第87話 王女と魔法の暴走

 

 最後のひとり、メルディを呼びに来た。


「メルディ、入る──」

「チャーハンの匂いにゃ!」


 扉をノックしようとしたら、勢いよくメルディが飛び出してきた。


 さすが、獣人族。


 俺に付いた極僅かなチャーハンの匂いを、部屋の中から嗅ぎとったらしい。


「チャーハン、できたのかにゃ?」


「あ、あぁ」


 俺の執事姿を見ても何も言ってこない。

 こいつ、チャーハンにしか興味ないのか?


 まぁ、それならそれでいいか。

 そういえば、メルディは俺に執事姿になってほしいって望んでなかったしな。


「いっぱい作ったぞ。食堂、来れる?」

「今すぐ行くにゃ!」


 尻尾をピンと縦に伸ばすメルディを従えて、俺は食堂へ向かう。


 六人を呼びに行くだけで、かなりの時間を使ってしまった。


 しかも、集まったのは三人だけ。


 執事って大変だ。




 食堂に着くと、ティナとリファが席に座っていた。


「お待たせいたしました。今すぐ用意いたします」


「はい、お願いします」

「ふふ、ハルトさんに給仕してもらうのって新鮮ですね」

「ハルト、はやくはやくー!」


 メルディに急かされ、俺はキッチンへ。


 チャーハンと中華スープっぽいのを作っていたが、どちらもまだ盛り付けてない。


 俺はそれらを温めなおして、盛り付け、みんなの所へ運んだ。


 ちなみに、シロは既に食べ終わり、今は応接室で寝ている。


「一度冷めてしまったのを温め直したんですが……いかがですか?」


「うまいにゃ!」

「えぇ、美味しいです。ハルト様」

「私、この味好きです!」


 良かった。

 みんな喜んでくれた。


「ハルト、おかわり欲しいにゃ」


「はいはい。いっぱいあるからな」


 そう言ってメルディから皿を受け取り、チャーハンをつけに行く。


 今日の給仕は俺の仕事だ。


「はい、メルディ」

「ありがとにゃ!」


「ハルト様、ヨウコさんやマイさんたちはどうされたのですか? 既にご飯食べ始めちゃいましたけど……」


 メルディにおかわりの皿を渡すと、ティナが聞いてきた。


「皆様、疲れたようで、少し休んでいらっしゃいます」


 うん、嘘は言ってない。


「そうですか。ヨウコさんたち、接客を頑張ってくださいましたからね」


 ティナは信じてくれた。


「えぇ、お目覚めになりましたらお食事を用意します。ティナお嬢様、おかわりはいかがです?」


「欲しいです」

「あ、私もお願いします!」


「はい、かしこまりました」


 ティナとリファの皿を受け取って、おかわりをつぎに行く。



「──ん?」


 屋敷の呼び鈴が鳴らされた。

 サーシャが来たのかもしれない。


 俺はティナたちに食事を出して、玄関の方へ向かう。


 あっ、執事姿のままだ。


 まぁ、いっか。



「お待たせしま──えっ!?」


 玄関を開けると、そこには黒焦げの鎧を纏った、俺の兄カインが立っていた。


「ハ、ハルト……お前の魔法、ヤバすぎ」


 そう言ってカインは倒れた。


「えっ、ちょっと! 兄さん!?」


 鎧は真っ黒焦げだが、身体の怪我はあまり無さそうだ。

 だが、体力はかなり削られている。


 とりあえず回復魔法を重ねがけしてやる。



「……あの」


 倒れたカインの後ろに、この国の王の妹、サーシャが立っていた。


「サーシャ様、兄に何があったのですか?」


 カインがなった事情を知っているであろうサーシャに尋ねる。


「私は夕方、お城をこっそり抜け出してここに来ようとしていたのですが……カインさんが護衛のため、私についてきていたようなのです」


 多分、サーシャが城を抜け出したことにグレンデール王が気づいたのだろう。


 それで自身が一番信頼するカインに、その尾行と護衛を命じたのだ。


「私が王都を出た時、カイン様が私に話しかけてきました。私がそれに驚いてしまって──」


 そう言ってサーシャがブレスレットを見せてきた。俺がサーシャにあげたものだ。


 このブレスレットには俺の魔法、炎の騎士を入れていたのだが、それが無くなっている。


 つまり、炎の騎士がカインを敵と見なし、サーシャを守るためにカインに襲いかかったのだ。


 ちなみにカインは、炎の騎士を倒したらしい。


 あれを倒すとは……さすが、俺の兄だ。


 んー、やっぱり制御がまだまだ不完全だな。


 相手がカインだったから良かったものの、もし普通の盗賊だったら、今頃サーシャの目の前で惨殺されて、サーシャにトラウマを植え付けていたかもしれない。


「お、おい、ハルト。なんか、今、失礼なこと考えてなかったか?」


 カインが復活した。


「あ、兄さん気付いたんだ。身体は平気?」


「今は大丈夫。ハルトが回復魔法をかけてくれたんだろ? ありがとうな」


「良いよ、兄さんの火傷の原因は俺だしね」


「やっぱり、あれはお前の魔法だよな。てか、あれヤバくないか? 超直感スキル全開で、肉体強化魔法も使って全力の俺がギリギリ勝てるレベルって……」


 リューシン達が魔人に襲われた時、魔人は苦戦しながらも一体の炎の騎士を倒している。


 つまり、カインも魔人と同等の力を持っていることになる。


 この世界の人間としては十分、化け物クラスと言えるだろう。


「ちなみにハルト、お前はあの炎の騎士を同時に何体出せるんだ?」


「同時? 同時なら、十体かな」


「なっ!? あ、あれを十体だと!!?」


 出せるのは十体くらい。


 時間をかけてもいいなら、一万はいける。


 実際にアプリストスとの戦争の際にはそれくらいを創り出して、動かしていたのだから。


 また、一体一体がオートで動くので、明確な目的さえ持たせておけば、もっと大多数でも運用できるかもしれない。



「とりあえず、中へどうぞ」


 玄関で立ち話もなんなので、俺はサーシャを屋敷の中へ招く。


 カインは固まっていた。


「にーさーん、復活したら中に入ってきてね」


 俺はカインを玄関に放置し、サーシャを応接室まで案内することにした。



 サーシャ、チャーハン食べるかな?

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