


「ある。今、お前達が闘気と呼んでおるそれだ。闘気とは身体から溢れ出した無属性の魔力のことだ。俺はこの魔力を圧縮して身に纏うことで、肉体強化魔法だけでは成し得ない数々の偉業を達成した。これもそうだ──」


 そう言って武神は武神像の方に身体を向ける。その武神像の足元には炎が灯っていた。


 武神像が修復された時に、炎も元に戻っていたのだ。


 武神が、その炎へと拳を突き出した。


 拳から放たれたが高速で飛んでいく。


 そしてその魔力が、炎をかき消した。



「おぉ! こ、これが武神様が離れた敵を粉砕したと言われる飛拳ですか。本家を見られるとは……」


 獣王兵は感動でその身を震わせる。


 しかし、おかしい。

 武神は魔力を飛ばして炎を消したのだ。


 そんなこと、


「あまりの前で俺を持ち上げるな。今のはただ、魔力を固めて打ち出したに過ぎない。つまり、一種の魔法だ」


「えっ!? い、いや、しかし、魔検知の水晶は一切反応していません!」


 この神殿には、王都の検問にあった試練場のように、水晶玉が設置されていた。


 そして武神が魔力を飛ばした時、水晶玉は無反応だった。そのため獣王兵は、魔法が使われていないと判断したのだろう。


「魔検知の水晶は、無属性の魔力には反応しない。無属性とは言え、魔力を放出し、固めて打ち出しているので魔法というわけだ」


 なるほど、俺は魔視によって魔力が飛ばされたのに気付いたが、魔視が使えなければ拳を振った圧だけで離れた場所にある炎を消したように見える。



 ……あれ?


 ってことは、魔力飛ばして炎消しても良かったの?


 そんな疑問を持ったが、とりあえず今は武神の話を聞くことにした。


「俺はこの、魔力を固めて放ち遠方の敵をも粉砕する技で、かつての王座を得た。身体も逞しく成長し、ステータス上昇率にも恵まれたのも大きかった。しかし、一番の要因は魔法を使いこなせたことだ」


「じゃあ、なんでこの国で強者を決める闘いで魔法使用を禁止するってルール作ったのかにゃ?」


「そんなもの、俺は作ってない」


「「えっ!?」」


「そもそも王である俺が魔法を多用していたのだ。そんな掟つくるはずがない。俺が作ったのは──」


 武神が定めた掟は3つ。


 1.強者だけが志を貫ける

 2.強者は弱者を庇護すべし

 3.獣人は、その身に備える全ての能力を最大限に活かし強者となるべし


 1.と2.の掟は武神が王になるより以前からベスティエに存在していた。


 武神は3つ目の掟を新たに追加した。


 その身に備える全ての能力──には、もちろん魔力や魔法を扱う能力も含まれる。


 武神はいつか、自分のように魔法を使いこなして真の強者となる獣人が、この国で育つことを願っていた。


 獣人族の恵まれた種族ステータス。

 そこに魔法の補助が加われば、他種族を圧倒出来る能力を得られるのは至極当然であった。


 武神もそれに気付いたのだ。


 しかし、当時の国の思想としては物理攻撃系こそが至上であり、魔法を使うのは蔑まれた。


 魔法を活かして戦える獣人が生まれた時、その者が魔法を使うことで迫害されることが無いよう、全ての能力を使えという掟を追加したのだ。


 しかし、当時は魔法が使える獣人がほとんどいなかったため、獣人族の間で『全ての能力』の中に『魔法も含まれる』という認識がされなかったのだ。


 そして、その認識のまま現在まで来てしまった。


 武神は魔法禁止などと言ったことは一度もなかったが、武神が公に魔法を使うことなくこの世を去り神格化されたので、いつからか獣人族の間で『武神が魔法の使用を禁じた』という認識になっていった。



「……なら、武神武闘会で魔法つかってもいいのかにゃ?」


「あぁ、使え使え! なんだったら属性魔法だってバンバン使ってしまえ。俺だって邪竜と戦った時は仲間を皆逃がしてから、全力で聖属性魔法を使って奴を倒したんだからな」


 その言葉を聞いてメルディの顔はパァっと明るくなった。


 同時に獣王兵の表情は酷く複雑なものとなる。


「そんな……武神様の伝説、邪竜討伐が魔法によるものだったなんて」


「いや、仕方ないだろ。アイツどんな攻撃しても無限に復活してくるんだぞ!? 物理攻撃無効だぞ!? でも、聖拳ぶち込んだら一発だったからな。やっぱ魔法最高!!」


 筋骨隆々のライオン武神が、神殿の天井目掛けて笑顔で口から火を吐いてみせた。


 ……なんだろう、大分イメージからかけ離れてきている。


 ほら、獣王兵も困ってるし。



「そ、そうですか。で、ではハルト殿が炎を消したのも、実は魔力を飛ばして?」


「あっ、俺は──」

「それなんだよな。こいつ、ガチで拳を振った拳圧だけで炎を消しやがった……そんなこと、俺もできねーよ」


「「えっ!?」」


 お前、できないんかい!!



「無属性魔法で身体能力強化はしてたみたいだけど、それでも拳を振った風圧だけであんな離れた炎消すとか、化け物じゃねーの?」


 その言葉を聞いた獣王兵が、俺の方を見る。

 引き攣った表情をしてた。


 いや、俺も厳しいかなって思ってたんですよ。


 まぁ、やったらできたわけだけど。

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