第95話 兵の治癒と武の神殿
獣人王の呪いを解き、世界樹の葉で治癒を終えた後、俺は転移でグレンデールに戻った。
そして、クラスの皆を連れて再びベスティエに転移する。魔人の襲撃によって傷付いた国軍の兵士たちの治療を手伝ってもらうためだ。
襲撃があったのは既に一ヶ月ほど前のことで、亡くなった兵士三十二名の蘇生はできなかった。
それでもギリギリ命を繋ぎ止めていた兵士たちを救うことはできた。
リュカ、ティナ、俺が中心となって傷付いた兵をどんどん回復させていった。
やはり回復系の魔法でいうと、リュカの能力が飛び抜けている。
大きな欠損部位ですら瞬時に再生させてしまう。
途中から俺がヒールの重ねがけをするより、リュカのサポートをした方がいいと悟り、ひたすら彼女に魔力を渡し続けた。
結果、およそ半日で百五十人ほどの兵を回復させることができた。
リュカがかなり疲労していたので、エリクサーを渡す。
「ハルトさん、こ、これ……」
「薄めたエリクサーだよ。疲労回復の効果があるから飲んで。リュカ、今日は本当にお疲れ様」
「薄まってるとはいえエリクサーですよね? そんな貴重なものを私なんかに」
「でもリュカがいなければ助からなかった人も結構いたはずだよ。この一本じゃひとりしか救えないけど、リュカが居たから数十人を救えた。だからこれはリュカにあげる。今飲んでもいいし、取っておいてもいいから」
エリクサーの効果は、欠損部位の再生だけではない。
体力や魔力も最大値まで回復するし、疲労回復もできる。元が最上品質のエリクサーなので、十倍くらいに薄めても体力や魔力の全回復は可能だ。
リュカはリザレクションを使うのに大量の魔力を消費するので、究極の魔力回復薬として所持しておいて損は無いはず。
リュカをあてにして、原液のエリクサーは獣人王に全て使ってしまったので、彼女に渡せるのは薄めたやつしかなくて申し訳ないのだが。
「ありがとうございます。寝れば疲労は治るので、これは大切に取っておきますね」
そう言ってリュカは大事そうにエリクサーの小瓶を鞄にしまった。
また、シルフに世界樹の葉を貰って、エリクサーをいっぱい作っておこうと思った。
それから三日ほどが経過した。
武神武闘会まであと一週間。
炎の戦士と魔法なしで戦闘訓練した成果を見せる場になりそうだということで、リューシンも参加することになった。
かなりやる気だ。
それから、俺たちはベスティエで英雄扱いされるようになった。特に俺とリュカが。
俺は魔人を倒し、王を救った者。
リュカは傷付いた多くの兵を救った者として。
街を歩くと人々から食料やら、肌触りのいい毛皮やら、鋭い牙なんかを貰った。鋭い牙は加工すると切れ味の良い剣を作る素材になるらしい。
そういう何かくれるのは皆、俺たちが助けた国軍の兵士の家族だそうだ。
中には助けられなかった兵士の家族もいた。
「仇をとってくれてありがとう」
──そう、泣きながら感謝された。
何故もっと早く助けに来なかったのか、そう理不尽に怒られることもあると思っていた。
しかし、ベスティエでは強きものこそが正義であり、戦いに身を投じる者は常に死を覚悟している。その家族も同様に……。
だから、魔人に殺された兵の家族は、魔人に負けたという事実をただ受け止める。
最愛の家族を奪った魔人を恨まないわけではないが、その魔人を倒し、力を示した俺に恨みを言うような獣人はいないだろうと、王都を案内してくれている獣王兵が話してくれた。
彼は魔人の攻撃で左半身を大きく欠損し、俺がベスティエに来る前日に息を引き取っていた。
しかし、リュカの蘇生魔法によりその命を繋ぎとめたひとりで、今は俺たちの護衛兼、道案内役としてこうして王都を一緒に歩いている。
ティナを含め、クラスのみんなも全員一緒に行動している。
「この国で行くべき所として、武神様が祀られている神殿があるのですが、いかがでしょうか?」
「武神様ですか、まだ会ったことないですね。是非とも行きたいです」
「ははは、まるで武神様以外の神にはお会いしたことがあるような言い方ですね」
何言ってるんだ? と言わんばかりに、獣王兵に笑われた。
多分信じてもらえないだろうけど、俺はこの世界で二柱の神に会ったことがある。
海神と邪神だ。
邪神は言わずもがな、俺を殺してこの世界に転生させた張本人だ。しかし、転生させられて以来、一切の干渉はなかった。
そして、海神とは俺が八歳の時から仲良くしてもらってる。
初めて会った時に割とガチのバトルをして、それ以来お互いの力を認めた所謂、
伝承などによると武神は
だから格としては、俺の好敵手である海神の方が上だな──などと、よく分からない対抗意識を持っていた。
なんだかんだで、俺は海神が好きだった。
今度、久しぶりに遊びに行こう。
結婚して、家族が増えたって報告しなきゃ!
そんなことを考えているうちに、武神が祀られている神殿に着いた。
「おぉ、これは凄い」
思わず感嘆の声が漏れる。
岸壁をくり貫いて造られた巨大な神殿が建っていた。
「本来、獣人以外は神殿に入れないのですが、この国の王と我々を助けてくださった皆様は特別に、中へ入る許可が下りました」
へぇ、それはラッキーだ。
武神、出てきてくれるかな?
「うぅ、ここに来ると何だか背中がピリピリするにゃ」
普段、割とだらしないことが多いメルディが姿勢を正し、キビキビと歩いている。
猫系獣人が猫背じゃないと、ちょっと面白い歩き方になる。
獣王兵によると武神は、かつて圧倒的な力を誇った獣人の王が創造神に認められ、死後に神格へと至ったのだという。
つまり武神はメルディたち、獣人族の祖先なのだ。そんな武神に見られているので、
神殿の奥の方までやってきた。
正面に巨大なライオンの獣人の像があった。
これが武神の姿らしい。
今の獣人王に似ている気がする。
「あの……これは?」
気になったのは武神の像の足元に灯った炎と、その炎からこちらまで延びる十メートルほどの真っ直ぐな水路。
水路は周りから少し高くなっていて、その終わりには人がひとり、足を広げて立てるくらいの台座があった。
まるで
「この台座の上から、あの武神像のもとにある炎を消すことができれば、武神様が顕現してくださると言い伝えられています」
はい、予想通り!
「誰がやってもいいんですか?」
「構いません。しかし、魔法の使用はダメです。武神様はかつて、離れた場所にある炎をその拳圧だけで消し去ったと言われています。その言い伝えにあやかって、この神殿は造られているのです」
へえ、そうなんだ。
とりあえずやってみよう。
俺は魔衣を纏いながら、台座に上がった。
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